バクくんとウサギちゃんとオオカミくん
童話の投稿は初となりますが、よろしくお願いします。
東の湖のほとりに、のんびりやさんのバクくんは静かに暮らしていました。
今日も青空いっぱいで、鏡のような湖にうつったお空の白い雲が泳いでいます。
「春が近いなぁ」
草花と水のにおいが鼻をくすぐり、ポカポカの日差しと風が白黒のバクくんをそっと撫でました。
ズシズシ。静かでのどかな春の足音。きっとクマさんやリスくん達も目をさますころ。
(にぎやかになったら、みんなでピクニックをしよう)
新芽をかじりながら、バクくんは春のピクニックに胸をおどらせました。すると・・・・・・。
「えーん。バクくん、バクくん!」
目を真っ赤にしたウサギちゃんが、バクくんの背中に飛び付いてきました。
「どうしたのウサギちゃん」
バクくんの背中で、ウサギちゃんが震えながらワンワン泣いています。
「バクくんバクくん。聞いて聞いて! オオカミくんが私をいじめるの。大きなお口で追いかけてくるの。食べちゃうぞ~って、怖いの怖いの!」
それは困った。とバクくんはうなずきました。
「それは大変。いじめちゃダメってゾウおじさんにしかってもわらないと」
「うん。でもね、でもね。オオカミくんでもオオカミくんじゃないの」
ウサギちゃんが体をちぢめて続けました。
「夢の中のオオカミくんなの。だから、どうしたらいいのか分からないの。それで、ものしりフクロウさんに話したら、バクくんに食べてもらいなさいって」
バクくんは、何で僕に食べてもらうんだろう。と首をかしげました。
「バクくんは怖い夢を食べてくれるんでしょ?」
そうか、ボクは悪い夢を食べられるのかぁ。
のんびりやさんのバクくんは、ものしりフクロウさんの言うことならとウサギちゃんに言いました。
「いいよ。食べてあげる。でも、どうやって食べればいいのかな?」
バクくんとウサギちゃんは、首をかしげて考えました。するとそこへ、細くて長い足だけど、重い足取りでオオカミくんが森の中から近づいて来ました。
オオカミくんは目を腫らして鼻をすすっています。
「バクくんバクくん。ものしりフクロウさんに話しを聞いたよ。オレさまが夢でウサギちゃんをいじめたって。オレさま、オレさま。ウサギちゃんにひどいことしたって・・・・・・」
ひっく、ひっくとしゃっくりしながら、オオカミくんが目に涙を浮かべました。
「オオカミくんオオカミくん。キミは悪くないよ。夢の中のオオカミくんはきっとオオカミくんに化けた悪い夢なんだ。悪い夢がオオカミくんのせいにしようとしてるんだ」
精一杯オオカミくんをはげまし、バクくんはウサギちゃんに言いました。
「ウサギちゃん。悪い夢は悪い夢だから、オオカミくんのせいにしてはいけないよ」
ゆっくり、やさしく、のんびりと。バクくんが長い鼻でウサギちゃんを撫でました。
「うん・・・うん。オオカミくんは悪くないよ。悪い夢のオオカミくんがいけないの」
うつむきながら、ウサギちゃんがオオカミくんに「ゴメンね」をしました。
それを聞いたオオカミくんは、目を見開いてうれしそうにワオワオとバクくんとウサギちゃんの周りをかけながら、しっぽをふりました。
「じゃあ、悪い夢を食べて食べて、バクくん食べて」
ウサギちゃんもオオカミくんに並んでバクくんの周りをクルクル回り始めます。
しかし、バクくんは、困ったなぁ。とお空を眺めました。
バクくんは夢を食べたことがありません。
ですが、こんなにはしゃいで期待してくれるなんて、とてもバクくんはうれしくなってしまいます。
「ウサギちゃんウサギちゃん。それじゃぁお昼寝してみよう。お昼寝したら夢を見るでしょ。そうしたら、雲みたいに夢が浮いてくるかもしれないから食べてあげるよ」
バクくんのひらめきに、ウサギちゃんが応えました。
「わぁ。ワタアメみたいね。悪い夢ならドンドン食べていっぱい食べて」
そう言うと、ウサギちゃんはおなかをお空に向けて寝転びました。
「いいなぁウサギちゃん。オレさまも怖い夢を食べてほしいぜ」
オオカミくんは少しうらやましそうにほほをかきました。
「オオカミくんはまたべつの日にね」
残念ながら、そんなに食べてはきっとバクくんはおなかをこわしてしまいます。
オオカミくんは少し考えました。
「そうだな。ウサギちゃんの悪い夢をやっつけたら、オレさまの怖い夢も食べてくれ。約束だぞ!」
「えええ!? オオカミくんも怖い夢見るの?」
バクくんは驚きました。いつも少しいばりんぼなオオカミくん。そんなオオカミくんが怖い夢を見るなんて考えたこともありません。
オオカミくんは両手を大きなお口でおおいます。すると、顔を真っ赤にして「約束だぞ!」ともう一度言うと、そのまま森の中へ走って行きました。
「オオカミくんの怖い夢って何だろ?」
大きな「?」を浮かべながら、横で寝そべるウサギちゃんに聞きました。ですが、クークーと、ウサギちゃんは眠っていました。
微かな草花と水のにおい。暖かな日差し、青い空と流れる白い雲。こんなにいいお昼寝日よりに悪い夢を見るなんてできるのでしょうか?
