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『 まじゅう·桃太郎 』

 まじゅう童話 『まじゅう桃太郎』



 むかしむかしあるところに。


 アプラース桃太郎がおりました。


 アプラースは、スピルードル王国の元王子様。

 なんやかやあって追放されてしまい、ハラード伯爵夫妻に、どんぶらこ、と川に流されていたところを拾われました。


「うむ、模擬戦スパーリングがさまになってきたの。明日から、ウサギ魔獣との高速機動戦をはじめられそうだ」


「あらまあ? ハラードったら無茶させて。桃太郎、安心して。これを飲めば眠気も疲労もすぐ忘れてしまうから」


 アプラースはスクスクと育ち、たくましい勇士になりました。千尋の谷につき落とされる、的な修練が日課で。アフターも伯爵夫妻の友人知人の人外サンとおつきあいです。


 暴れ牛の群れだって、もう怖くありません。



「鬼ヶ島に鬼退治に行ってまいります」


 あるとき、アプラースはいい笑顔で言いました。


 鬼ヶ島は、近ごろ調子づいていると評判の悪の巣窟です。初陣で、ひとりで殴り込むなんて無茶ですが、伯爵夫妻はそうかそうかといい笑顔。ツッコミ役不在でした。



 アプラース桃太郎が出立つ日、魔獣狩りの猛者の伯爵は、

「これをもってゆくがいい」

 ――― と、立派なこしらえの大小を取り出しました。レアな魔獣素材の逸品です。

 だけど、かたちが刀剣とちがいますね?


「わたしからは、これよ」

 発明家の伯爵夫人は腰に下げられる革袋を差し出しました。パンパンです。中はいくつもの……瓶 ?


「がんばって来ます!」

 アプラースは深く考えず受け取ると、元気溌剌、歩き出しました。




 それからしばらくして……

 鬼ヶ島にそびえる山城のテラスで、悪の高笑いが木霊(こだま)しました。


「ファハハハハハ!!!」


 黒衣の男がそこに――― 片手で黄金色の髪をかきあげます。涼しげな容貌の中で、赤く眼が光っていました。


「勝った!!!」


 かれの眼下で、屈強なオーガたちが完全武装で集結、出陣をまっていました。城外に整った兵力、5000。人間の王国ですら蹂躙できる、鬼の軍勢です。


 ――― 気分上々!


 鬼の王のアルカンドラスは、大人気ない戦力で、アプラース桃太郎とそのお供を待ちかまえていました。もちろん、ヒーローを討ち滅ぼすつもりです。


 今回、アルカンドラスは『吸血鬼(ヴァンパイア』なのに『∣鬼《Oni》』の王。念願の“悪の首領”に強引に就任して大張り切りです。仲間を巻き込んで好き勝手してます。


 メインストーリー?

 われはうっかり、台本を棺桶に忘れたからして。アドリブアドリブ!(アルカンドラス談)



【暗黒王国、不落の山城、絶対華麗の美形王、鉄血の巨人軍団、常勝無敗の世界征服 ――――】


 アルカンドラスの黒衣の胸もとには手帳がしまわれ、ベタなワードが、熱い想いで書き連ねられています。

 いま、《常勝無敗》が正念場みたい。


 とはいえ。

 傭兵エキストラを大勢集めて、鬼の軍団をカサ増しした分は自腹なんですけど。うきうきの鬼の王ですが、その後ろでは、財務担当者の牛頭の鬼ミノタウロスが渋い顔で帳簿をつけていました。



「 ふ。ようやくあらわれたか、桃太郎……

     クライマックスだ。

   我が軍団よ、ゆけ!! 蹂躙せYo…ぅ"?」


 不自然に号令が途切れました。

 かわりに城外からどよめき(オーガの)、そして悲鳴 (オーガの)がわいて。さらに、それらを圧倒する戦叫ウォークライが上がりました。


「 … ラムラーダさま?」


 牛頭の鬼ミノタウロス戦闘狂(上司)の声に気づきました。これは、ひどいことになりそうです。




 あゝ、何ということでしょう。


 オーガたちはアイアンゴーレムさながら、猛々しい重歩兵のすがたなのに、今や逃げ惑う群衆モブです。一糸乱れぬ隊列はどこへやら、武器や兜さえ放り出しています。

 ドラゴン級のオーラを発散する半人半獣が黒い光線のように突っ込むと、そんな巨漢たちの人混みは二つに裂け、大きな鎧姿が小石のように飛び散ります。

 ウサギやタヌキ、コウモリの異形もみえ隠れしていました。地割れがオーガを追い回して呑み込むのは、地中に何かいるのでしょうか。


 桃太郎の進路にいたオーガたちは悲惨、まるで路上のゴミです。砂礫の激風やドリルのような水流、太い電撃がまとめてなぎ払っています。


 桃太郎の一行は、美女や美少女のHaremパーティーでした。みんな半人半獣の魔獣娘で、全員ドラゴンキラー。最後がとても大事。

 人類文明を滅ぼせる戦力で小島の鬼退治とか、オーバーキルにもほどがあります。


 今だって桃太郎は歩いておらず、クマの魔獣娘の大きな荷馬車で運ばれながらリス娘の毛並みのお手入れ中。鬼ヶ島の蹂躙戦に、集中しすぎて気づいていません。

 危機感が無いにもほどがあります。



 アプラース桃太郎のブラッシングの妙技は、すでに、伯爵家にいるときから有名でした。旅の空の下で磨きがかかり、今や至高の絶技、究極の神業の域に。


 魔獣娘は、旅路で出会うそばから桃太郎の手技に陥落して、かれをケガさせるな! なにかあれば自分の婚活に差し障りある!! などと大集合したのです。


 あ、例外が一名。


 肉体言語大好き(殴りあっていこーぜェ)で参戦した戦闘狂の女が、今、アルカンドラスの新築の城を基礎から壊し始めました。

 ちゃんと、持ち帰る財宝を確保したのかな?


 うん、まあ。

 めでたしめでたし。




 * *




✦高級猪毛ブラシ

 → ハラードの用意した二本の獣毛ブラシ。柄の長さだけでなく、ヘッドの大きさ、毛質、密度も違います。

 → ヨロイイノシシの変異種に特有の、超レアな魔獣素材「ヨロイイノシシの猪毛」でできた逸品です。

 → マジカルなパワーで、ブラッシングした毛皮全体をツヤツヤにして、深い輝きを与えます。プラスして、マッサージ効果も。



✦ドライ・リンスinシャンプー

 → ルミリア夫人がつくった瓶入りジェルセット。

 → オーバーテクノロジークラスのヘアケア効能で、洗った毛皮の汚れを落とし、悪臭を消し。しっとり潤いも永く……


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