レッドゲート①
「落ち着いて聞いて欲しい。揚羽さんのお母さんが、レッドゲート攻略に向かい一週間が経ったが、連絡が無い。何事も無ければ五日から六日で帰ってくると想定していた。つまり……」
「分かった、スマホに座標を送っておけ。私が出る」
「……すまない、頼む。『門』の前で待機している者達には連絡を入れておく」
「ああ。あと、私の事はいつも通り隠せ」
「了解した」
言い難そうに言葉を濁す男へと返事を手早く済ませ、立ち上がる。
「姉さん?」
私の表情に気付いた弟が、心配そうにこちらを見る。
「少し出る。お前は大人しく帰りを待っていろ」
「……うん。無事に帰ってくるよね?」
手を震わせながらも、聞き分けの良い弟に微笑む。
「安心しろ、この私を殺せる者などこの世に存在しない。大船に乗ったつもりで居るが良い!」
「うん、姉さん。姉さんの好物を作って、待ってるね」
「おお! それはやる気も出るというものだ! 速攻で終わらせてくるぞっ!」
そう言い、窓から外へと飛び出す。
いちいちエスカレーターなどを使って降りていては時間が勿体ない。
「座標は……日本海付近か。かなり北だな、少し飛ばすか」
魔王の力を少し解放し、全速力でレッドゲートへと向かう。
無事でいてくれ母上。
同時刻・天羽 千代side
「はぁ……まさかこんな事になるなんて……」
今回のレッドゲートは、URランクの守護者が攻略に当たった。
しかし、制限時間が近づいても一向に攻略される気配が無く、残り十日にまで期限が迫っていた。
攻略失敗と断定し、新たな攻略者で『門』を攻略する運びとなった。
そこで白羽の矢が立ったのが、アタシだった。
現状、世界中でURランクはたったの十人。
Sランク一位はURランクに挑戦し、その順位を入れ替える事が可能となっているのだが、ここ十数年、ずっとSランク一位は変わらず、またURランクに彼は挑まない為、順位の変動が無かった。
否、彼は一度だけURランクに挑戦した。
しかし、ぼろ負けしたのだ。
それからは、ただの一度もURランクに挑戦をせず、ただひたすらSランク一位の座を守っていた。
彼が言うには、
『俺にすら勝てない者が、URランクの方々に挑むなど烏滸がましい。雑魚共の相手にURランクの方々の貴重な時間を費やす必要はございません。露払いは俺にお任せください』
との事。
その彼を叩きのめしたのはまだ十歳だった時のアタシだ。
彼はそれから、一度もURランクの者達に挑戦をしていない。
アタシとの戦いがトラウマになっているのではないか、と周りの者達が言うが、彼は否定している。
まぁ自分で言うのもなんだが、アタシは強い。
揚羽ちゃんにはとてもじゃないけど勝てる気がしないけれど、他の者には負ける気がしない。
重力操作。アタシの得意とする力の一つ。
大抵の生き物は、重力を倍増させるだけで身動きが取れなくなるし、それは怪物達も同じ。
敵の周りの重力を重くし、自身の周りの重力を軽くすれば、それだけで負け筋はない。
しかし、そんなアタシにも勝てない存在が居た。
「スキル無効の怪物……アタシの重力倍増が効かない。恐らく、先に挑んだURランクのガーディアンも、これにやられたのねぇ……」
目の前をミミズのように動きながら移動する、見た目はサンドワーム。
大きさはその十倍以上。
はっきり言って、スキルが通じない以上、アタシに勝ち目はない。
単純な力なんて、アタシはきっと小学生にだって負ける。
スキルの力があったから、アタシは戦えた。
今も、敵には効かないけれど、自身には効果がある為、重力軽減を使って逃げている最中だ。
入口付近をこのサンドワーム(名称が無いので仮称)が陣取っており、元の世界へと逃げる事も出来ない。
ただ、希望はある。
一週間経っても私からの連絡がなければ、揚羽ちゃんに連絡するように伝えてある。
揚羽ちゃんは、アタシなんかより……もっと言えば、この世界に三名しか存在しないLRランクのガーディアンより強いと確信している。
だからこそ、世界初のGODランクを作り、その存在はトップシークレットとした。
LRランクの方々が何か言ってくる事も想定していたのだが、意外にも誰も文句を言うどころか、それを認める旨が返ってきた時は驚いたけれど。
どんなに強くても、アタシの大切な娘。
本当はこんな所に連れてきたくはない。
だけど、きっと、揚羽ちゃんは。
アタシに何かあったら、あの辛そうな表情を見せる。
時折見せる、年齢にそぐわない悲しそうな表情。
辛そうで、今にも壊れてしまいそうな、そんな雰囲気をまとう我が子を、抱きしめずになんていられようか。
『母上……?』
『何があったかは聞かない。だけど、アタシは揚羽ちゃんの味方。それだけは、忘れないでねぇ』
『はは……。母上、ありがとう』
寂しそうな表情は、すぐに優しい笑顔へと変わった。
アタシは、揚羽ちゃんには笑っていて欲しい。
だからっ……アタシはこんな所で死ねないっ……!
「「グォォォォォッ……!」」
「なっ!?」
サンドワームが、二対!?
そんな、もう一匹隠れていたというの!?
「「フシュゥゥゥゥ!!」」
巨大なサンドワームに囲まれ、逃げ場を封じられる。
後は、その巨体が倒れてきたら、アタシは死ぬ。
隙間も無く、逃げ場も無い。
ごめんなさい、アナタ。揚羽ちゃんと湊を、頼みます……。
「「グギャァァァァァッ!?」」
「えっ!?」
「母上から離れろ、下種がっ!!」
目を瞑ったその時、怪物の悲鳴が聞こえて目を開ける。
するとそこには、怪物をアッパーで破裂させている、愛しの娘の姿があった。