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異世界で初めて会った団長さんは王子様でした

「サヤ、体調はどうだ? 昨日は無神経なことをして、随分と無理をさせてしまったようだが……」


 殿下イズ何者、と身構えていた私は、案内された先(なんか見た感じ応接室っぽい雰囲気だ。引っ立てられる先は玉座の前か白州かって一瞬警戒してたから、これもちょっぴり安堵)で待っていた人の顔を見てほっと息を吐き出した。


 記念すべき異世界遭遇者第一号、なんちゃら王国竜騎士団長のアーロン氏――だったはず。


「アーロンさ……アーロン様。こちらこそ、昨日はご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした。ちょっとこう、自分でもびっくりするほど酔ってしまったというか……」

「いや、我々の想像力が足りていなかったためだ。あなたは何も悪くない。それと訪問者殿は我が国の大事な客人だから、様付けは不要だ」


 改めてアーロン氏を見てみると、まあいかにも偉い人って格好と雰囲気をしている。昨日はがっつり鎧を身につけていたが、今日は室内だからかもうちょっとラフな感じだ。それでもこう、階級の高い軍人さんであろうことが一目で伝わってくる。


 そんな雰囲気の人だから、呼びかけ方は迷った。一応この異世界はイージーモード仕様っぽいので、対応を間違えた所で、不敬罪即手討ち! にはならないと思う。とはいえ現地の人のヘイトを稼ぎたくはないし、そもそも昨日既に一やらかしをしている身でこの上さらにタメ語しゃべれるほど、私の心臓強くできてない。


「ありがとうございます、アーロンさん」


 騎士団長さんは笑みを返してくれた。金髪碧眼男子のスマイル、プライスレス。その横で、これまた見覚えのあるマッチョメン騎士がうんうん頷いている。


「訪問者には神様から加護が与えられるって話だったし、嬢ちゃん、ピンピンしてたからなあ。なんか流れで乗せちまったが、そうだよなあ。異世界来たばっかで即初めての竜移動は、ちとハード過ぎたよなあ」

「ちょっとバンデス。昨日からですけど、慣れ慣れしすぎますよ。相手は訪問者様なんですから、竜騎士らしくしてください」

「そうかあ? ショウ、お前がちょっと大袈裟すぎるんだと思うがなあ」


 ふむ、マッチョメンがバンデスさん、美少年がショウさ……ショウ君? と言うのだな。


 バンデスさんは大柄で、騎士というよりか、蛮ぞ……違う、傭兵っぽい感じがする。筋肉ムキムキお兄さんですね。団長さんより年上かな、どうだろう。


 一方の美少年は、いかにも育ちのいいお坊ちゃんという風情。そして圧倒的初々しさ。まだ十代後半と見たぞ。アラサーには素晴らしい目の保養だ。


「サヤ、この二人も紹介する。竜騎士のバンデスと、見習い騎士のショウだ」

「よろしくな、嬢ちゃん」

「よろしくお願いいたします、サヤ様」

「あ……よろしくお願いします」


 順次紹介ありがたや。


 昨日は他にも竜騎士の皆さんがずらっと並んでいたけど、いきなりばーって名前言われても、覚えられる自信がなかった。

 これぐらいのペースで来ていただけると、私の記憶力にも優しい。


「さて、サヤ。単刀直入に言うと、きみは異世界を渡ってきた訪問者だ」

「単刀直入というか、おさらいだな」

「団長に横やり入れない」


 さて、いよいよ本題、異世界に来た私向け諸々説明会に入るようだ。

 アーロン氏がおもむろに話し始めると、早速バンデスさんが独り言のような茶々入れのような言葉を発して、ショウ君に小突かれている。


「訪問者というのは、異世界からこの世界にやってきた人間だ。昔は不安定な世界の歪みを正すために、神が遣わされるとか言われていたらしいが……ここ最近は大きな争いもなかったためか、訪問者の訪れは記録されていない。前回の出現は、もう百年も昔のことになる」


 なるほど……必要に迫られて召喚しましたというより、勝手に来るって感じなのかしら。しかも前回の転移者は百年前と。


 ……あれ? でも、私が転移した場所って街中とか人のいる場所じゃなく、適当な草原的な場所だった気がする。でも彼らはすぐに私を迎えに来た。あれってどういうことなんだろう?


「しかしなあ、天文協会の連中が『訪問者様が来る!』とか言い出した時にはよ、まあどうせ誤報だろって思ってたんだが」

「念のため保護に向かって良かったですよね。サヤ様がいらっしゃったあの辺り、人も害獣もいない地域で、ちょっと水場も遠いですから。危ない連中に襲われるってことはなかったと思うんですが……とにかく、早めにお会いできて良かったです」


 またもバンデスさんが声を上げ、今度はショウ君も同意している。


 ふむ、転移者の人為的召喚はないって文脈だったと理解しているけど、来たこと自体はわかる仕組みでもあるのかな?


「天文協会という組織がある。まあその名の通り基本的には星読みをしている連中なんだが、星を見ていると、訪問者の来るタイミングもある程度わかるのだそうだ。訪問者は場に存在するだけで、こちら側の人間に恩恵をもたらす。一方で、蔑ろにすれば、その分こちら側の世界も荒れる。だから天文協会が訪問者の予兆を見つけたら、国はいち早く保護に動かなければならない」

「まあ、誤報のこともちょくちょくあるけどな」

「あくまで予測ですからね。百パーセントの精度が無理なのは仕方ないんですけど、たまに当てるってことやられると本当に心臓に悪いです……」


 転移者は天気か何かなのかい。


 なるほど、それで私が目覚めるタイミングで皆さんあの場に来られたし、あの若干困ったような空気が流れてたってわけですね。


 あとやけに私に対する優しみが溢れていることもなんとなーくわかった。

 あれだね。客人が福の神的なね。民話とかでよく見た奴ね。それがもうちょっとがっつり信仰してる的なね。はいはい。


「サヤ。きみは間違いなく訪問者だ。だから当面はまず、私の保護下に入ってもらうことになる」

「こちらの世界にいきなり招かれて混乱もされているでしょうが……できる限り快適に過ごせるように、僕たちも協力させていただきますので」

「王子様の客人だからな。楽しめるぞぉ」


 了解です、ありがとうございます! と頷いていた私は、またも「ん?」と首を傾げる。


 王子様? そういえばマイアさんが殿下とか言ってたけど。


 言い出しっぺのバンデスさんに顔を向けると、彼はニヤニヤ団長アーロン氏を見つめている。


 …………。

 あ、そういう? 王子様が竜騎士団長やってます的な、そういうね!?

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