悪には悪なりの美学がある
「お前ら!! 準備は良いな!? 怪物どもに好き勝手させんじゃねぇぞっ!」
「「「「「「ウスッ!!」」」」」
モンスターハザードの警報が鳴り響いた後、俺らシャドウスケルトン、いや元、だな。
姉御こと、女帝・アゲハにボッコボコにされた俺らは、ある約束をした。というかさせられた。
そのうちの一つが、族の解散だ。
「大樹君! 俺らも準備万端です!」
「おいコラ、俺の背中の刺繍が見えねぇのかゴラッ!?」
「え? えっと、女帝・アゲハ命っスか……?」
「……」
そうだった、背中は縫い直したんだった。
「間違えた。俺の腕の刺繍が見えねぇのか!?」
「あっ! そうでした! 死弩羅君!」
「そうだ、外ではそう呼べ馬鹿野郎」
俺のイカした名前、死弩羅。やっぱ族ってのは二つ名がねぇとなっ!
セントケルベロスの四天王のように!
「だい……死弩羅君、俺達、命令があればいつでもいけますっ!」
「「「「「……」」」」」
俺の前には、招集に応じた元シャドウスケルトンの奴らがいる。
こいつらは社会からはみ出た半端モンだ。
本人は真面目に生きているつもりでも、周りからは良い目で見られない。
そんな奴らでも、集まれば楽しかった。
なんでも出来る気がした。
はじきもん達で集まってシャドウスケルトンなんて族を作った。
けど、それは別に社会に対して悪さしようとか、そういうつもりで作ったわけじゃねぇ。
居場所のない奴らのたまり場として、ここでなら無理をしなくて良い居場所を作ってやりたかった。
けど、組織の運営には金がいる。金が無ければ食べもんも食えねぇし、バイクだって買えやしねぇ。
あと一番必要なのが、魔道具だった。
魔道具とは、ガーディアンの素質のない者のみが扱える、装備品だ。
ガーディアンや、素質がある者は特有の波長がでているらしく、魔道具はそれに反発する。
その為、魔道具を扱えるのは一般人のみ。
一般人でも強力な魔道具を持つ事が出来れば、ガーディアンに匹敵する力を手にする事ができる。
だからこそ、うちのメンバーに魔道具を配ってやりたかった。
その為には金が必要だった。
だから、あこぎな事にも手を出すようになった。
必要な犠牲だと目を背けてきた。
けど、それがついに神様に目をつけられたんだろう。
女帝・アゲハによって、俺らは完膚なきまでに叩き潰された。
「ふむ……お前、悪質な事をしているわりには、慕われているな? 話せ、どうしてこんな事をした?」
まるで心の奥を直接覗き込むかのような、透き通った色をした目。
俺は、全て赤裸々に話してしまった。
俺がシャドウスケルトンを作った理由も、何故金が必要だったのかも。
「そうか。ならば、今から話す私からの約束を守れ。そうすれば今まで集めた魔道具には手を出さんし、お前達も病院送りにはしないでやる」
「!!」
姉御は、俺らを責めなかった。
やり方がまずい事は理解していたが、他にどうしようもなかったという想いを汲んでくれたのかもしれない。
「守れよ、約束。帰るぞ湊」
そう言って弟である湊君と手をつなぎ、帰っていく姉御を見送る。
ちなみに姉御とは俺が勝手に思ってるだけである。あれで中一とか嘘だろう? 俺より四つも下とかそんな事ある?
