078 頭の上ですごい音がしてます……
「がははははっ! 飛ぶ拳か、面白いことをする!」
フルーグは飛翔したゴーレムの腕を、己の両腕で受け止めると、上機嫌に笑った。
まだまだ余裕を感じさせる声だ。
「ぬぅんッ!」
彼はクロスさせた腕を勢いよく開く。
飛翔したゴーレムの拳は弾き飛ばされ、持ち主の肩を掠めてはるか後方の山に着弾した。
ズズズ……と地響きで大地を揺らしながら、山岳が崩れていく。
「もう一発だぁああっ!」
すかさずペリアは左腕も射出する。
対する彼は、ニィッと歯を見せ口角を上げ、右腕に血管を浮かばせ力を込めた。
「傀燕拳ッ!」
そして虚空に向かって拳を突き出す。
放たれるのは握りこぶしの形をした、気の弾丸。
両者は空中で衝突し、互いに威力を相殺しあい炸裂した。
「そちらが拳を飛ばすのなら、俺も真正面から受けて立とう!」
「私は遊んでるんじゃない!」
すぐさま換装した拳を飛ばすゴーレム。
「いかにも、これは真剣勝負」
同等の威力で迎撃するフルーグ。
「ただの殺し合いだあぁああッ!」
少女はその拳に怒りを込めて。
「がははは! 命のやり取りすら楽しむのが武人という生き物でなァ!」
男はその拳に喜びを込めて。
限りなく噛み合わない、復讐者と戦闘狂の戦いは続く。
そんな“遠距離での殴り合い”という奇異な光景は、突如として終わりを告げた。
フルーグが飛ばした気の弾丸。
それがゴーレムの拳を破壊した次の瞬間――光が爆ぜ、あたりを白く埋め尽くしたのだ。
「目くらましか、魅せてくれる!」
視覚だけではない。
その爆発は、音声、空気の流れ、そういった五感が得るあらゆる情報をノイズで埋め尽くしている。
正面から殴り合っても無駄なのは経験済み。
それが近かろうが遠かろうが変わりはない。
承知の上で正面勝負を仕掛けたのは、相手が戦いの愉楽に浸るその瞬間を待つためだった。
(合流しないと倒すのが難しい相手だけど――私は、立ち止まるつもりなんてないっ!)
感覚を閉ざされたフルーグに、加速したゴーレムが迫る――
◇◇◇
「あっちも派手にやってるわねえ!」
地上の光を見下ろしながら、ラティナは魔糸を操る。
彼女の駆るクイーン・ラグネルはゴーレム等と違い人型ではない。
そのためゴーレム同様にマリオネット・インターフェースを使用していても操縦は単純であり、操縦しながら魔術の制御に集中することができた。
彼女は人形全体に炎を纏いながら、オルクスの巨大な体の周りを飛び回る。
「こっちももう少し派手にやりたいところだけど」
「気にするな、こちらも十分に派手だ」
「そうは言うけどさあ、大きさが違いすぎて……って、前はそれが普通だったのに、改めて鎧姿のペルレスと話してると調子が狂うわね」
「我もこちらの姿で生活した時間の方が長いはずなのだがな、若干だが違和感を覚えている」
「“素”ってのはなかなか変わらないものよね」
「そうらしいな」
操縦席の前後で何気ない会話を交わす二人。
その声はスピーカーを経由して外に垂れ流されており――
「余裕をアピールして挑発してるつもりなのかい?」
オルクスは少し苛立たしげにそう言い、クイーン・ラグネルがまとわり付く右の翼で薙ぎ払った。
生じた風は地表に叩きつけられ、近くにあった木々を粉々に砕く。
しかし、肝心のラティナたちはその風に乗って軌道を変え、ふわりと浮かぶ綿毛のようにすり抜ける。
ランスローの部下たちが施した風の術式のおかげだ。
そもそもオルクスの翼によって発生する空気の流れは、魔術とは何の関係もない自然現象だ。
パワーこそ圧倒的なものの、魔術と異なり意図的に刃を作ったり、空気を震わせ相手の体内を破壊するなどといった、明確な“敵意”を形にしたものではない。
それゆえに計算や予測が容易いのである。
「実際そうじゃない、あなたは私たちを捉えられてないわ」
「だがそちらも私に傷一つ負わせられていない!」
オルクスは、風による攻撃はあまり通用しないと気づいたか、今度はくちばしで喰らいつく。
だがそれもするりと間を抜けて避けられ、続けて鉤爪で引き裂こうとしても、その周囲に生じる空気の流れに乗られてしまう。
ガルーダの体の大きさは確かに脅威だ。
だが一方で、大味な戦い方しかできず、対策を施した状態での1対1の戦闘ではその真価が発揮できない。
もっとも、ラティナたちも身に纏った炎でオルクスの羽を焼くぐらいしかできないため、無視してスリーヴァやフルーグに助勢したらいいだけなのだが――
(私だってやることはやってる。スリーヴァの目をごまかせるなら、それはそれで悪くないんじゃないか?)
