たどり着いた部屋
執事のビル・家政婦のリンダに導かれる様に降り立ったガルシア家の18番目の屋敷。
そこで、クラッチ博士を待ち受けるものとは─!?
果たして、不可解な出来事とは─!?
─第4話─
執事のどうぞ!
と、導かれる手によって、先程リムジンから降りる時に見えた大きな洋館へと、歩を進めるクラッチ博士。
その大きさに圧倒されそうになりながらも、一瞬立ち止まると周りを見渡した。
実に、立派なものだな─
だが─
普段であれば全く縁のない、いわば場違いな場所へと来た事に、焦燥感を感じる人もいるだろう。
しかし─
そんな様子も微塵も見せず、私にはココに来るべき理由があるのだ!と、自らを納得させるや、堂々と前を行く執事の後を追った。
ガチャッ─
『おかえりなさいませ。』
その外見から覗いていた、とても良く作り込まれたステンドグラス調の大きな扉が開くと、大きなシャンデリアを携え、赤い絨毯の敷かれた大理石のロビーの両脇に10数名のメイド達が並び、いかにも統率の取れた様子で、客人としての帰宅の挨拶を受けた世界の嫌われ者。
右に左に、まるで見比べるかの様に、綺麗に並ぶメイド達の顔を1人1人確認する様に首を動かしながら、お洒落とは無縁の男を案内しながら前を行く、執事のビルに続いて歩く。
外観は古びた様にも見えた大きな洋館ではあったのだが、中に入ればそれ程古臭くもなく、壁に飾られた1枚1枚の絵も、クラッチ博士には到底理解は出来なかったのだが、世間では有名な画家が描いた絵らしかった。
きっと、凄いのだろうな─
階段の踊り場や、廊下の所々に配置された家具もアンティーク品である事は、疑い様がない。
しかし─
自らの手に、足に馴染む程に長年使い込んだ愛用品にこだわり、それらをこよなく愛するクラッチ博士からすれば、さぞかし高い物なのだろう…。
くらいにしか、思わない。
そんな世界の嫌われ者を、階段を昇った奥のとある部屋へと誘った執事のビル。
『こちらでございます。』
ふむ。
不可解な出来事とは何だろうか─?
部屋へと足を踏み入れると、さっきまでの廊下やロビーや階段とは違い、突然床がギーギーと鳴き始めた。
─!?
異様な程の違和感を感じ、何故か突然迫り来る恐怖に襲われ、思わずその1歩目で足を止め、部屋の中をキョロキョロと見渡す、世界の嫌われ者。
何かがおかしい─。
不意に顎に手を当てながら、感じた違和感の正体を確かめようとほんの一瞬考え込むと、後ろに立つ部屋を案内してくれた執事のビルへと向き直った。
が、そこに立つはずの執事はそこにはおらず、その目を疑った自称エクソシスト。
なぜだ─!?
確かに、いたはずだ─。
深呼吸をすると落ち着きを取り戻すかの様に、一旦目を閉じると、もう1度ゆっくり目を開けてみる。
『……さ…ま。クラッチ様!』
不意に呼ばれる声にハッとなり、突然我に帰ったかの様な驚いた様子を見せる世界の嫌われ者の肩に手を置きながら、
『大丈夫でございますか?』
と、声をかけ続けたであろう執事の心配そうな顔がそこにはあった。
クラッチ博士の顔を覗き込む様に、下から見上げた執事の肩ごしから、その様子を見ていた家政婦もまたホントに大丈夫なのだろうか?と、見るからに不安そうな顔をしていた。
不可解過ぎる─!!
周りの心配や自らの不安な気持ちとは裏腹に、口元には笑みがこぼれ始めた世界の嫌われ者。
『この部屋が、不可解な出来事の起こる部屋で間違いないですか?』
そう尋ねるクラッチ博士の質問を遮る様に、執事のビルは満面の笑みを浮かべると、
『いえ。貴方様のお部屋でございます。』
と、予想だにしなかった答えが返って来た。
私の部屋─?
その回答に戸惑い、聞き間違いかと執事と家政婦に聞くクラッチ博士ではあったが、貴方の耳は正常だから、心配しないで頂戴!と、家政婦に言われてしまった。
言われてから良く観察をしてみれば、部屋の中は今にも追い出されそうな、博士自慢のオンボロ事務所の内装に良く似ていた。
その自慢の事務所との決定的な違いとすれば、博士の長年の相棒や部下とも言うべき、長年付き合って来たいつもの古びた机や、体を何度となく預けて来た肘掛けの半分取れかかった椅子や、お気に入りのオイルマッチとセットで、わずかばかりの温もりを与えてくれるストーブが足りてない事くらいだろうか?
風が吹きすさぶ事も、足りないか─。
余分な考え事を頭の中でしながら、精巧に作り込まれた部屋の様子を見渡すと、何かを感じた様に突然振り返ったクラッチ博士。
まさか─。
その瞳は、家政婦を捉えて離さなかった。
18番目の屋敷へと入った、世界の嫌われ者。
だが─
そこには、自身の部屋が用意されており…
なんの為に─?
そして─
ある事を思い出した、クラッチ博士─
今後の展開を、お楽しみに─