バクくんは考えました。悪い夢は食べちゃうけど、楽しい夢はどうしたら良いんだろ。
楽しい夢を食べるわけにはいきません。だって、その人にとって大切な思い出になるかもしれないから。
「うーん。うーん。悪い夢って食べても大丈夫なのかな?」
バクくんは、お空にながれる雲に聞きました。
「雲さん雲さん。ボクのお話聞いてくれるかな? 雲さんは良い夢なの?」
ですが、雲は答えてくれません。
クークー、クークー、ウサギちゃんは眠ったまんま。夢はぜんぜん浮かんできません。
「こまったなぁ。どうしよう」
雲さんに自分の声が聞こえないのかも知れない。
ふと、そんな考えが浮かんで、今度はバクくんは湖にうつった雲にたずねます。
「雲さん雲さん。雲さんは良い夢なの?」
すると、湖の水面がゆれて声が聞こえました。
「良い夢とはどんな夢なのかね?」
「ボクたちは良い夢でも悪い夢でもないよ」
「みんなの心が浮かべてくれる、お空にながしてくれるんだ」
声は一人や二人じゃありません。湖にながれる雲一つ一つが応えてくれます。
「やさしいバクくん。一つだけ教えてあげる。」
「夢はおきている人には見えないんだ。だから、夢の中で食べてあげなくちゃ」
「ウサギちゃんが見た夢って本当に怖い夢だったのかな?」
「オオカミくんってそんなにイジワルなのかな?」
その言葉に、バクくんはハッとしました。何かがわかった気がします。
クークー寝息を立てているウサギちゃん。でも間もなく、そんなウサギちゃんが少し顔をゆがめました。クークーがうーんうーん。になったのです。
「どうしよう。夢が上がらない」
悪い夢を見ているのかもしれない。バクくんは心配でたまりません。
『夢は他の人には見えない』さっき雲の一人が教えてくれた言葉。
「じゃあ、夢を一緒に見よう。そうしたら、夢を食べてあげられるかも」
バクくんはちょっと怖いなと思いながら、ウサギちゃんのとなりで眠りました。
まっくらなトンネルを抜けると、そこはいつもの森の中。
みどりが生い茂り、のっぽな木々が日の光をさえぎって体がふるえてしまいます。
「ウサギちゃーん。ウサギちゃーん!」
バクくんはウサギちゃんを呼びました。しかし、返事はかえって来ません。
「どこにいるんだろう」と、バクくんはゆっくり森を歩きます。
ぬき足、さし足、しのび足。ちょっと怖くても、ウサギちゃんを見つけなければなりません。
「どうしたのかなバクくん?」
ふと、声がした方向へ顔を上げると、大きなクスノ木の枝に、ものしりフクロウさんがバクくんを見下ろしていました。
「ものしりフクロウさん。ここは夢の中なのかな?」
見知った顔ですが、バクくんはおそるおそる聞きました。
「そうだとも。夢は夢でしかないが、夢の中ではそれは現実のように見えるものだ」
ツンとクチバシを上げ、得意そうにものしりフクロウさんは答えました。
「じゃあ、ウサギちゃんを知らない? ボク、ウサギちゃんの夢を食べてあげるって約束したんだ」
バクくんはちょっとだけ、あせる気持ちがわいてきました。
「ホウホウ。バクくんがあせっているなんてめずらしいな。私はフクロウ。目は良いぞ。どれどれ、ウサギちゃんはどこにいる」
大きな目を細めたものしりフクロウさんが、森の奥をのぞき込みました。
「おやま。大変だ。オオカミくんがウサギちゃんを追いかけているぞ」
「えー!」
驚いたバクくんは、ものしりフクロウさんが見る先へ足を向けました。
「ちょっと待ちなさいバクくん」
ものしりフクロウさんが声をかけてきました。はやる気持ちを抑え、バクくんは急ブレーキ。ものしりフクロウさんを見上げ「どうしたの?」と聞きました。
「バクくんは、夢を食べに来たのかな?」
「うん。そうだよ。悪い夢はボクが食べちゃうんだ。ウサギちゃんにバクは夢が食べられるって言ったのは、ものしりフクロウさんでしょ?」
「うむ。たしかに私は言った。でも、本当に悪い夢かどうかはちゃんとバクくんが見てあげなさい。ホウホウホウ」
そう言うと、ものしりフクロウさんは大きなハネを広げて、ウサギちゃんとは逆の方向へと飛んで行きました。
