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青い花が言うには

 精霊祭に冬の分厚い雲が晴れたのは珍しいことだと、迎えにきたミレアは笑った。

 今日は精霊祭ということで、フィオリーナは伝統衣装を着て出迎えた。

 村娘が精霊祭に身に着けるというこの衣装は、スカートの裾や毛織りのジレにこの地方に伝わる刺繍がさしてあって華やかだ。

 ミレアが精霊祭に着てくれと貸してくれたのだ。

 髪は三つ編みにして首のあたりでまとめる髪型で村娘たちは集まるというので、フィオリーナもそれにならった。


「髪飾りがあったほうがいいね」


 フィオリーナを眺めたミレアはいっしょに眺めていたホーネットを見遣った。となりのホーネットも「そうですねぇ」とうなずく。


「村娘たちはほとんどが白い花を挿していますね。あれには何か意味が?」


「ああ、あれは…」


 ミレアが答えようとしたところで、庭に出ていたネーヴェが応接間にやってきた。


「よく似合っていますね」


 ネーヴェがそうにこやかに言ったところで、ミレアは「あのねぇ」とあきれた。


「アンタはフィオリーナが何着てもそう言うんだろ」


 ミレアの言葉にネーヴェは「うーん」とうなって笑う。


「ツナギを着ても可愛いだろうしね」


 ネーヴェはそもそもフィオリーナに甘いのだ。


「これから広場に行くんでしょう? 今日はこれを」


 ネーヴェがフィオリーナに差し出したのは青い花のブーケだった。季節に関わらず花が咲くこの家の庭は相変わらずで、図鑑では春に咲くはずの花だ。

 リボンで簡素にまとめられた可愛いブーケを受け取って、フィオリーナは思わず微笑む。ネーヴェが花をくれるとは思ってもみなかったことだ。

 けれど、ネーヴェはフィオリーナの手からするりとブーケをすくいとると、そのまま腕をのばした。フィオリーナは当然のようにネーヴェの胸に抱きこまれるような形となる。


「ね、ネーヴェさん…」


 慌てるフィオリーナの様子を知っているのか、ネーヴェはそっと花束をフィオリーナの髪、三つ編みの元に挿したようだった。

「まぁまぁ」と笑ったホーネットが鏡をもってきてくれた。ミレアとホーネットに挟まれる形で鏡に映った髪を見ると、ブーケがうまく三つ編みに挿してある。何も飾りがないよりずっと華やかだ。


「……ありがとうございます」


 フィオリーナがネーヴェに向き直ると、彼は苦笑する。


「何もないよりマシでしょうから」


 ネーヴェは祭りの運営を担っているので、あとでフィオリーナたちと合流するという。   

 ネーヴェに見送られて、今日のお供をしてくれるアクアと共にミレアの幌馬車に乗り込んだ。



「まったく難儀な人だよ」


 幌馬車の手綱はアクアに預けて、あきれた様子でミレアは笑った。いつもツナギ姿の彼女にしては珍しくスカートにブラウス、毛織りのジレ、そのうえに外套を着こんだ姿だ。精霊祭の衣装はもう着ないのだという。


「ミレア用の衣装は作らないの?」


 不思議に思ったフィオリーナにミレアはおだやかに微笑む。


「あたしは一度村の外に嫁いだ出戻りだからね。娘ってわけにはいかないのさ」


 だから、とミレアは普段通りに笑った。


「久しぶりにこの衣装をお披露目できて嬉しいんだよ。着てくれてありがとね」


 そう言われてフィオリーナも微笑んだ。


「大切な衣装を貸してくれてありがとう、ミレア」


 美しい刺繍がさしてあるとはいえ、ベロニカの衣装と比べればレースもリボンもついていない衣装だ。けれど、ミレアの大切な衣装を大切に思えることが嬉しかった。




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