のんちゃんとの出会い・お母さんとの喧嘩
のんちゃんと出会ったのは、私が住んでいる町にある、大きな動物園でした。
「わああ、お母さん、お母さん!このぬいぐるみ、可愛い!」
自分よりも大きなウサギのぬいぐるみ。動物園のグッズ売り場の中でも一際目立つそのぬいぐるみは私だけでなく、他の子供たちの輝く視線を受けて、私の目にはさらにまぶしく映りました。
「うーん、でもねえ、あんなに大きいのは、おうちに置いておけないから、こっちのぬいぐるみにしましょう。これなら、あなたといつも一緒にいられるだろうから。」
そう言って、お母さんはさっきのぬいぐるみと同じ顔をした私の半分くらいの大きさのウサギを渡してきました。
「おうちに大きいのは置けない?」
私はお母さんに尋ねました。
「置いておけるほど、広いスペースがないからね。」
「そっかあ」
ちょっぴり残念な気持ちを抱えながらも、お母さんに手渡されたぬいぐるみに納得した私はぬいぐるみにのんちゃんと名づけ、その日以来、どこへ行くにも、ぬいぐるみをつれて回りました。
でもある日、私が布団に入って寝ていると、いつも抱きかかえて寝ているのんちゃんがいなくなる感覚がありました。
目を覚まして手元を見ると、のんちゃんの姿がありません。
あわててリビングにかけこむと、おかあさんがなにやらゴソゴソしています。のぞきこむと、その手には、ハサミで背中を切られたのんちゃんの姿がありました。
私は泣き叫びながら言いました。
「お母さんなんか大嫌い!」
お母さんが何か言いたげな顔をして、必死になだめてくれましたが、そのときの私にはのんちゃんを切られたショックのあまり、聞く耳を持つ術すらありませんでした。
翌朝、目が覚めると私の手元には元通りののんちゃんがいました。でもその背中には、遠くからは見えないものの、明らかな縫い目がありました。
それからの私はお母さんが話しかけるたびに、無視し、全く口を利かなくなりました。