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夏の幽霊
『ゲームブック「夏」』より
木陰の緑が濃いとか
吹く風が温いとか
そんな午後の中で
小説を読んでる
縁側の朝顔
もう下を向いて
隣の部屋で
電話が鳴ってる
変だな、夏が 終わらないんだ
夏の幽霊になって
あの日の風景になって
瓶のラムネ一つで
ずっと胸が痛いような
青は遠景に消えて
空が宇宙と溶けてる
繰り返すまま
夕になっていく
向日葵の背が高いとか
まだバスが来ないとか
蝉の鳴く田舎道
夜祭を待ってる
鳥居越しの花火
水面の蛍
いつか行ったあの
無人駅を想う
そうだよ、夏は 終わらないんだ
君は幽霊になって
あの日の風景のままで
消える花のせいで
ずっと胸が痛いような
藍の絵の中に棲んで
空は透明に澄んでる
繰り返すまま
朝を待っている