オルクスはそんなことを考えていた。
どうせ操られるなら、いっそ開き直った方がいい。
しかし操られないのなら、それに越したことはない。
何が最善かと言えば、ここでオルクスがペルレスに敗北して死ぬことだが――彼女とて己の肉体の強固さは理解している。
少なくとも、目の前で飛び回る、小型の飛行機にそれは不可能だ。
「どっちのガス欠が先か――そういう勝負だって言うんなら、そっちに勝ち目なんて無いよ」
「言われてるわよ」
「我が勝ち目のない戦いに挑むと思っているのか、オルクス」
「さてね、あんたと勝負したことは無いから。ただ、頭がいいってことは覚えてる」
「それだけ覚えていれば十分だ」
クイーン・ラグネルから伸びる魔糸は、ペルレスの鎧の内部にまで入り込み、小さな彼女の指に絡みついている。
その指の動きに連動するように、人形下部に取り付けられた、ガーディアンのものよりは小さな結晶砲の砲身が左右に動く。
ラティナの操縦により縦横無尽に高速飛行を行う中、その砲門から魔力結晶が連続して放たれた。
小ぶりとはいえ、普通のモンスター相手ならば、一撃で致命傷になりうるだけの威力はある。
しかし相手はガルーダだ。
結晶が体に当たったところで、ぺちぺちと人の体に当たる小石程度の効果しかない。
「これがペルレスの本気だって言うのか!? 失望させないでくれよッ!」
若干の怒りを込めて吠え、相手に掴みかかるオルクス。
対するラティナはまだ余裕を持って回避できていたが、真横を鉤爪が通り過ぎていくその迫力に、肝を冷やさずにはいられない。
さながら空から隕石が降ってきたような光景である。
「ちょっとペルレス、ぜんぜん効いてないじゃない」
「結晶砲の威力は我のせいではない。人形の重量を制限するために小型のものしか付けられなかったからな」
「最初から期待してなかったってこと?」
「牽制程度には使えるのではないかと思っていた」
「それ以下だったってことね」
「問題はない。ならば我の魔術を駆使するだけだ」
「簡単に言ってくれるわね、操縦してるのは私なのよ? 発動条件が紙一重なんだから――ペルレスの固有魔術は」
会話で固有魔術の存在まで明かすラティナ。
さすがにここまで来ると、オルクスのほうも訝しむ。
何か別の狙いがあって、こんな茶番を聞かせているのではないか。
いやしかし、あのラティナという女の喋り口調、あれはナチュラルボーンな煽り屋のそれだ、似たようなレーサーと勝負して勝ったのに残念な気分になった経験がある――と。
「今度はどんな曲芸を見せるつもりだ? いつまでも遊べると思うな、ペルレス!」
無駄とはわかりながらも、どちらかと言えば“真面目に戦っている”というスリーヴァへのアピールのために、翼を振るうオルクス。
クイーン・ラグネルは生じたその嵐の中で、風にのって気持ちよさそうに飛び回る。
「私もいるんですけどぉ?」
「知らん女に興味などない!」
「それは同感。あーあ、早く帰ってラグネルといちゃいちゃしたーい」
「茶化すのもいい加減にしろッ!」
荒々しく吠えるオルクス。
ラティナはスピーカーを切り、ペルレスに声をかけた。
「ちょっとやりすぎかしら?」
「それぐらいでいい。荒い気性を引き出さねば作戦は進まんからな」
とにかくオルクスから冷静さを奪うこと、それが二人の目的であった。
彼女は基本的に冷静で知的な女性だが、モンスターに乗ってレースに参加している時は非常に荒々しい一面を見せていた。
