表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/78

女の子と男の子とスカートとズボン。

 Y先生はちょっと困ったような悲しそうな(さび)しそうな顔をして、龍の質問にすぐに返事をしてくれなかった。だから龍はズボンを引っ張ったまま、


「彼女っていうのは、女の人って事ですよね?」


 もう一回(たず)ねた。目玉はズボンの中とY先生の間を行ったり来たりしている。


「女の子だけど、男の子の服を着ているの」


 Y先生はにっこりと笑った。

 女子が男物を着たって変じゃない、と、龍は思っている。

 そもそも女の子だってスカートよりズボンを来た方が、動いたときにめくれたり足に(から)まったりしないから、ずっと便利なんじゃないかという気がする。


『なんでスカートなんていうヒラヒラする洋服(ヨーフク)があるんだろう?』


 とも思ったりする。


 例えば、龍のクラスでずっと学級委員長(イインチョー)に選ばれてる女子は、入学式にスカートで出た以外は、ほとんどズボンをはいている気がする。

 あるとき、別の学年の先生が、その子に「スカートをはかない理由」を聞いた。

 なんでそんなことを聞く必要があるのか、龍にはわからなかったけれど、ともかく学級委員長(イインチョー)は、


「わたし、ちっちやいころからお腹が弱いんです。スカートだと下から風がスースー入って、お腹が冷えて、すぐお手洗いに行きたくなっちゃうから、ダメなんです」


 と説明した。龍は


『そういうことだってあるよね』


 と思ったけれど、実際にそれが「彼女がスカートをはかない本当の理由」なのかどうか、それもわからない。

 学級委員長(イインチョー)には二つぐらい年上のお兄さんがいる。だから学級委員長(イインチョー)が学校へはいてくる「男物のズボン」は大体お兄さんのお下がりだ。

 お古ズボンだけれど、学級委員長(イインチョー)は可愛い柄の(ひざ)当てを貼り付けたり、お尻のポケットのふちにリボンとかバイアステープとかチロリアンテープとかを()いつけたりしている。そういうふうに自分で改造(カイゾー)しているんだそうだ。(すね)の方にひよこや花の刺繍(ししゅう)があるヤツもあって、それは


「すり切れて穴が開きそうだったから、補修(ほしゅう)可愛(カワイ)さを両立(リョーリツ)させるために」


 可愛い形を考えながら()っているのだと、楽しそうに言う。


 つまり、学級委員長(イインチョー)は女の子っぽいかわいいものが嫌いなわけじゃない。

 新品を買うときだって、女の子用のズボンは選ばないとも言っていた。

 最初から女の子用に仕立ててあるズボンは色も模様もデザインもとてもかわいらしいけれど、はきなれた男の子用のズボンと違って、


「なんだかお尻のあたりが落ち着かない」


 ということらしい。

 龍は学級委員長(イインチョー)がズボンをはくことがオカシイと思ったことは一度だってない。服は自分が気に入ったものを着ればいいと思う。

 でも、下着はどうなんだろう。学級委員長(イインチョー)は下着まで男物にしてるとは言わないけれど、確認するわけにもいかない。

 でも学級委員長(イインチョー)の言うとおりになんでも着なれた物の方がいいのだとしたら、上着でも下着でも着なれてしまえばそっちのが良いって事になるのかもしれない。


『僕にお姉さんがいたら、もしかしてお下がりのスカートをはいたかもしれない』


 龍はなんだか急に(また)のあたりがスースーするような気がした。お尻にぎゅっと力を入れれば我慢(がまん)できるんじゃないかと思ったので、お尻に力を入れたら、全身の筋肉にもぎゅっと力が入ってしまった。

 (ほっぺた)の肉がぴくりと引きつった彼の様子を見て、Y先生はまた。ちょっと困ったような悲しそうな(さび)しそうな顔をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 龍くん、女性の服の多様性も学んだようですね。女性の服はまた、いろいろなものがありますからね…。
2023/06/26 06:59 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