8.初陣
先輩に連れられ空いている端末からログインをし威風先輩とともに試合の準備をし、いよいよこれからこの部活での初めてのゲームが始まる。
緊張の面持ちでロード画面をみていたがふと先輩の様子が気になってちらりと横を向いた。
すると先輩は名前通りの威風堂々とした姿で画面を見つめていた。
「なにをみているのですか。集中してください。いくらカジュアルとはいえみっともないプレイをしたら私はあなたの入部に反対しますからね。」
「ご、ごめんなさい」
威風先輩はこちらを見ずにそう言い放った。
そうだ、慣れない環境、慣れないデバイス、初めてのチームマッチ、こんな状況じゃ集中していないとろくなプレイができない。
僕は大きく息を吸ってそして吐いた。
「よし!」
気合を入れると同時に試合が始まった。
僕ら二人はキャラクターを操作しロウワーサイドへと向かった。
僕が操作するキャラクターは「ルージャン」
キャリーロールのキャラクターだ。
キャリーというのは基本的に序盤は弱く、終盤に力を発揮するように設定されている。それはキャリーというロールは通常、一般攻撃(NomalAttack通称NA)にてダメージを出すからだ。
このゲームはアイテムを購入し自身を強化していくのだが、キャリーはそれが顕著に現れる。
アイテムを買えば買うほど己の一般攻撃が強く、そして早くなっていき継続的な戦闘を可能としていくのだ。
だが、このルージャンは一般的なキャリーとは少し毛色が違う。
このルージャンは序盤から相手に挑むことができるキャラクターになっていた。
それはこのキャラクターが持つ「特性とスキル」にあった。
このゲームではキャラクターごとに特性と4つのスキルが設定されている。
キャリーはNAで主に攻撃するが、ルージャンはスキル攻撃とNAを織り交ぜて戦う。さらにそのスキル攻撃が一般攻撃を強化する「特性」を持っているため序盤から敵を圧倒できるポテンシャルを秘めているのであった。
「序盤から攻めていきます。」
「そう、じゃあQスキルからとります。」
彼女はそういうと戦闘態勢に入った。
スキル4つはそれぞれキーボードのQWERに連動して呼ばれることが多い。このゲームはアイテム以外にも自信を強化する方法がある。
それがレベルだ。最初はレベル1の状態からスタートしスキルは一つしか覚えられない。しかしレベルを上げると他のスキルを取得、または取得済みのスキルを強化できるのだ。
僕のルージャンも初手でQスキルを取得した。
これは直線状に光線を放ち、NAで届く範囲よりも遠くの敵に攻撃をすることが可能なスキルだ。
これを敵にあて、さらに強化されたNAを敵にぶちこむ、そうして有利なダメージ交換を繰り返していく。
さらに威風先輩の使う「ププ」はエンチャンター、いわいる補助スキルが豊富なサポートロールのキャラクターだ。
通常、レベル1では味方にシールドを付与できるEスキルを取得するのがベターだが、今回は敵に攻撃をし、敵の動きをスローにするスキルを取得していた。これによりレベル1からでも強気な立ち位置で敵のロウワー組と対峙できる。
しばらくして敵ロウワー組はミニモンスターを引き連れてやってきた。
この序盤はロウワーサイドで2vs2をしながら敵ミニモンスターを倒し、お金と経験値を稼ぐのが定石だ。
しかし・・・
「そこの立ち位置危ないですよ」
「え?」
既に数体の敵モンスターを倒しており、次の敵モンスターを倒そうと前へ一歩踏み出した瞬間
敵サポートが一気に距離を詰め、僕のルージャンを打ち上げた。
それに合わせるように敵キャリーも僕に攻撃を仕掛ける
「なにやってるんですかもう。」
危うくデスという場面で先輩のププがQスキルを当てスローにすることでなんとか追撃を免れた。
「ご、ごめんなさい!」
「集中してください。」
「はい・・・!」
だが今の戦闘で自身HPは7割ほど削れてしまった。
「耐えられそうですか?無理そうなら一度自軍へリターンしたほうが。」
「いえ、回復アイテムもあるのでまだ残れます!」
「そうですか。死なないように注意してください。」
僕らはゲート下へと身を寄せた。
ゲートは敵を攻撃してくれるためゲート下であれば大丈夫だ。
そうして自軍モンスター達が全てやられたところで敵モンスターとロウワー組がやってくる。
「私がハラスをするので、あなたはmsをとる事だけ集中してください。」
「わかりました。お願いします。」
威風先輩はゲート下のギリギリ攻撃範囲の位置へ立ち敵へプレッシャーをかけた。
こうすることで僕への攻撃あるいはゲートへの攻撃へのけん制となるためだ。
僕はモンスターを狩ることに集中しつつ自身のHPの回復へと努めた。
このゲームはモンスターを狩る際最後に攻撃した人にお金が入るシステムになっている。そのため、ゲートや自軍モンスターが敵モンスターを倒してしまうとお金を得ることができないのだ。
したがって闇雲にモンスターへ攻撃をしていてもmsは増えていかない。
msはどの程度自身がモンスターを狩ったかの数値で互いのプレイヤーが今相手に勝っているか負けているかの指標になる。
だから僕は細心の注意を払い、モンスターへの攻撃をした。
「あなた、msをとるのはお上手ですね。」
「あ、ありがとうございます。」
なんだか先ほどのミスをとがめられているかのような物言いだが、ここは褒められたと思っていいのであろうか。
そうこうしているうちに回復アイテムとレベルアップにより自身のHPは7割くらいまで回復した。
相手は先輩が隙をみては遠くから攻撃してくれていたため、互いに8割ほど、先輩のHPは満タンだ。
現在試合時間はおよそ5分。ロウワーサイドのレベルは全員4。msは僕が48、敵キャリーが40と、少しではあるがmsの有利をとれている。
ロウワーサイドはどちらかが先ほどのようなミスを犯さない限りは膠着することが多い。
「味方レイダーがくるそうです。合わせましょう。」
「あ、はい!」
マップを見ると味方のレイダーがロウワーサイドへと移動し、敵へ奇襲をしかける(ガンク)合図を出していた。
すかさず威風先輩は”わざと”甘い立ち位置をとる。
敵サポートは先ほど僕にしたのと同じように距離を詰め打ち上げのスキルを発動。
しかし先輩はすんでのところでかわし、敵へスロウを入れた。
完全に前のめりになった敵サポートはそのまま先輩を狙おうとするも、既に味方レイダーが到着しており3vs2の状況になった。
僕はそのままレイダーと共に敵サポートへ攻撃をし、キル。
先輩は敵サポートにあわせようと前にでたキャリーを咎めにさらに前進。
そして敵にスタンをあたえ、逃げられないよう行動を阻害した。
僕はサポートをキルし終えた後、とっておいたEスキル「ダッシュ」を使い、距離をつめ射程圏内に敵をおさめた。
そうして敵を逃がすことなく無事2キルを獲得し、相手との差を大きく広げたのであった。
ms:モンスタースコア。どれだけモンスターを狩ったかの数値。この数値が15開くと1キル分に相当する金額差(約300G)が生じる。
ハラス:相手の射程外から、つまり反撃されない位置から一方的に攻撃、嫌がらせをすること。これによりHP差であったりms差がつきやすくなる