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もふ神ライジング(たぶん本人公認)

 もふもふはね。いと小さきにもいとでかきにも、別のもふみがある。

 早速語彙喪失しているけど、つまり今私は猛烈に感動しているってことなんだ。


 異世界来て、ドラゴンに毛があるとわかってテンション爆上がりだったけど、まさかよもや……このサイズのお方と、こんなに間近にお目にかかれる機会があるだなんて。

 大自然。ただひたすらに尊い。そして畏怖。この場のチャンプは巨もふ様だ。わたしはたぶん、完全にあちらに命を握られている。だがそれすら受け入れよう、人類は結局自然には勝てないのだと歴史が証明している――。


「ぴーきゅっきゅっ!」


 あっそうだ、しまった忘れていた。そもそも赤さんもふもふがお外行きたいですって意思表明している……そんな気がしたから、ここまで出てきたのだった。


 彼(いや彼女か? そういえば性別聞いてなかった、ひっくり返しても全然わからんかったけどどっちなんだろう……)はじたばた暴れて私の手からすり抜けると、小さい羽で羽ばたいていき、巨大なるもふもふ様の顔の前まで飛んでいく。


 巨もふ様は大きなくりんくりんの目でじっと赤様を見つめ、ぶふっと音を立てて鼻息を吹き出した。


「きゅう」

「ぴいっ!?」

「きゅ、きゅきゅ。きゅん」

「ピーピーピーピーピー!」

「きゅきゅ」

「ぴっ……」

「…………」

「ぴきゅん……」

「きゅうん」


 おお……今まで竜がピーキュー鳴いてる姿は見てきたし聞いてきたけど、大体竜騎士の誰かと一緒にいた都合上、人間とのやりとりメインで見ていた。彼ら同士のやりとりをがっつり見るのは、もしかしたらこれがはじめてかも?


 なお勘でやりとりの内容を察するに、たぶん赤様が怒られてますね、これ。何か言おうとしたけど諭されてしょんぼりしてるような、そんなアトモスフィアを感じる。


 赤様がなぜ本来いるべきではないこの場所にいるのかといえば、グリンダちゃんが急患で連れてきたからである。竜の谷? だとかいう、どうやら彼らにとって特別な場所を出てしまったことの発端自体は、赤様の本意ではなかろう。


 とはいえ、その後帰りたくないって主張して、私のベッドとか潜り込んでたみたいだしな。そこはまあ、一言二言保護者様から苦言があっても仕方ない気もするな。

 いや、そもそも論として、リンゴなんか丸呑みしちゃいけませんというお叱りなのだろうか。この小もふ様、マジで軽率に噛んでくるからな。いや甘噛みならばええけども。


 ……お、話がまとまったようだ。赤さんもふもふが巨もふ様の頭の上に降り立ち、羽を畳む。

 巨もふ様は自分の頭の上に赤さんもふもふを乗せたまま、じっと私を見下ろしてきた。


 ハッ! お辞儀をするのだ、サッヤー!


 ここまで当然のようにガン見したまま礼を失していたことを思い出し、私は慌てて挨拶を試みる。


「お初にお目にかかります。私、異世界からやってきました、サヤ=イシイと申す者。現在は辺境の城にて、竜のことについて学ばせていただいております……」


 なんとなく、いつもよりさらに丁寧に自己紹介し、それから「怪しい人間じゃないです」のポーズこと、匂いを確かめてもらうために手を出したまま静かに様子を見る。


 ちなみにこの間、そういえば何か物足りないな? って気がしていたのだけど、あれだ。ガヤだ。環境音に風の音的なものしかなくて、人間のざわめきがない。

 お辞儀する間、ちょっとついでに後方の気配を探ってみる。同行してきた竜騎士様方が皆、口も目もまん丸にしたまま立ち尽くしているのがちらっと視界に入った。


 ああ、やっぱり……どう見ても、ただものではないもふもふ様であらせられますよね、このお方。たぶん赤様同様、本来は竜舎のような場所にフランクにやってくるような御仁ではないと、そのように愚考いたします。


 とはいえ、では私はどうすれば……? 今更ながら、赤様に急かされてホイホイ外に出てきたわけだけど、先に団長氏を探しておくべきだったかもしれないとちょっぴり後悔する。

 いるのといないのじゃ、やはり安心感が違う……お忙しいお方だから、あまり煩わせるのもどうかとは思うけど……心細いのう……。


 とりあえずもふもふ様がゆっくりと首を下ろして顔を近づけてきたので、教わったとおりに大人しくしている。竜がこちらの状態を確かめている時は、相手の大きさにビビって騒いだりする方が、かえってお互いにとって危険なのだ。


 彼らは馬鹿ではない。こちらがよっぽど変なことをしなければ、向こうもあえてこちらを傷つけようとはしない。焦らず待つのだ……。


「きゅうん」


 お……えっと、これはたぶん……グリンダちゃんのお触りの時と同じ! ということは、お眼鏡にかなったということで……?


 おそるおそる見上げると、大きなお目々……というか本当にでっか。顔でっか。これ口開けたら私一のみできますね? でっかあ。すっごお。


「ぴきゅん! ぴきゅん!」


 そしてもふもふ様の頭の上では、赤様が……それはなんだい、何を言っているんだい。友好的なんだろうなってのはなんとなくわかるんだけど、具体的に次どう行動すべきなのかがいまいちわからないんだ、ドラゴンフレンドや。


 ……すると、私を見るために顔を下ろし、体をかがめていた巨もふ様が、さらに身を低くして……なんとぺたんと地面に伏せてしまった。つぶらな大きなお目々が、やっぱりじっと私を見つめている。


 な……何かを要求されているような、試されているような……。


「ぴぴきゅ! きゅんきゅん!」


 そして、巨大な頭の上では小さなもふもふが跳ねている。


 そのとき、サヤに天啓下る!


 これはもしや……ここまで来いと。登ってこいと。頭の上に。ローリントちゃんくんの背中に登るのも大変だった私に、けれどあれより更にサイズアップした方が今度は頭部にヘイカモンしていると。


 さすがに発想がちょっと突飛かな……? 私は赤さんもふもふと巨もふ様を見つめる。

 一応背後の竜騎士の皆さんも振り返ってみたけど、駄目だ全員あわあわしてやがる。


 まあたぶん無謀を冒さぬ優等生らしく、ここでそっと後退するのが無難解なのだろう。竜騎士の皆さんはほっと胸をなで下ろせるだろうし、なんとなく、巨もふ様も別に怒らない……と思うんだよね。

 いや確証はないけれども。でもなんとなくこの方、今まで見てきたどの竜よりも穏やかなお顔をなされていらっしゃるし……。


 だが。だがしかし。さっき目と目が合った瞬間私は自分の推測、やっぱそんなに外してもないな? とピンと来た。


 お乗りよ。


 と、巨もふ様が申されている。KYOMOFU。わかるか? 相手は巨もふ様なんだぞ?


 申し訳ない、団長。でもたぶん私の気持ち、あなたはきっとご理解してくださると思います。


 もふもふには勝てねえ……クレバーなノーもふもふライフより、たとえリスクを込もうとモアニューもふもふライフ、それが世界の真理ってもんよ!


 というわけで、いざあ……私は! 登るぞ! 巨もふ様の頂――頭頂部まで!

 あ、ちょっとお顔周り、毛をつかんだり足場にしたりってどうしてもあるのですが、そこだけお許しいただければ……これはむしろ? 前足を登りやすい位置にポジショニングしていただいている?


 神、かな……そうか、この人はきっともふもふの神様なのだ。

 神様、お体に触りますよ……!

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