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039 命の危機です!

 



 その日、フィーネは朝からベッドで大の字になって寝ていた。




「だらーん」




 そしてペリアは、彼女の適度の硬い腹筋を枕にしながら横になっている。




「だらーん」




 さらにエリスは、ペリアの太ももに抱きつきながらまどろむ。




「だらぁーん」




 三人は完全に休日モードであった。




「川沿いの村でよお、昔、開いた魚がこんな感じでぶら下がってるのを見たんだよなぁ」


「私は魚……開かれた魚……」


「そして私はそれを食べにきた鳥。がぶがぶ」


「うひゃぅっ、くすぐったいよエリスちゃーん」




 太ももにかぶりつくエリス。


 彼女はペリアが嫌がらないのを良いことに、さらに大胆にも舐めだす。




「ぺろぺろ」


「うひひひっ、たすけてーっ! フィーネちゃぁーん!」




 助けを求められたフィーネであったが、彼女はエリスの表情を見てドン引きしていた。




「エリスのやつ、目が血走ってやがる……おいこら変態、それぐらいでやめといてやれ」


「誰が変態?」


「お前だよお前」




 エリスは自分の手を見ながら、深刻な表情で言った。




「……そうかもしれない」


「認めやがった!?」


「そしてフィーネも変態」


「出た、エリスちゃんの巻き込み変態だー!」


「変な技使うなよぉ!」




 認めつつも周囲を巻き込むことで、自分の変態度数を下げようという魂胆らしい。


 ちなみに誰も乗ってこないので言うだけ無駄である。


 すると、ペリアは若干しょんぼろしているエリスの手を両手で握る。




「大丈夫だよエリスちゃん。私はエリスちゃんが変態さんでも、一生一緒にいるからねっ」


「ペリア……私……っ」




 あまりに優しいペリアの言葉。


 エリスから見た彼女は、もはや天使そのものであった。




「もう……我慢できないっ!」




 そしてエリスの中で、天使とは汚すものという認識であった。


 彼女はペリアの横腹にかぶりつく。




「うひゃひゃひゃっ、なんでっ!? なんでぇうひひひっ!」




 陽気にじゃれる二人を見て、フィーネは他人事のように窓の外に目を向ける。


 巻き込まれて無駄に体力を使いたくないらしい。


 彼女の視線の先には、青空学校で生徒たちに魔術を教える女性たちの姿があった。




「元気にやってんなー。お、今日は上級魔術師勢揃いじゃねえか」


「んひいぃぃっ! はひゃっ、あひんっ、フィーネちゃっ、たひゅけてへぇっ!」


「ハァハァ、ペリア、ハァハァ」


「エリスひゃんがっ、へんたいなのぉーっ!」


「でもペリア、お前よく見たら楽しそうだぞ」


「しょんにゃことはあははははっ!」




 そろそろペリアが限界を迎えそうだったので、フィーネは仕方なくエリスを引き剥がす。


 彼女は威嚇する猛獣のように「フーッ! フーッ!」と鼻息を荒くしていた。


 解放されたペリアは、汗ばむ頬に銀色の髪を張り付かせながら、ベッドに横たわり、胸を上下させる。




「はひぃ……エリスちゃんの指さばき、恐るべし……」


「普段からトレーニングは欠かさない」


「何のだよ」


「詳細を聞きたい?」


「いやいいわ、すっげえ嫌な予感がする」


「はぁ……はぁ……それでフィーネちゃん、何を見てたの?」


「学校だよ。結局、建設が遅れてるから空の下でやっちまってるけどな」


「住宅の需要が増えたせいで後回しになってるんだっけ」




 エリスが言うと、フィーネは頷く。


 いくら木材が潤沢にあっても、建設に携わる人間が増えない限り、この問題は解決しないだろう。




「できれば早く作ってほしいんだが、この村で学校に来るような年齢の子供はせいぜい20人ぐらいだもんなあ」


「この村に限った話じゃない。最近はどこも子供が少ない」


「人類が滅びるっていうんじゃ、そうそう子供を産もうって話にもなんねえよな……」


「でも、あれだけ豪華な先生に魔術を教えてもらえるってなったら、王国中から人が殺到すると思うなっ」


「確かに……レスは前からやってるからいつも通りだが、ラティナとペルレスはどういう思惑があるんだか」


「レスは懐かれてる。ペルレスもみんな楽しそう」




 ペルレスは相変わらず鎧を纏ったままで、子どもたちには怖がられそうなものだが、意外にも反応は上々のようだ。


