女の子と男の子とスカートとズボン。
Y先生はちょっと困ったような悲しそうな寂しそうな顔をして、龍の質問にすぐに返事をしてくれなかった。だから龍はズボンを引っ張ったまま、
「彼女っていうのは、女の人って事ですよね?」
もう一回訊ねた。目玉はズボンの中とY先生の間を行ったり来たりしている。
「女の子だけど、男の子の服を着ているの」
Y先生はにっこりと笑った。
女子が男物を着たって変じゃない、と、龍は思っている。
そもそも女の子だってスカートよりズボンを来た方が、動いたときにめくれたり足に絡まったりしないから、ずっと便利なんじゃないかという気がする。
『なんでスカートなんていうヒラヒラする洋服があるんだろう?』
とも思ったりする。
例えば、龍のクラスでずっと学級委員長に選ばれてる女子は、入学式にスカートで出た以外は、ほとんどズボンをはいている気がする。
あるとき、別の学年の先生が、その子に「スカートをはかない理由」を聞いた。
なんでそんなことを聞く必要があるのか、龍にはわからなかったけれど、ともかく学級委員長は、
「わたし、ちっちやいころからお腹が弱いんです。スカートだと下から風がスースー入って、お腹が冷えて、すぐお手洗いに行きたくなっちゃうから、ダメなんです」
と説明した。龍は
『そういうことだってあるよね』
と思ったけれど、実際にそれが「彼女がスカートをはかない本当の理由」なのかどうか、それもわからない。
学級委員長には二つぐらい年上のお兄さんがいる。だから学級委員長が学校へはいてくる「男物のズボン」は大体お兄さんのお下がりだ。
お古ズボンだけれど、学級委員長は可愛い柄の膝当てを貼り付けたり、お尻のポケットのふちにリボンとかバイアステープとかチロリアンテープとかを縫いつけたりしている。そういうふうに自分で改造しているんだそうだ。臑の方にひよこや花の刺繍があるヤツもあって、それは
「すり切れて穴が開きそうだったから、補修と可愛さを両立させるために」
可愛い形を考えながら縫っているのだと、楽しそうに言う。
つまり、学級委員長は女の子っぽいかわいいものが嫌いなわけじゃない。
新品を買うときだって、女の子用のズボンは選ばないとも言っていた。
最初から女の子用に仕立ててあるズボンは色も模様もデザインもとてもかわいらしいけれど、はきなれた男の子用のズボンと違って、
「なんだかお尻のあたりが落ち着かない」
ということらしい。
龍は学級委員長がズボンをはくことがオカシイと思ったことは一度だってない。服は自分が気に入ったものを着ればいいと思う。
でも、下着はどうなんだろう。学級委員長は下着まで男物にしてるとは言わないけれど、確認するわけにもいかない。
でも学級委員長の言うとおりになんでも着なれた物の方がいいのだとしたら、上着でも下着でも着なれてしまえばそっちのが良いって事になるのかもしれない。
『僕にお姉さんがいたら、もしかしてお下がりのスカートをはいたかもしれない』
龍はなんだか急に股のあたりがスースーするような気がした。お尻にぎゅっと力を入れれば我慢できるんじゃないかと思ったので、お尻に力を入れたら、全身の筋肉にもぎゅっと力が入ってしまった。
頬の肉がぴくりと引きつった彼の様子を見て、Y先生はまた。ちょっと困ったような悲しそうな寂しそうな顔をした。