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美もふとイケメンが揃ったらQOL向上するに決まってるんだよ!(迫真)

 拝啓、日本のお父さん、お母さん。お元気でお過ごしでしょうか。


 コンビニのスイーツを買いに行ってマンホールっぽい何かに落ちるという、ギャグみたいな最期を遂げる親不孝もので、本当に申し訳ない。いや、そっちで結局どういう扱いになっているのか、わからないんですけどね。


 実は私、まだ生きているらしいです。異世界にて、もふもふのお世話係という大事なお仕事を賜りまして、今も竜舎にて絶賛お役目の真っ最中。

 あ、竜舎というのは竜の滞在用に人間が用意した場所でして。ざっくり言えばすっごく大きい厩舎みたいなものなのですが、竜が好きに出入りできるように扉は開放されていますし、あとものすごく内装がキラキラしていて……。


「ギュー!」


 おっと、考え事をしていたら、つい手が止まっていたらしい。


「こっちに集中して!」と言いたげな鳴き声を上げられたのは、優雅に寝そべる美しき白竜様。惚れ惚れうっとりするような、極上のもふもふであらせられる。


 そう、もふもふ。竜だけど、もふもふ。この異世界の竜は、鱗ではなく毛で体が覆われていたのだ。概ね想像通りのファンタジー世界だったけど、ここは結構なカルチャーショックを受けた部分。


 まあ、翼の他にちゃんと四つ足あったり、頭に角生えてたり、その辺りの造形は、もともとイメージしていたドラゴンそのものなんですけどね。


 しかもドラゴンの毛って、これがもうめちゃんこ手触りがいい。すんごく柔らかくて、滑らかなのだ。その上ほんのりぽかぽかした、お日様のいい香りがする。


 ちょうど今お世話させていただいている通常サイズの竜様も、充分素晴らしいもふもふだ。だが、実はさらにこれより上のもふもふまで、この世界には実在する。


 竜って年を取っても毛並みの美しさが維持されるのに、体はどんどん大きくなっていく。で、最終的にはゾウよりでかいもふ生物にお育ちになる。


 しかもおじいちゃんおばあちゃん竜は大体温厚なので、ちょっと繊細な若竜と違い、一番もふみあふれて柔らかいところ――そう、ONAKA! をお触りしても! 怒られないのだ!!


 何ならもふもふポンポンに呼吸を乱しながら全身うずめる乱行をかましても、「それって楽しいのか、若人よ」って目で不思議そうに見下ろしてくるだけ。超楽しいです。いやだって元いた世界じゃこれはできなかったもの。殺人毛玉を全身で吸える尊み大爆発大顕現よ……!


「きゅうっ!」


 ハアハア……いけない、うっかり思い出しただけで正気を失いかけた。現実の美もふ様、睨まないでください。下僕、ちゃんと仕事しますので。


 まずは翼の付け根。背中をまんべんなくなで回し、お尻からしっぽはさらっと。いったん首の方に戻りまして、ああ本当にこの、見てこの流線、やっべー超やっべーの、そして信頼して下げていただいた頭の耳の後ろ……そうここがお客様のお気に入りです、下僕、存じてますよ。下僕の手はこのために使わせていただきますよ!


「きゅーん……♥」


 ここかい。ここがええのんか。うりゃうりゃ。ハアハア、マジお客様いい身体してますよね、ハアハ……いかん! 保て平常心。


 たまに己の内なる欲望と戦いつつ、強すぎず弱すぎずなマッサージハンドを心がけていると、美竜様は心地よさそうにうっとり目を細め、まもなくすやすや寝息を立て始めた。


 我、異世界来たりて悟りの心を知る。ここに宇宙の平和と調和があるんだよ……。


「サヤ、いるか?」

「おら出てこーい、昼飯だぞー」

「サヤさん、お昼ご飯持ってきたので、ご一緒しましょう!」


 お、ちょうど美竜様すやすやタイムに、私を呼ぶ声が。


 本日お世話している白竜様は非常に可愛らしいお嬢さんなんですが、満足するまで離してくれない、ちょっと困ったところもあるお方でして。だがそこがいいげへへぐへへ。人間だと困る独占欲も竜様から向けられるならただの至福よ。下僕が影分身して同時並行でお世話できないことだけが、ちょっと申し訳ない。


 私はよだれを拭ってから、素早く廊下に顔を出し、しーっとジェスチャーする。美竜様は一度寝るとなかなか起きないが、万が一起こしてしまった場合ご機嫌を直していただくのが大変なのだ。


 私がどの部屋にお邪魔しているかすぐにわかった竜騎士団の皆さんは、すぐに心得顔になり、声を出すのはやめてニコニコ手招きする。一番若い見習いの少年は、抱えているバスケットを持ち上げて見せてくれた。今日もたっぷりだ! 私はいそいそと合流し、本日のランチ会場についていく。


「サヤ、わがままなグリンダの相手は大変だったろう。気疲れしていないか?」

「大丈夫です、むしろちゃんと好き嫌いを態度に出してくれるので、やりがいがありますよ」

「おっ、それじゃ達成感のおかげでごちそうがよりおいしくなるな。今日はなんだと思う? 当ててみろよ」

「なんだろうなあ。サンドイッチですよね? 卵かな、ハムかな、お魚かな。それともジャム……」

「ふふっ……サヤさん、すっかり腹ぺこですね。大丈夫、全部ですよ! お野菜のピクルスもついてるんですって」

「わ、やった! 嬉しいなあ」


 しっかり者の団長さん、兄貴分の騎士、そして初々しい見習い君。

 竜騎士って顔面で採用されてるんですか? とか最初思ってしまったぐらい、皆まあ麗しい容姿をお持ちなので、本当毎日目が幸せ。ついでにこのように皆優しく気遣ってくれるので、異世界来てよかったなって毎日噛みしめている。

 最初は好待遇すぎて若干疑心暗鬼にもなったけど、幸せは誰に恥じるものでもなく、幸せだって言っていいものなんだ。


 お父さん、お母さん。日本で非業の死を遂げた扱いになってたら本当にアレなんですが、そんなわけです。


 もふもふとイケメン竜騎士の皆さんに囲まれて……私、結構楽しく、異世界暮らししています!

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