4 帰還
「お疲れ様!お兄ちゃん!凄い凄い!」
そう言ってポニーテールの少女が飛び跳ねながら抱き着いてきた。
ユノスは二級衛士の中でも特に才能に溢れ、次世代のエース候補筆頭と目されている。朗らかな性格で驕ることも無く、年の近いユエを兄と慕ってくれていた。
屈託がなく誰とでも分け隔てなく仲良くできることから、仲間内の人気も高い。
「ユノス達が頑張ってくれたおかげだよ。」
「えへへ~。じゃ、先に戻ってるね。」
彼女らは専用の小型スクーターに跨ると、迎えに来ていた機関の大型トレーラーの後部倉庫に入ってゆく。
見てみれば周囲には機動部隊の装甲車等の緊急車両以外にも、なぜか規制範囲ギリギリまで近づいて見学に来ていた観光バスや、望遠で撮影していたらしい取材陣、果ては動物愛護団体らしきものまで大勢押し寄せてきていた。
「行きましょう。事後処理は回収班に任せて、応急処置を行います。」
「ああ。」
そうしてユエはカートに戻ると、ふつりと糸が切れたようにリクライニングしたシートに仰向けに倒れこんだ。
意識が混濁し、目頭に鋭い痛みが走ると同時に目の前で小さな花火が爆発するような感覚に見舞われる。
ユノス達を見送るまでは気力で立っていられたが、体は限界を迎えていた。
「それでは失礼します。」
リトラクタブルハードトップが展開し、窓にスモークがかかる。
オリエンスは小型の収納ケースから細長い棒状のものを取り出し、ユエの腹部を露出させた。
手慣れた仕草で素早く消毒を行い、スティックを突き立てる。
「ンッ!」
フシュッという音と共に、鎮静効果のある薬剤が体内に注入される。
すぐさま頭痛は治まり、気分が和らぐ。
気が付くとカートは自動運転でゆっくりと走り出していた。
「いつも無茶をなさいます。」
「そう・・・そうだね・・・。」
そう言うとオリエンスは透明なパックに入っていたゼリー状の液体を口に含み、口移しで飲ませてくれる。
「んっ、んっ。」
ユエは自然とそれをむさぼるように嚥下すると、軽い酩酊状態を感じると共に睡魔に襲われる。
脱力したまま、何を思うでもなく天井を見上げていると・・・
丁寧に少年の素肌から汗をぬぐっていた彼女は、耳元で優しくささやく。
「お疲れでしょう。少しお休み下さい。」
カートは川沿いに海岸線へと向かう。空は赤く染まり、夕陽が山のふもとへと落ちようとしていた。