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もふもふポンポォン!(語彙消失)

「えっと……また竜達を触っても、いいんですか? 私的には、大歓迎ですけど……」

「そうか! 良かった……」


 ほっとしたようにパッと笑顔を浮かべる団長。


 ぐわああああ! 眩しい! っていうか発言内容が意外すぎて、無意識に顔に視線向けちゃってたじゃん! このタイミングでその表情とか、私をどうしたいのだねアーロン殿下!!


 いや、まあ。殿下は普通に喋ってるだけで、私が一方的に変な意識してるだけだね。うん。落ち着こう。

 ……くっそー、なんなんだ、やりにくいな!

 そうだもふもふ、もふもふのことを考えよう。


「むしろその、このような素人が軽率に触ってしまって大丈夫なのでしょうか? 竜って特別な生き物ですよね。ご機嫌損ねたりとかは……」

「訪問者は世界の歪みを正す――つまり、こちらの住人にとっては一緒にいて心地よい相手に感じるのだと聞いている。人間の話かと思っていたが、どうやら竜にもそれが適用されるようだ」


 へー……転移者は異世界だと無条件に好意集める的な話なら聞いたことありますが、動物? も対象になると。


 やったぜ。いや本当、本命のおまけとかヘイト集めるタイプの転移じゃなくてよかった。むしろ人間から下手に好意集めるのも怖いから、動物の方が全然……。


 いやね。もちろん、嫌われるよりは好かれる方がいいんですけど。こっちが無関心の相手にぐぐっと来られるのって怖いしなあ。上手にかわせないと、なぜかこっちが悪いことになるし。

 なんでやねん、はっきり嫌って言った時のさ、逆上怖いじゃん。公的行動範囲が一緒な人だと、ブロックバイバイ! して終わりにもならないのよ。毎日顔合わせるのよ。反応鈍かったら脈なしだと思って引いてくれよぉ、本当さ……。


 あ、いかんいかん、ちょっと学生時代の嫌な思い出が。

 幸い、異世界で会った人達は、今のところ皆いい人達ばかりだ。もしかしたらまだ、「ん?」って思う要素が出てくるほど、深いお付き合いをしてないってだけの話かもしれないけど。


 でも皆、異世界から来た私のことを敬愛してくれて、すごくよく気遣ってくれてるのは伝わってくる。


 それなのに毎日ニート満喫って、ちょっとどうなんだ。何もしなくていいって言われてるけど、何かしらはやっておかないと駄目なんじゃない? とか思ってきた頃合いでもあった。

 だからもふ竜様のお世話係に任命されるのは、やぶさかではないというか、むしろ渡りに船ですらあったのですが……。



「きゅうううううう!」


 場所はバルコニー……中庭? まあ、昨日も来た、空がよく見える広い空間だ。

 心底恐縮、という風情の団長の後ろを首を傾げながらついてきたら、彼の担当竜様がなぜかいた。私の顔を見るなりばっさばっさと翼を羽ばたかせ、「遅い!」って言ってるような気がする。


 まさかもふ竜様に出待ちされる日が来るとはな。というかリピートですか? 昨日も即寝落ちしてたけど……。


「サヤ……本当に申し訳ない……」

「いえいえ! こんにちは、グリンダちゃ……様」

「きゅっ」


 お返事可愛いねえ……でもなんかいかにも気位が高そうなお嬢様っぽいから、ちゃん付けしたらへそ曲げそう。


 私は教わったとおりに竜の様子を確認しながら近づき、そっと真白いもふみに手を置く。


 おっふ……いやね、本当ね、竜ってだけで大体もう約束されし勝利のもふみであるってことは昨日経験済みなわけですが、グリンダ嬢の毛はね、特に格別なのよ。何この……綿飴? ふっわふわでもっちもち。でもすべすべもしていて、なんていうの、この……極上毛布……お客さん本当いい毛並みしてますね……。


「きゅーん♥ きゅーん♥」


 私も撫でてるだけでテンション爆上がりなのだが、グリンダ嬢は気持ちよさそうに目を閉じ、ごろりと寝っ転がっ……あっお客様それはちょっと困ります、主に下敷きになったらさすがに質量差の問題が発生しそうです。いったん待避させていただきたく候!


 若干ヒヤッとしたけど、団長さんがさっと手を伸ばしてくれたこともあり、全身で竜を受け止める(物理)にはならずに済んだ。ふう、危なかっ……これはこれで別の危なさがあるな!


「あ、ありがとうございます」

「いや」


 私は素早く言って、そそくさアーロン氏から離れた。

 騎士様だし、保護者だし、引率者だし、まあわかるけど……距離が近いのよ。いや、私がちょっと昨日からなんか気にしすぎてるのかもしれないけど、うん。


 騎士様から微妙な距離感の所に立って改めてグリンダ嬢を振り返ると、彼女は寝っ転がったまま、首だけ上げて私をつぶらなお目々で見つめる。


「きゅっ」

「……腹を撫でてほしいんだそうだ」


 えーとこれは? と首を傾げたら、親切な通訳ことアーロン氏が補足してくださった。


 なんと。マジで。ポンポン行っていいんですか。え、本当に? ち、力加減がわからん……とりあえず優しく、優しくこの辺を……撫でる? 擦る? やればいいんですかね?


「きゅー」


 声音的に、たぶん合ってるはず。えーと力加減は……弱い? もうちょい強く? あっ強すぎましたごめんなさい!? このぐらい……はいはいこのぐらいですね。しかしポンポンはあったかくて、一際柔らかいなあ……。


 ……ん? んん? うーん……。

 なんだろう、この辺、ちょっとひんやりしてる気がするな。


「きゅう」


 そのきゅうはそこをやってくれの意味のきゅうでよろしいのか。そんな気がする。

 私はグリンダ嬢のひんやりしたお腹の所に両手を当て、しばし止まります。


 痛いの痛いの、とんでいけー。


「きゅう……♥」


 少しはよくなったかしら? グリンダ嬢がなんだか快適そうに首を伸ばしている。……うん、お腹の冷えも取れてきたみたい。全部ぽかぽかのぽんぽんになった。ここに飛び込んだらマジで気持ち良いんだろうなー。


 ……おや? なんとなく不穏な予感。あっこれ、起き上がろうとしてますね!? た、待避――!!


「きゅ! きゅきゅきゅ、きゅー!」


 ぜえぜえ……なんか再び団長さんの腕に収まってしまったけど、身の安全絡むから仕方ないと思うの。


 えーと、なんだかまた翼をばたばたさせて、ご機嫌そうなことはわかった。

 そしてグリンダ嬢はすっきりした顔のまま、飛んでいった。


 なんだろうあのお嬢さん、嵐のような御仁だな……可愛いからいいけども。


「グリンダ!」


 団長さんが呼んでるが、戻ってくる様子はない。生真面目な彼は、気まぐれな彼女に振り回されているのではないかと思い、ちょっとくすっと笑ってしまう。


 おっと、そこでこっちを見るのは反則です。おやめください、心臓に悪いです。


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