「良いかお前ら。俺らは社会不適合者かもしれねぇ。けどよぉ、怪物達に俺らが住んでる場所を、滅茶苦茶にさせるわけにゃいかねぇ、そうだろ?」
「「「「「おおっ! 大樹君っ!」」」」」
「死弩羅だって言ってんだろ!? 少なくとも外では絶対そう呼べよ!? ……ゴホン。姉御、もとい女帝・アゲハとの約束もある。この街を守んぞ! 行くぞお前ぇらぁっ!!」
「「「「「おおおおおおっっっ! シャドウスケルトン万歳っ!!」」」」」
「元だっ! 元だかんなっ!」
バッド型の魔道具を手に持ち、倉庫から外へと出る。
避難は進んでいるはずだが、所々で怪物がいるせいで隠れて逃げられていない人達をみかける。
チッ……しゃーねぇ。
「おい、俺と腕に覚えのある奴らは怪物の相手をすっぞ。残りの奴らは逃げ遅れてる人達の救助に回れ。もう大丈夫って所まで逃がしたら、次に行け」
「「「「「ウス!!」」」」」
「よし、おらァァァァッ!!」
「ゴアッ!?」
怪物の後ろから、魔道具バッドを全力で振り抜く。
これは俺の力を数倍に引き上げてくれるバッドだ。
これで壁を殴れば壁を壊せるくらいには強くなる。
人を殴ればただではすまない、そんな魔道具。
だというのに、この怪物はピンピンとしてこっちを向きやがった。
「チッ……おいっ! そこの人! このバケモンがこっち向いてる間に、走れっ!」
「!! で、でも! 貴方はどう……」
「馬鹿野郎がっ! 他人の事を気にしてる場合かっ! 逃げろっ! お前が逃げたら、俺らも逃げるからよっ!」
「っ!! あり、ありがとうっ……!」
感謝しながら逃げていく人を、怪物を視界に収めながら見送る。
へっ……やっぱ、良い事すっと気持ち良いわ。
俺らみたいなはぐれモンでも、人様の役に立つ事ができるたぁな。
「グォォォッ!!」
「チッ……!?」
怪物の放つ攻撃をなんとか避け、バッドを当てるがダメージが入ってる様子はない。
それを数号繰り返していると、俺の息が上がり始めた。
タバコは吸わなかったんだけどな、体力がねぇなぁ俺は……。
「オォォォォッ!!」
「しまっ……」
疲労が膝に来た俺は態勢を崩してしまった。この一撃は避けられねぇだろう。
「危ない死弩羅君っ!」
「なっ……!?」
「がはっ……!」
「け、健吾ぉぉっ!?」
俺を守って怪物に吹き飛ばされた健吾の元へと体がよろめきながらも走り、半身を起こす。
やばい、かなり抉られたのか、傷が深く血が地面へと流れている。
「馬鹿野郎、どうして俺を庇った!?」
「ごふっ……へ、へへっ……お、俺、いっつも周りから馬鹿にされててさ……そんな時、死弩羅君……大樹君が仲間に誘ってくれて……嬉しかった、んだよね。だから、やりたくない事でも……大樹君が皆を大切にしてるのは知ってたから、やってき……ゴホッゴホッ!」
「健吾っ! 良いから、もうしゃべんなっ!」
「大樹君、は、絶対に、死なないで、くれ、よ……」
「健吾っ!? 治療魔道具持ってる奴居たよな!? 頼む、来てくれ!」
「もう来てますっ! 死弩羅君は前線に戻って! ここは私がやっておくから!」
「すまねぇ、頼む! こんのクソバケモンがぁぁぁっ! よくも俺のダチに手を出しやがったなぁぁぁぁっ!!」
頭に血が上った俺は、全力でバッドを振りまわす。
しかし、それでも怪物はびくともしない。
チクショウ、やっぱ無理なんか!? ガーディアンじゃねぇと、ダメなのかよ……!!
「良いぞ小僧、よく吠えた。その心地良い想いのこもった魂の叫び、私に届いたぞ」
「ゴフッ……!」
怪物が、一撃の元に粉微塵となる。
あ、あぁ……、やっぱ、かっけぇなぁ姉御は。
「姉御ぉっ!!」
「誰が姉御だ戯けっ! コホン。約束を守ろうとしたようだな、褒めてやるぞ大樹」
姉御が、俺の名前を、憶えて……!?
「怪物は私が相手をしてやる。お前達は逃げ遅れた人達の避難誘導、あと怪物を見つけたら私に知らせろ。大声で叫べば分かる」
「わ、分かりました! 聞いたなお前ら! 姉御に従え!」
「「「「「ウス!!」」」」」
姉御は、俺らみたいな社会のあぶれモンでも助けてくれた。
俺はこの恩を返さなきゃならねぇ。
まずは、姉御との約束を果たさねぇとな。
悪には悪なりの美学、筋ってモンがあるからな!
姉御と交わした約束は、何があっても破らねぇ!