5.MOBA部
扉を開けた先に映った景色に僕は驚愕した。
なにせ大人気ゲームのMoLのプレイ人口は約1億人、そして1万人近くの在籍を誇るこのネクシス学園だ。
もしかしたら部員数100人越えなんてことも危惧していた。
だが、そんな不安は瞬く間に去り、別の不安が僕の頭によぎった。
「お、新入生か?ちょっと待ってな~あと少しで終わるから。」
奥から上級生らしき女子生徒の声が聞こえた。
他に見えるのはその隣に座る大人しそうな黒髪ロングの女子生徒と
その対面に座る凛とした雰囲気のこれもまた女子生徒。
僕の目に映ったのはその三人の姿であった。
「あの~少しお聞きしたいんですけど。」
「ちょっと待ってろって言ったろ?・・・ってあぁーーー!!!!!私のペンタキルがああぁああ!!アカリ!お前わざとだろ!!」
「違う。早く終わらせないと。待たせてる。」
「くそっ!まぁいいやこれでエンドだろ!。」
「というかリア、あなたがあそこでスロウプレーしなければもう少し早く終わっていました。アカリにキルスティールされても文句言えません。」
「いいじゃんか!せっかくのカジュアルモードなんだから気持ちよくなったってさ!それに、時間あるから一戦やろうって言ったのはリンのほうだろ?」
「それとこれとは話が別です。私はカジュアルならすぐ終わらせられるし時間つぶしにちょうどいいと思っただけでこんなロングゲームにするつもりじゃありませんでした。」
なにやら先輩たちが言い争いをはじめてしまった。
声をかけづらい状況だが何より気になることがある。
「あ、あの~。」
「あぁ??あ~新入生か。悪かったな、見苦しいところ見せちまって。」
「い、いえ。ゲームで熱くなる気持ちはわかるので・・・。ところで聞きたいことがあるんですが・・・。」
「なんだ?言ってみろ。あ、もしかして入部希望か?二人か!?」
さっきから答えてくれているのは活発そうな先輩だ。たしかリアと呼ばれていただろうか。短髪でとても発育がいい、おそらく三年生だろう。
だが少し落ち着きがないというか、風貌とは反対に少し幼そうな印象だ。
「そ、そう・・・じゃなくて、あの、他の部員の方はどちらに・・・?」
「いない。」
「へ?」
「部員は私と部長のリンとそこのアカリだけだ!」
「え?????」
僕は目を丸くした。
あれ、入る学校間違えたか?
だって三人じゃ大会にも出られない。
「MoLってプレイ人口1億人でしたよね・・・?確かテニスとほぼ同等の人がやっていると・・・。」
「そうだ!」
「それにこの学校は他所の学校よりはるかに生徒数が多いですよね・・・?なら部員数も・・・」
「3人だ!」
「ど、どうして?」
「む、お前知らないのか?MoLは確かに世界的には有名なゲームだが日本でのプレイ人口は10万ちょっとだ。この学校10校分だな!!」
あっはっはと笑う先輩を僕は愕然としてみていた。
確かに周りにプレイしている人はおろか話しているところを見たこともない。
僕の中にあった数々の仲間たちと己を高めあい共に戦うそんなイメージは瓦解した。
「ってことは大会も出られないじゃないですか!?」
「ん?出れるだろ。」
そういうと先輩は僕らを指さした。
「これで、ちょうど5人だ。ようこそ!MOBA部へ!」
用語解説
・ペンタキル:一人で敵プレイヤー全員を倒すこと。1年に数回できるかできないかの芸当。
・キルスティール:ほっておけばその人が倒せるプレイヤーのキルを横取りすること。これをやると喧嘩になるのでやめましょう。
・スロウプレイ:キルを持って他のプレイヤーより有利になったことで油断し敵にチャンスを与える行為。