戦いの中で見せる闘争本能――それを引き出すことができれば、彼女は必ず乗ってくれる。
友人であるペルレスはそう考えていた。
そしてその役目を果たすのに、ラティナほど適任な人間はいなかった。
「吹き飛べえぇええええっ!」
ますます感情をむき出しにして、ガルーダは両翼から風を生み出す。
その余波を受けた地上では、木々も大地も山々すらも、吹き荒れる暴風に巻き上げられていた。
「ペルレス、タイミングは一瞬よ! 外したら承知しないわ!」
「心得た」
「推進機関の温度をさらに上昇、最大加速で接近するッ!」
向かい風へと立ち向かうクイーン・ラグネル。
近づいてくる人形を見て翼ではたき落とそうとするオルクス。
いつもならふわりと浮かんで避けるところだが、ラティナはあえて翼に接近した。
そして羽の表面に、人形の腹をこすりつける。
両者が触れ合った瞬間、ペルレスは瞳を閉じ、魔術を起動した。
「正しい容れ物は何処」
彼女がその魔術を習得したのは、ずっと前のことだ。
氷の魔術を得意とするから、そういう固有魔術になったのだろう、それぐらいに思っていた。
だが記憶が戻った今は違う。
自分の体が自分のものではないという事実を、如実に示していたのだ。
その力は、“触れた相手と温度を入れ替える”こと。
つまり、ラティナの固有魔術により纏う灼熱の炎が、そのままオルクスの体へと移される――
「こ、これは……がっ、ああぁあああああッ!」
彼女は初めて、悲鳴らしい悲鳴を上げる。
巨大な翼の一方が一瞬で炎に包まれ、あたり一帯がオレンジ色に染まる。
「太陽に近づきすぎるからそうなるのよ」
「まさか――今の、一瞬触れただけで……! ぐうぅぅっ、くそっ、消えない……くそぉっ!」
必死に翼をばたつかせるオルクスだが、燃え広がる炎はむしろ強さを増していく。
空を飛ぶことさえ難しくなった彼女は、徐々に高度を下げながら必死で水場を探した。
そして湖を見つけると、ラティナたちに背を向けてそちらへ急ぐ。
「道理や理屈をすっ飛ばして理不尽を押し付ける。これが固有魔術の恐ろしさよねえ」
仮にランスローが味方として戦ってくれていたら、この場でガルーダを倒すことも可能だったかもしれない。
「どーする、追いかけちゃう?」
「ふぅ……ふぅ……」
「あら、かなり魔力持っていかれちゃったみたいね。そうよね、あれだけ対象があれだけ大きいんじゃ、いくらコアで補助したって厳しいわよね」
「それもあるが……我の方も……体温が、上がってしまったらしい……」
「温度を入れ替えたわけだから、本人も影響受けちゃうんだ。鳥類って体温高いし、あれだけ大きければさらに高い可能性あるものね。あれ、でも私の固有魔術の影響は出てないわよね」
「そんなことない、先ほどから操縦席の中がかなり暑くなっているですよ。我の魔術で調整しているがな」
発動した固有魔術は、魔糸を通して接続した人形を介して効果を発揮する。
だが100%の力を人形越しで発揮できるわけではなく、何%かは術者自身からも発されてしまうわけだ。
ラティナの場合は自身の周りの温度が急上昇し、ペルレスの場合は入れ替えた温度の一部が自分の肉体に適応される。
そのどちらも、ペルレスの氷魔術のおかげで相殺できてはいるものの、それが無ければとっくに行動不能に陥っているだろう。
「はぁ……よし、もう大丈夫だ。我の固有魔術ももう一度は使えよう」
