川の始まるところ。
車の通れる太い橋、人が通るための細い橋、コンクリートの橋、鉄の橋、木の橋。
幾本もの橋をくぐって、川上へずんずん進んで行く。進むにつれて、川幅はどんどん狭くなった。
龍が歩き始めたあたりでは、岸の上にある家は新築のかわいらしい家がきっちり並んで立っていた。上流へ進むにつれて、昔ながらの白壁の土蔵やお屋敷が増えて、家々の間隔が広くなった。
コンクリートブロック、黒い板塀、生け垣、畑、空き地、空き地、なまこ壁、生け垣、畑、空き地……。
川幅が狭くなるにつれて、景色が変わって行く。
変わるのは川辺の風景だけじゃない。足下の様子も変わる。
歩き始めの場所では、河原の石ころはデコボコしているけれど尖ったところはなくて、なんとなく丸い形をしていたけれど、川上に来るにつれてごつごつと尖ったものが増えた。
川幅もどんどん狭くなって行く。
雨が降らなくて水位が低くなっているせいもあるけれど、チョロチョロ流れる水の筋はひょいと飛び越えられそうなほど細くなっていた。
どれくらいの時間歩いただろう。
太陽は頭のてっぺんよりは少し西の方に移動しているし、お腹の虫も小さく鳴き声を上げている。
割れて尖った石の角を踏んだら、靴の底にめり込んで、中敷きを持ち上げて足の裏に当たった。
龍は靴の片足のを脱いだ。片足で立ったまま、靴裏のゴムにめり込んだ小石を引っこ抜いて、川の水の中に投げた。
「くたびれたよ、帰ろうかな」
口に出していった龍が、顔を上げた目の前に、大きな壁と、鉄の柵があった。
近づいて柵の隙間から覗くと、向こう側はトンネルというか、洞窟のような通路になっている。
龍がそこを「水路」じゃなくて「通路」だと思ったのは、柵に扉――四角い柵みたいな格好の――がついていたからだ。扉の取っ手の所に南京錠が掛かっている。
『水だけが通るのなら、扉なんていらないじゃないか』
俄然、龍の興味が湧き出た。
奥の方がどうなっているのか、その通路がどれくらいの距離なのかは、真っ暗なのでよくわからない。
「もしかして、この先が川の一番最初のところ……かな?」
鉄の柵にしがみついて、龍は暗がりの奥をじっと見た。
透明な水がちょろちょろと流れている。
水と一緒に冷たい空気も流れ出てくる。
龍の背筋がぶるぶるっと震えた。
通路の奥に、白い綺麗な女の人の顔が見えたような気がする。
暗い地の底で笑う白い顔。「トラ」の顔をした寅姫の、優しくて悲しい笑顔。
龍はあわてて柵から手を放し、三歩ぐらい後ろへ飛び退いた。