夏と猫と少女の日々
なんとなく、ほんわりしたのが書きたくて。
じりじりと庭先で鳴き始めた蝉の声に、畳の上で寝そべっていた猫の耳がぴくん、と蠢く。
彼は三角の耳をそば立て、音の方向を伺うように何度も動かす。
せわしなくぱたぱたと震わせるその様子は、どこか小鳥の羽ばたきにも見えた。
視線をそらし、気のない素振りを見せながらも、肝心の部分がせわしなく反応しているせいで、興味津々なのが分かってしまう。
そんなかわいい小芝居に失笑しつつ、かたわらでくつろいでいた少女も鳴き声のする方向を見つめた。
向かって右側の木に停まっていることはなんとなく分かるのだが、それらしい姿はどこにも見当たらない。
まあ、見つからないものは仕方がない。
少女は視線を落とし、かたわらの毛玉を見やる。
「ねえ」
呼びかけても丸めた背中に反応はない。
だが。
「……ひょっとして怖いの?」
ふと発した少女の言葉に、猫の耳がまたびくりと動く。
そして、彼女のほうへと振り返り、
「みゃあぅ」
と、一声鳴いて再び定位置へと戻った。
さすがに言葉の意味を理解しているわけはないだろうが、ひとこと物申すと言わんばかりだったその様子があまりに愉快で、少女は思わず吹き出した。
「ぷっ……あはははッ」
少女は、ゆっくりと身体を起こすと、そのまま縁側へと腰掛けた。
「おいで。ほら、こっち」
ぽんぽんと自分の座っている隣を叩き、少女は手招きする。
だが、当人……いや、当猫はと言えば、ぷいっとそっぽを向いて無視してしまった。
「そういう態度なら……こっちのほうから行っちゃうぞぉっ?」
そう言うなり、ひょいと立ち上がって猫の背後に回ると、脇腹に手を入れて持ち上げる。
「!?」
突然持ち上げられて腕の中でじたばたしたものの、無駄な抵抗と悟ったのか、すぐにおとなしくなる。
「今日もいいお天気だね、太助」
膝の上で丸くなる飼い猫を優しく撫でながら、彼女は空を見上げる。
「今日もいいお天気だね、太助」
もう容疑者捜しに飽きたのか、膝の上で丸くなる気まぐれな飼い猫を優しく撫でながら、彼女は空を見上げる。どこまでも高い青空には、太陽に手を伸ばすように真っ白な入道雲が伸びていた。
「もうすぐ夏が来るねぇ……」
日差しを浴びて目を細めつつ、彼女は独りごちるように呟いた。