「ものしりフクロウさん。何が言いたかったんだろう」
ますます『?』が浮かびます。しかし、止まっている訳にはいきません。
バクくんは、ウサギちゃんのいる方向へ歩き出しました。
「いやぁぁ! やめてぇ! たすけてぇぇ!」
そこは、森の中の広場でした。木々が広場をさけるように生えているので日の光がいっぱいの日だまりです。
草花も生い茂って気持ちよさそうなのに、ウサギちゃんがオオカミくんに追い回されています。
「ガオーガオー!」
オオカミくんが大きな口を開いて低い声でほえ、そこから見せるギラリと光る牙、前へ後ろへ走る鋭い爪、何ともおそろしい光景です。
それを見たバクくんは、慌てて広場へ飛び出しました。
「ダメだよオオカミくん! ウサギちゃんをイジメちゃダメだよ!」
大きな声でオオカミくんに言いました。けれども、オオカミくんは止まってくれません。
急いでオオカミくんのあとを追いかけますが、足の遅いバクくんでは追いつけません。
「助けてバクくん。オオカミくんを食べちゃって!」
ウサギちゃんが叫びました。ですが、食べるにしてもオオカミくんの大きな口が恐ろしくて前に出ることができません。
ただ、追われているウサギちゃんと追っているオオカミくんを目で追うのがやっとでした。
「どうしよう。どうしよう」
どうすれば良いのか分からず頭がいっぱいです。ですが、ふと気がつきました。オオカミくんが目を真っ赤にして泣いています。よく見ると口を開いたまま、泣きながらウサギちゃんを追いかけているのです。
「もしかして!」
バクくんは思いっきり地面をけって、広場をグルグル回るウサギちゃんとオオカミくんのあいだに飛び込みました。
「オオカミくん!ストップー!」
急に目の前に立ったバクくんに、オオカミくんはびっくりぎょうてん。口を開いたまま、バクくんの目の前でようやく止まりました。
「うう・・・うううう・・・・・・」
大粒の涙をながしながら、オオカミくんは鼻をすすっています。
「ちょっとお口見せて」とバクくん。
すると、オオカミくんがゆっくりと口を近づけました。
バクくんは、そっと口の中をのぞき込みます。
「あー! やっぱりあったぁ!」
思わずオオカミくんの口に手を入れ、バクくんはそれを引き抜きました。
それは、大きな大きな白い一本のホネでした。
「コレがささっていたのを取ってもらいたかったんだね」
バクくんがオオカミくんにホネを見せました。
「ああ、バクくんありがとう。みんなオレさまを怖がって、ホネを取ってくれなかったんだ。口もとじれないし、うまくしゃべれなくて・・・・・・・うう・・・・・・」
今度はうれしさで、オオカミくんは泣いてしまいました。
「そうだったの。ゴメンね気づいてあげられなくて」
全てを知ったウサギちゃんが、オオカミくんにおじぎをしました。
「いいよウサギちゃん。オレさまもこわがらせてゴメンね」
涙をながしながら、オオカミくんがウサギちゃんのおでこをなでました。
「バクくんバクくん。コレって、悪い夢じゃなかったのかな?」
ウサギちゃんにたずねられ、バクくんも少し困りました。
「悪い夢じゃなくて、オオカミくんが困った夢だったんじゃないかな?」
「困った夢・・・・・・」
少し考えたあと、ウサギちゃんが言いました。
「バクくん。あたしの夢、食べなくていいや。だって、こんなにオオカミくんがうれしそうなんだもん」
ホネが抜けてうれしそうなオオカミくんを見て、バクくんも心が暖まりました。
「そうだね。コレはきっと、オオカミくんの怖い夢だったんだ」
そうつぶやくと、目の前には青い空が広がっていました。
目がさめた。そう気がついたとき、ウサギちゃんも目を開けました。
「おはようバクくん」
元気なウサギちゃんの声に、バクくんはうれしくなりました。
「ウサギちゃん。オオカミくんに会いに行こう」
バクくんがそう言うと、ウサギちゃんは「うん!」と大きくうなずいて、二人は並んで森の中へかけて行きました。
前述の通り童話の投稿は初めてになりますが、続編もぼんやりと浮かんでいます。
ご意見、ご感想をお待ちしております。
バクくんはのんびり屋さんですが根性ある子です。