新たなる旅立ち
差し出された名刺に書かれていたのは、名門家の名前!
接近して来た謎の女性は、実は依頼者だった─!?
果たして、その内容とは─
─第2話─
『で、相談と言うのは??』
クラッチ博士は、目の前の名門ガルシア家の家政婦に向き直ると、いつもの調子で丁寧に聞いた。
『こんな、青空の元で相談は、ちょっと…』
当然の反応ではある─
が、そんな家政婦の不安を断ち切る様に、クラッチ博士は満面の笑顔を見せながらも言葉を続ける。
『いやぁ、青空事務所と言うのもね、案外悪くないもんですよ。。』
ハハハと、苦し紛れの言い訳をする世界の嫌われ者に対し、事務所の入口の窓に大きく貼られた貼り紙を指差しながら、家政婦は無言の圧で訴えかけて来る。
目が笑っていない─
笑顔で顔を近づける家政婦のその様子を見ながら、世界の嫌われ者は圧に耐えかねる様子で、目を逸らし頭をポリポリとかいて机の上の万年筆を、指で遊ばせ始めた。
そんなクラッチ博士を見ながら、おもむろに家政婦が口を開いた。
『この、机や椅子は処分するご予定は??』
─!!
何も知らない人から見れば、粗大ゴミに見えるかもしれないが、家政婦の目の前に並ぶ古びた机や、肘掛けの半分取れかかった椅子や、わずかばかりの温もりをくれるストーブは、これまでの歴史を語る上では欠かせない、クラッチ博士の推理を支えて来た大事な相棒であり、大事な部下である。
そんな、大事な相棒達を馬鹿にされたと受け取ったクラッチ博士は、珍しくこめかみに血管を浮き出させながら、家政婦に再び向き直ると、
『この机や椅子は、処分はしませんよ?』
と、語気を強めながら語る。
当たり前である─。
処分など、してたまるものか!
クラッチ博士の、怒りに満ちた心情を汲み取ったらしい家政婦は、
『ならば、運ばせましょう。』
と、言葉を口にすると、5分で戻ります。
と、だけ告げると、通りの向こうへと1人歩いて行った。
運ばせる─?
家政婦の言葉に引っかかりを覚えたが、その立ち去る背中を見ながら、世界の嫌われ者は今後の事務所に関しても、考えていた。
現状では相談内容よりも、もしかしたら依頼を新たに受けれない事の方が問題である事は、自覚していた。
5分後─。
家政婦はクラッチ博士の前へと戻ると、
『迎えの手配を致しましたので、早々にお出掛けの準備をお願い致します。』
と、クラッチ博士の顔を見ながら、屈託のない笑顔で話し掛けた。
お出掛けの準備─?
家政婦が一瞬、何を言っているのかを理解出来なかった。
自称エクソシストは、キョトンとした顔で家政婦を見つめ直すと、
『出掛ける準備なら、もう既に出来ていますよ?』
と、帰国するまでの、およそ3ヶ月の時を共に過ごし、裾がくしゃくしゃになったスラックスと、ほとんどアイロンすら掛けない為に、襟元にまでシワの寄ったシャツ、フロントのボタンが1つと、右袖のボタンが2つ取れたジャケットを自慢気に見せつけながらも、左手には外側の革が剥がれ掛け、お気に入りで常に持ち歩いていた、書類や必要なノート類や荷物がたくさん詰まったバッグも持ち上げ、家政婦に告げる。
なんなら、これも─と、日焼けで変色をしかけた自慢のハットを見せつける様に、頭の上へ乗せて見せた。
そんな、オシャレとは全く無縁に見える世界の嫌われ者を蔑む様な目で見ながら、家政婦の顔は半ば呆れ返っていた。
『では、参りましょうか……。』
顔を少しばかり引きつらせながら明らかな落胆した声で答えると、家政婦の言っていた迎えが丁度2つ先の信号から、パン屋のある交差点の角をコチラに曲がって来るのが見えた。
これから一体、どこへ行くのだろうか─?
クラッチ博士は一瞬、自身の脳裏をかすめた不安を取り除けないまま、家政婦に導かれる形で、歩き始めていた。
依頼内容もわからぬままに、謎の女性・リンダに連れ出される形で歩き始めた、世界の嫌われ者・クラッチ博士。
果たしてどこへ行き、どの様な依頼をされるのか?
今後の展開を、お楽しみに─