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投資
ペンを買った
万年筆は少し値が張るくらいがいい
手帳を買った
革張りの表紙 背伸びして気に入る方にする
いつか未来にこの部屋が
大切で埋まっていたらいい
僕は、価値のあるものを集めてる
枯葉落ちてひとつ笑った
空の冷蔵庫 菓子パンに嚙みついた
不釣り合いなコラージュみたいだ
この部屋の中で僕だけが
画風が違うみたいだ
8年着た部屋着 100円ライター 減らない香水瓶
僕の全身消耗品でできてるくせに
すべてを大切にするほど豊かなわけがない
大切にしてるんだ
「僕」以外の「僕のもの」を
本を売った
狭い部屋にはベッドを置くスペースが要る
時間を売った
あなたのために少しお金が欲しかった
ずっと未来もこの部屋で
大切に埋もれて生きていたい
僕には、価値のあるものがわかるんだ
花芽吹いてひとつ笑った
鏡の水垢 骨の折れた傘
等しく青に染まったようだ
この部屋の中で僕までも
一枚の絵画みたいだ
頭蓋骨の片側にしか目がついてない不幸に
「どこにも行かないで」なんて権利もないくせに
「こんなもんでいいだろう」が透けたに違いない
大切にできないんだ
「僕のもの」以外の「僕」を




