世界なんて救いたくない
今から約300年前、西暦2800年頃、四月。
世界の至る所に異界へと通じる『ゲート』、通称『門』が出現した。
何の前触れもなく、突然現れたソレは、誰でも入る事が出来た。
『門』には数字が表記されてあった。
その数字が0になった時、『門』から出てきたのは、怪物達だった。
『モンスターハザード』と現在呼ばれている現象は、その『門』の中へと入り、その世界を構築している『コア』を破壊しなければ収まらないもの。
しかし『門』の出現と同時に特別な力を扱える者が世界中に現れた。
現代兵器が効きにくい怪物達を倒せる力を持つ者達。
『門の守護者』、通称『ガーディアン』。
彼らは特別な力を扱い、各地の怪物達を次々と無力化していった。
怪物達が『門』から出てくる前に制圧する為に、世界中で専門の機関が設立され、『ガーディアン』を養成する育成機関も設立された。
さて、何故こんな事を長々と思い出していたかと言うと、うちの両親がその機関で働いているお偉いさんで、今日私がその機関へとお呼ばれしたからだ。
俗物共に付き合う義理はないが、実の両親の要請とあれば話は変わる。
あの天使のような弟を生んでくれた方々だ。
礼儀を尽くさねば王が廃るであろう。
「ここか」
姫路市立ガーディアン養成学校。
中学生である13歳から入学できる、エリート校らしい。
上はおっさんおばさんまで在籍しているらしく、学校という名の機関である、と聞いた。
普通の学校の規模ではなく、約47,000平方メートルという広さ誇る、巨大な施設。
『門』の出現を察知し、それぞれの機関から部隊が選出され、『門』の鎮圧に向かうのが仕事なんだそうだ。
「『門』を放っておけば、世界が滅ぶわけだしな。その対策をするのは当たり前と言えば当たり前か」
そう独り言ちる。
ま、私には関係のない事だ。
『門』によっては、普通に他の異世界に通じる物も存在する。
時間の表記の無い『門』であり、こちらから開けなければ繋がらない世界。
いくつかの世界がこの世界とすでに繋がっており、人型の他の生物達もすでに存在しているし、この姫路市にもちょくちょく見かける。
話が逸れてしまったが、何故私が呼ばれたのかと言うとだ。
「あーげはちゃぁぁぁんっ! 来てくれたのねぇぇぇっ!」
「ぐぇっ……は、母上、ここ外、外であるぞ」
「そんなの関係ないわよぉぅ! アタシの揚羽ちゃんが来てくれたんだものぉ!」
この私より更に小さい(中学一年生の私より小柄なんだぞ)くせに、胸だけはやたら大きい母親は、天羽 千代。
絶対にそう見えないが、これでも三十一歳である。見えないけどな。
「い、良いから母上。それより、検査をもう一度受けるんだろう?」
「んもぅ、そんなのついでで良いのよぅ。中々会えない我が子とのスキンシップを止められるだろうか、否! 止められないっ!」
「ぐぇぇっ……」
力強く抱きしめてくる母上に、私はなすがままである。
こう見えて母上は、『ガーディアン』ランクURである。
おっと、まずはそのランクから説明せねばなるまい。
この世界を守る為の存在、通称『ガーディアン』だが、その実力は上から下までかなりの差がある。
『門』には時間制限があるが、被害を最小限にする為先にどの程度の怪物達が存在するか、調査に行く。
その難易度の見極めが、ガーディアンのランクだ。
この怪物達なら、このランク以上のガーディアンであれば解決できるという、一種の目安である。
一番下はF。なんでFなのかは知らん。
そしてE、D、C、B、A、Sと上がっていく。
大体がこのSまでの範囲のガーディアンに収まる。
しかし、稀にSでは収まらない、特別な力を持つ者達も存在する。
一人で世界征服すら可能な実力者達。
Sの上であるUR(Ultimate Rare)、そしてそんなURすら超えるLR(Legendary Rare)。
そして更にその上、測る事が不可能という意味で、GODというランクが存在する。
このGODランクは、この世界で一人しか居ない。
もう分かるかと思うが、このGODランクは私である。
前世悪魔の王である私が、神のランクとはシャレが過ぎると思うがな。
そして、私の両親がそれを隠してくれているのだ。
表向きの私のランクはS。
それでも規格外の評価ではあるのだが。
なんせ、まだ中学一年生であり、13歳の少女なのだから。
「揚羽ちゃんがどんなに凄くても、まだまだ幼くて可愛い女の子なんだからね。人生を世界の為に捧げる必要なんてないわぁ」
こういう人なのだ、母上は。
だから、私は従う事にしている。
世界なんて救いたいとは思わないしな。
どこかで誰かが不幸になっていたからといって、それが私に何の関係がある?
漫画の主人公も言っていたではないか、自分の手の届く範囲を守りたいと。
私はその範囲が極端に狭いだけの話。
大切な弟と母上とついでに父上が天命を迎えられれば、それで良いのだ。
「それでねぇ。今日揚羽ちゃんに来てもらったのはねぇ。揚羽ちゃんのSランクに納得のいってない馬鹿がいてねぇ。現役のSランクと勝負させろって五月蠅くてぇ……うちの揚羽ちゃんを舐めやがって……!」
「は、母上?」
「あっとぉ、ごめんねぇ。それでね、今日この施設にお偉いさんと一緒に見に来るからぁ、適当にブッ飛ばしてあげてほしいのぉ」
「分かりました。適当で良いんですね母上」
「うん! 適当で良いからねぇ」
そう笑顔で言う母上に、私も笑顔で応える。
母上をイライラさせる元凶は、私が潰してやろうではないか。