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死因:もふりすぎ(※死んでないよ!!)

 燃え尽きるまでもふってやった。そしてまた私の肉体は死んだ。


「きゅう♥」

「きゅうきゅう!」

「きゅんっ」


 口々に満足そうにお鳴きあそばされてお帰りいただいた所までは見届けたので、ちゃんとお給料分の働きはしたと思うんだ。そこで力尽きてへばったわけだけども。


「サヤの奴、まーた竜の撫ですぎでへばってら。じわじわ来るんだよなあ……普通あるか? 竜撫ですぎて倒れましたって。ウケるんだが」

「……ああ。しまった。今回はやり過ぎの兆候が見えたら途中で止めようと思っていたのに、つい気迫負けしてしまった」

「団長……まあ、サヤさんすごい顔して撫でてましたからね。ちょっと声かけにくかったかなー……」


 よくサスペンスドラマで見る死体の倒れ方のまま伸びていると、上からそんなヒソヒソ……いやヒソヒソもしてないな、普通に話している声が聞こえてくる。


 死因:もふもふ。

 いや死んでない。死んでないよ。燃え尽きただけで。


 というか前もこういうことありましたね、デジャビューって奴だな。

 そういえば前はこの後……ハッ、いかんぞサヤ! そも、なぜ団長さんが声をかけられないぐらい気迫を持って竜を撫でてたかって、だって意識したらなんかいたたまれなくなるからで……!


「あ、今回は俺が持ってくんで。元々今日の担当だし。団長はお仕事戻っていただいて大丈夫っすよ」


 ひょいっと抱え上げられた気配がしたけど、この腕の太さは蛮族、じゃないバンデスさんだね。しかも担ぎ方が小脇に抱えるあれだね。


「ちょ、バンデスさん、持ち方雑……」

「あん? だって肩に乗せたら高いとかなんかで怯える奴多いからよ」

「いや……おんぶとかだってあるじゃないですか……?」

「いいんだよこれで、本人も何も言ってねーし」

「ええ……?」


 ショウ君が代わりに突っ込んでくれたけど、なんかもう私からは言葉を出す気力がない。


 私は荷物かい? いや姫抱きもね、恥ずかしいからアレなんですけども。特に今この状況で団長さんにもう一度抱かれたら(※語弊)、私マジで頭がパアンなってたと思うんで、バンデスさん落ちでもね、別にいいんですけども。


 それはそれとしてこの露骨な物扱い、もうちょっとだけ丁寧に抱えていただいてもいいのじゃよ? 我ながら注文の多い乙女心。


「でもそういえば確かに、今日はこっちに来て大丈夫だったんですか、団長」

「…………。すまない。正直に言う。むしゃくしゃして竜を見に来てしまった……」

「あっ」

「あー……」


 む。なんだこの空気。団長さんがしょんぼりしている上、それに他の竜騎士一同が「そらそうなるよな」って反応している。


「……戻る」

「お……お疲れ様っす……」

「終わったらグリンダにいっぱい構って……くれるといいけどな、あの竜……」

「大丈夫、グリンダはなんだかんだ団長のこと好きだから、さすがに空気読んでくれるはずさ……」


 そして彼はすごすごと立ち去って行った。いっつも万事において適当なバンデスさんが気遣いしている、これもレアな光景な気がする。


 なんだろう。ご領主様だって話だし、なんかそっちの方で嫌なお仕事とかしなきゃいけなかったのかな。


「サヤー。次、団長と時間ある時はよぉ。あいつのこともほぐしてやってくれよな……」

「今一番お疲れでしょうしね……本当に……」


 なんかわからんが、私にできることならばもちろん精一杯やってやりやしょう!

 まあその前にまずこの小脇抱え姿勢なんとかしてもらってからの話な気もしますがね!!



 さて、そんなこんなで翌日以降。

 万能湿布を貼りまくれば、前日の筋肉疲れだって超速再生するのだ。


 無事復活を果たした私は、あれから何日か、バンデスさんとショウ君と竜騎士見習い業務に引き続き当たっていた。


 ちなみにこの数日は掃除して備品磨いて勉強する合間に、竜をもふもふしている日課を続けてございます。


 前二回の反省を生かし、竜のもふもふタイムには一匹あたりの時間制限をつけることに致しました。まあ……そうしないと私いつまで経っても一匹をもふり倒してしまうしね。


 最初ショウ君が時間制導入を告げた時は、竜の皆さん納得してくれるのかなってちょっと心配だったけど、案外彼らは物わかりがいい。

 まあ何も言わずとも行儀良く順番通りに並んでたしなあ。あれもね、どうやら竜同士で疲労優先度を見分けて、お疲れ度高い子から先にしてるんだって。賢くて可愛いもふもふはたまらんね……。


 あとついでにこれは完全な趣味枠ですが、竜騎士の筋肉もモミモミさせていただいております。いやだってみーんな最近しおしおしてるんだもの。どしたのかしら。ハンドパワー注入でちょっとだけ元気になってるみたいだから、少しぐらいはお役に立てているといいのだけど。


 しかし一番ハンドパワーが必要そうな団長だけ、ここ数日ずっと見ていない。

 この前、なんかいつもと違うげっそり感を見たから、ちょっと心配だよね。ちゃんと眠れてるのかな、あの人。いかにも仕事でうっかり三徹ぐらいしそうな顔してるけども。


「あー、サヤ。詳細については、そのうち団長から正式に話があると思うけどよ……」


 そんなことを考えつつ備品を磨いていた所、バンデスさんが切り出し始めた。

 私は「ん?」という顔をするけど、周りは皆「あれか」って表情になっている。なんぞや。


「実は、今な。辺境領ここ、お客人が来てるんだわ」

「はあ……あ、もしかして先日救援要請とやらで助けに行った方々ですか」

「そー、それ」


 すぐに思いついたのは、タイミングが露骨だったためだ。

 だってあの日以来団長さん見なくなったし、他の皆さんはなんか全体的にげっそりしてるしな。


「団長は今そっちの面倒見るのに忙しいわけなんだが……まあ、サヤもそのうちな。たぶんお客人と顔会わせることになるからよ。そういう予定だぜってことだけ」


 ふむふむ、と鎧をきゅっきゅしていた私は、あれ? と思わず手を止める。


「でも私って確か、久しぶりに異世界にやってきた訪問者で、あんまり知らない人と会っちゃいけないんじゃなかったんでしたっけ……」


 おっと。皆手が止まったぞ。そしてなんか空気で察したぞ。


 これはあれだね……厄介ごとが持ち込まれた予感を感じるね……!



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