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ハリボテが言うには

 ランベルディから帰った翌日の朝、フィオリーナは手紙を読んでいた。

 父と兄からの手紙には、心配しているがフィオリーナの滞在を許すことと送金を承諾すること。それから、思いもよらないことが書かれてあった。


「ネーヴェさん!」


 手紙を持ったまま階下の応接間に降りると、ネーヴェはのんびりと紅茶を飲みながら新聞を読んでいた。朝食中の新聞をとうとうホーネットに禁止されたのだ。

 そんなネーヴェにフィオリーナは自分の手紙を渡して読んでもらう。

 ものの五分も経たないうちに手紙を読み終えたネーヴェはそばで見守っていたフィオリーナに目を向ける。


「では、私も行きますね」


 そのほうが早い、とフィオリーナのほうが不安になることを言う。

 兄の手紙にはこう付け足されていた。

 一週間後、母が参加する園遊会にフィオリーナも参加しろというのだ。

 その園遊会にネーヴェを連れて来いという。

 ネーヴェはあの大惨事の件で公の場にはあまり出られない。社交界で百戦錬磨のクリストフたちに連れて行ってはいけないとまで言われているのだ。

 そんな彼を連れていっては、ハリボテの悪女など物の役にも立ちそうにもない。


「…ネーヴェさんにこれ以上ご迷惑は…」


 もう十分迷惑をかけているという自覚があるだけに、あまり口にするべきではない言葉が滑り出てしまう。

 けれど、うなだれたフィオリーナをのんびり眺めてネーヴェは新聞をたたんだ。


「かわいい娘さんをお預かりしているのですから、一度会っておきたいと思うのは当然のことだと思いますよ」

「でも…」


 かわいいと言われたことになんだか心が引かれてしまうのを堪えて、フィオリーナは渋面を残した。今の問題はそこではないのだ。


「いくら手紙で説明したところで、お母様からすれば私はただの得体の知れない男ですからね」


 日程に合わせて予定を調節します、とネーヴェは少しせわしなくソファを立つ。


「お母様もだいぶ譲歩されたんだと思いますよ。会場はザカリーニよりもオルミ側で、こちらからは一泊ほどで往復できますし」


 園遊会の会場はベロニカの領地であるアレナスフィル領の向こう側、ウィート領だ。ここを治める伯爵夫人と母は長年の友人なのだ。


「アレナスフィル候に連絡して一泊させてもらいましょう。あなたの準備もできるでしょうし」


 ネーヴェの言葉にフィオリーナは「えっ」と声を上げる。


「もしかして、“悪女”の姿で園遊会に……?」


 様々な理由があとからついてきてしまったが、ハリボテの悪女となるのはあくまでもフィオリーナ自身の問題で、母に見せる必要はないはずだ。

 青ざめるフィオリーナにネーヴェはにやりと笑った。


「立派な悪女ぶりを見てもらいましょうね」


 まだ一度しか夜会に出ていないのに評価も何もないだろう。

 それにネーヴェの作戦で得た評価はおそらく厚顔無恥な印象だけだ。


「あれは、ネーヴェさんの言うとおりにしただけで…っ」

「うまくいったでしょう。その調子でいいですよ」


 たしかに悪口や誰かを傷つける言葉を投げるわけではないが、あのクリストフが絶賛するやり方がいいとは思えなかった。


「今日はあなたが苗の観察日記をつけてくださいね」


 応接間に置いてあった日記帳をフィオリーナは渋々受け取る。ネーヴェはこれから日程の調整で忙しくなるのだ。

 仕事を引き受けるのはうれしいことだったが、納得いかない思いでフィオリーナが口をとがらせるとネーヴェはいつものように柔らかく笑って行ってしまう。きっとこれから仕事部屋に籠もるのだ。同じ屋敷に住んでしばらく経つというのに、フィオリーナは彼の仕事部屋を未だに知らない。

 フィオリーナはその背中を見送って、またいつかネーヴェを困らせてやりたいなどと思ってしまった。 


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