トランクが言うには
ネーヴェと共に園遊会へ参加する旨を実家へ返信するついでに、母の誘いで園遊会に出向くことになったとクリストフに速達便で連絡すると、なぜかベロニカに連絡しておくとすぐに返信があった。
それからまもなくしてベロニカからも速達で手紙が届いた。
ウィート領に向かう途中、彼の居城に一泊していいという。すっかりネーヴェの思惑通りだ。ネーヴェのことはそのとき話し合おうとも書かれてあった。
「宿をとる必要がなくなりましたね」
儲けものです、とネーヴェは言ったきりだったが、フィオリーナは今更ながら冷や汗を隠せない。
フィオリーナにも気軽に接してくれるベロニカだが、アレナスフィル領はザカリーニから比べてもとんでもない大領地だ。二公五侯といって、グラスラウンド王国を支える五大侯爵家のひとつなのだ。カミルヴァルト家も五大侯爵家のひとつではあるが、戦友だったからといって自然でいられるネーヴェのほうがおかしいと思うのに、ベロニカもネーヴェも気にした様子はない。
ウィート領にはマーレとアクア、そしてネーヴェがフィオリーナに付き添うということになった。
ラーゴがオルミに残ると聞いて、フィオリーナは意外に思った。
旅支度を手伝うといってやってきたラーゴは手際よく荷物を詰めながらフィオリーナに笑う。
「いいえ? 私が残されると思っていました」
応接間でトランクに荷物を詰め終えて、ラーゴはそこへひらりと座る。ネーヴェの荷物だと言っていたが、今日も軽やかな青年だ。
「今のあるじに一番近いのは私ですからね」
今のあるじとは、カミルヴァルト本家の誰かのことだろうか。
「昔ならいざ知らず、マーレじゃあ似過ぎてて逆に怖いですから」
「──余計な口が回るようだな」
ラーゴの軽口に水を差したのは、こちらも応接間にやってきていたマーレだ。
「ネーヴェが呼んでいる。聞こえていただろう」
「はいはい」
立ち上がったラーゴはフィオリーナに器用に片目をつむって見せてから辞していってしまった。相変わらずの好青年ぶりだ。けれど、強面のマーレと残されるとさすがにフィオリーナは緊張してしまう。
このあいだの朝の件では洗い場でいっしょに手を洗った仲だ。少しは打ち解けたと思いたいが、マーレはラーゴと違って基本的ににこりともしない。
「あなたの支度はもう済んだのか?」
一瞬何を尋ねられたのか迷ったが、ラーゴに手伝ってもらったトランクを見て、そうだったとフィオリーナは思い出す。先ほどラーゴにこの階下へトランクを運んでもらったのだ。応接間のソファの近くにあるトランクをマーレに指した。
「はい。あとは馬車に積むだけです」
そうフィオリーナが言うと、マーレはずかずかとやってきてトランクをひょいと持ってしまう。すでに大きなトランクを一つ抱えているというのにほとんど重さなんて感じさせない動作だった。
「あの、重くないのですか」
フィオリーナでは両手で持ち上げるのもやっとという重さだ。しかし、マーレは意外なことを聞いたという風に器用に片眉を上げた。
「問題ない。そろそろネーヴェが作業に飽きて食堂に来る。あなたも休憩するといい」
そうとだけ言って、少し目を細める。
その仕草は誰かにとても似ていて、フィオリーナがあらためてマーレを見上げるが彼はさっさと踵を返してしまった。
マーレの背中を見送っていて、フィオリーナはふと気付いて声を上げそうになった。指先で口元をとっさに覆う。
マーレの背格好は驚くほどネーヴェに似ていたのだ。
準備を整えるころには一週間は瞬く間に過ぎていて、園遊会の二日前の朝、カリニとホーネット、ラーゴに見送られてオルミ領を発った。
※修正しました。
二週間→一週間