「ちょうどあっちも火が消えたみたいだし、もう一方の翼に仕掛けてみましょうか」
湖で必死で体を冷やしていたガルーダが、再び飛び上がる。
羽ばたきと共に、飛び散る水しぶきが地表に降り注ぎ、まるで大雨でも降っているような様だった。
そして焼け焦げたはずの羽は――完全ではないものの、再生され、元の形に戻りつつある
「それにしたって、どうなってんのよあの体」
「例のごとく、再生しているのだろう」
「あの図体で再生って、どっからそんなエネルギー持ってきてるの? つくづくコアってイカれてるわ」
自分たちも利用しているが、それも込みで今の人類には過ぎた力だとラティナは感じている。
それでも存在する以上、向き合って使っていくしか無いのだが。
対して、戦線に復帰したオルクスは、空中に留まりクイーンラグネルを凝視する。
(そうか……あんな小さくても私を殺せるのか。さすがだね、ペルレス)
最初は期待しすぎたかと思ったが、きちんと悪を砕く正義として彼女はそこに在る。
そのことが、心の底から嬉しかった。
「なーんかあいつ、ちょっと嬉しそうじゃない? 鳥だからよくわかんないけど」
「そうだな……ひょっとすると死にたがっているのかもしれん」
「よくわかるわね。でも考えてみれば、あのリュムって子と同じ、巻き込まれた側の人間だものね。私もラグネル無しで過去とか未来に飛ばされたら死にたくなるわ」
「ならばそれに応えてやるのが友としての務め」
「もっかい行っちゃう?」
「ああ、次は頭部だ。今度こそ終わらせる」
「いいのねそれで」
殺すことに迷いがないと言えば嘘になる。
相手は古い友人だ、もう一度対等に語り合いたいとだって思ったし、リュムのような悲劇を繰り返したくないとも思っている。
しかし、助けてやるには相手の力があまりに強大すぎる。
クイーン・ラグネルは対策を施したからこうして戦いになっているが、オルクスはその気になれば王国など一瞬で滅ぼしてしまえるのだ。
現在、スリーヴァやフルーグと戦っている大型人形たちも、彼女を前にすればひとたまりもないだろう。
「構わん、そのために我はここにいる!」
勇ましくペルレスはそう言い切った。
その言葉が、じわりとオルクスの胸に染み込んでいく。
(そうだ、それでいいんだ。まっとうに戦って負ければ、スリーヴァが私を操ることもなく――)
――しかし、それはあまりに不出来な茶番だ。
殺されたがりが殺されたところで、そこに面白みなど何もない。
そう感じる者がいた。
『何をしてるんだい、オルクス』
オルクスの脳内に響く、老婆の声。
(どうして……スリーヴァの声が、頭に……)
『ふぇっふぇっふぇっ、そんな虫けらに苦戦するなんて、素敵な体を持っているのに宝の持ち腐れじゃないか』
体を操れる、いつでも殺せる――そう聞いてはいたが、こうして頭に直に話しかけることができるとは聞いていなかった。
聞きたくないのに、拒みようがないものだから、嫌でも聞かされる。
(黙れ、私は本気で戦っている!)
『そうかもしれないねえ。けどもったいない、その体なら単純な魔術を使うだけでどんな相手も圧倒できるっていうのに』
(私は魔術師じゃないんだ)
『だったら、私が力を貸してあげるよ』
(何……?)
今、最も必要のない助力であった。
オルクスは“最悪”を避けるために本気でペルレスたちと戦ったのだ。
そこにスリーヴァが介入すれば、全てを台無しになってしまう。
(余計なことをするな、私がケリを付ける!)
