【噂】はいつしか【力】を持つ。そんな物語。
「月が綺麗ですね。」
夜風が吹く浜辺で1人、海面の波を眺めていた私の耳に聞き覚えのない声が波音と共に鼓膜を震わせた。
さっきまでこの広い砂浜に誰もいなかったのに、いつの間にこんな近くに人が近付いていたのだろう。
「……………月ですか?」
海の波の満ち干きだけを眺めていた私は不意に空を見上げてしまった。
その瞬間ハッとした。月を見てはいけない。
そう聞いていたのに…………
聞いていた…否、そう話していたのを聞いていたが正しいのかもしれない。
教室で1人の私は、学校でこの頃噂されている怪談地味た話を聞いていたのだ。
満月の夜。誰もいない砂浜で……
【大凶のおみくじ】を握り締めて声を漏らさず、待ち続けると心からの友が現れるという。
教室でも家でもひとりぼっちの私には、1人でもいいと。そんな存在はいらないと…不必要に強がりながらも、心のどこかでずっと欲しがっていた存在。
どうせただの噂だと、馬鹿馬鹿しく思いながら……今実際私は【大凶のおみくじ】を握り締め、満月の夜の誰もいない砂浜でその人を待っていたのだ。
「……あっ………」
本当に人が現れたのに……声をかけてきたその人がその噂の人かはわからない。
ただ噂には続きがあり、満月を直接見てはいけないという決まりがあった。
何やら満月の力でその縁は呼び寄せられるが……
満月の力……引力はとても強く、その縁を吸われてしまうのだという。
そんなオカルト地味た話を本気にはしていなかったが、声が聞こえた時に本当だと信じていたのだ。
「お姉さん…大丈夫?」
あぁ……【また】ダメだった………………
かけられた声に生返事を返しながら、強く握っていた【大凶のおみくじ】をその場に捨てようとした。
その時………………
「もう、駄目だよ。」
そう聞き覚えのない声の持ち主は言い放ち、【大凶のおみくじ】を握っていた拳が開かない様に強い力で握られてしまった。
「僕で何人目?」
鼻で笑う様な声。
そう……この【噂】を試したのは………もう何度目かわからない。
握られた手に……冷たい体温が伝わってくる。
その冷たさに冷や汗が滲む………
ホンモノだ……と。