『遠慮することはない、ちょうど観戦に飽きて暇してたところさ』
(やめろ)
ピリッ、と脳にしびれるような感覚が走る。
『私がその体をしっかりと――』
(やめろ……)
やがて体が言うことをきかなくなり、両翼が意思に関係なく“勝手に”羽ばたく。
『有効活用、してあげるからねぇ』
そしてオルクスの体内にある魔力が強制的に外部へと引きずり出された。
翼の前に術式が浮かび、さらにその前に渦巻く風の球体が現れる。
「やめろぉおおおおおおおおッ!」
思わずオルクスは叫んだ。
しかし思い通りに動かせるのはもはや喉ぐらいのものである。
「うわっ、びっくりしたぁ……」
突然の大声に、肩をすくませるラティナ。
「オルクスが苦しんでいる?」
「それ以前に、とんでもない魔術が発動してる気がするんだけど、私の目の錯覚かしら?」
「彼女が魔術師だったという話は聞かないがな」
「リュムだってバチバチ言わせてたんだし、モンスターになってから身につけたとか?」
「ならば今まで使わなかったのはなぜだ。それにあの声……」
球体は次第に巨大化していき、ただ、そこに存在するだけで周囲の風の流れをぐちゃぐちゃにかき乱す。
「い、いけないっ、それは……あ、あが、あああ……!」
「オルクス、どうした!?」
「にげ、て」
「はぁ? 逃げてって頼むならその魔術引っ込めなさいよ」
「できないんだ! 今の私は、スリーヴァに操られて……ぐうぅっ!」
「そういうことね。でも平気よ、このクイーン・ラグネルならどんな風でも――」
「いいから……頼む、逃げてくれえぇええええッ!」
完成した風の塊を、ガルーダの翼が叩いた。
瞬間、塊は風船のように弾け、内側で圧縮された空気が一気に爆ぜる。
最後の一瞬、オルクスは必死に抵抗し、放出された風の向きをわずかにずらした。
そのおかげで、生じた気流はクイーン・ラグネルのわずか横を掠めていく。
大地は抉れ、木々は呑まれ、山は砕け、海は裂け、空は割れる――
遠く遠く、どこまでも、彼方まで。
大陸が――否、星が、破壊される。
ラティナとペルレスは、そんな光景を見た。
寒気がして、体から体温が失せていくのがわかった。
なのに背中にびっしょりと汗をかいている。
魔糸が絡まった指先が震える。
生唾をごくりと飲み込み、ラティナはようやく声を出した。
「ねえペルレス」
「……」
「これ、ヤバくない?」
基本的には自信家のラティナだが、今回ばっかりは弱気にならざるを得ない。
「ヤバいです」
思わずペルレスの口調も元に戻る。
「次来たら、逃げられなくなぁい?」
「逃げられないです」
「……どうすんの?」
ペルレスが答えを持っているはずがないことは承知していた。
それでもラティナは、聞かずにはいられなかった。
「気合で、乗り切るしかないです」
そしてペルレスも、そんな答えを相手が望んでいないことを理解しながら、そう言うしかなかった。
「いやいや私に気合なんてそんなもん無いわよ!?」
「なら愛で乗り切るしかないです」
「愛なら……あるわ。ふぅ……」
ラティナは目を閉じて深呼吸して、愛おしい妻の姿を思い浮かべる。
するとすべての恐怖を払拭することはできないが、ふつふつと根拠のない勇気が湧いてくる。
「だって、ここで死んであの子を悲しませるなんて嫌だもの。そうよ、愛のパワーで生き残るのよ。ラグネルを想う私に不可能なんて無いんだから!」
もはや戦うとか戦わないとか、そんな次元の話ではない。
生きるか、死ぬか――
「愛してるわ――ラグネェェェェルッ!」
「ウレアさん……!」
「やめろスリーヴァ、こんなもの私は望んで――うわあぁぁああああああッ!」
三者の感情を無視して、次なる星割りの風は放たれ――
一瞬でクイーン・ラグネルはその中に呑み込まれた。