 特に男子からは、そのかっこよさに対して憧れの視線を向けられているらしい。




「でもラティナだけ誰も懐いてない」


「な、何でだろうねー……」


「子供は人間の本性を見抜くからな」


「悔しそうな顔をしてるから、余計に怖くて子供が近寄らない」


「プライド高そうだからああいうの効くだろうなー、はっはっはっ」


「フィーネちゃん楽しそう」


「いやあ、そんなことはないぞ? あっはっはっはっは!」




 フィーネとラティナは、水と油といった関係性で、どうしても反りが合わないらしい。


 まあ、どちらかと言うとラティナが身勝手な性格をしているからなのだが。


 そんな授業風景を三人で眺めていると、ペリアはとある話を思い出す。




「あ、そういえばラティナ様がね、将来的にマニングに人形工場を作ったほうがいいから、教育する場所が必要だ……みたいなこと言ってたかも」


「工場か。そうだな、鉱山みてえに生活と人形が密接に繋がってくるなら、ペリア一人の負担にするにはリスクが高すぎるもんなぁ。ってもしかして、あの子供たちを人形使いに育てあげるつもりなのか?」


「そのための基礎魔術教育……かなり気長な計画」


「それまで居座るつもりなのかよ……」


「土地ほしいって言ってたから、住むんじゃないかな」


「王国見捨ててんじゃねえか。上級魔術師って忠誠心とかねえのかよ」


「それは私たちが言えた立場ではない」




 独自に結界を作っている時点で、王国からしてみれば大きな脅威である。


 元からそのつもりはないが、もはやペリアたちが王都に戻ることは不可能だろう。




「この様子だと、あたしらも長くここに住むことになるんだろうな」


「私たちの故郷は――帰りたいけど、住める場所かって言われると、そうでもないもんね」


「恋しくはあるけどな」


「ただの田舎だから。帰って、私たちが元気にやってると伝えられれば――」


「だねー……いつの間にか違う方向に進んじゃってる気がするけど、目標は帰ることだもんね」


「そのためには……あー、そのためにはどうすりゃいいんだ? 隣接する村に相談して、結界開かせてもらえばいいのか?」


「やろうと思えば今でもできる」


「あたしもそれを思ったんだよな」




 ゴーレムの力があれば、結界を開くことだってできる。


 村に相談する必要すらないのだ。




「言われてみれば……ゴーレムちゃんを走らせれば2時間もあれば行けそうだし、やっちゃう?」


「2時間なら、いっそ今日やっちまうか。いや待て、だらだら休日も捨てがたい……!」


「散歩ついでと思えばいい」


「ペリアは大変じゃねえのか?」


「ゴーレムちゃんを動かすぐらいなら、息するのと変わらないよ」


「あたしが剣を振るうようなもんか。ならさっそく――」




 フィーネの髪の毛は、寝起きのときと同じボサボサのままだ。


 エリスとペリアも、顔は洗っているが部屋着である。


 いくらゴーレムに乗るとはいえ、外を出歩くにはいささかラフすぎるので、身支度を始めようとすると――窓の向こうで、ラグネルがラティナに向かって走っていく。




「んお? なんだあれ、やけに焦ってんな」




 フィーネがそう言うと、二人もそちらに視線を向けた。


 ラグネルはラティナと軽く言葉を交わすと、今度はそのラティナを引き連れてペリアたちの屋敷に駆け寄ってくる。




「ラティナ様たちがこっちに来たねぇ」


「あたしらに何か用事か?」


「すごく嫌な予感がする」




 予感は案の定的中し――ラティナが強めに窓を叩いた。


 フィーネはしぶしぶ鍵を外し、窓を開く。




「大変よっ! あいつやりやがったわ!」




 顔を合わせるなり、ラティナは大きな声でそう言った。




「誰が」


「何を」


「どうしたんです?」




 三人が首を傾げると、彼女は忌々しげに告げる。




「メトラ王子が、アーサー王を殺したのよッ!」


「ええぇええええっ!?」




 ペリアは驚きに声をあげずにはいられなかった。




 ◇◇◇




 ペリアたちはラグネルとフィーネを屋敷に招き入れ、応接室に集まって改めて情報の共有を行った。




「私はギルド経由で連絡を受けたの」


「どうやらランスローが伝言を頼んだようね。彼が気づいたときには、王城の兵士たちは全滅していたそうよ」




 ラグネルとラティナが語る話に、フィーネは顔をしかめる。




「全滅だと? 腐っても王国の中心部だ、それなりの兵士が揃ってるはずだろ」




 続けてペリアが疑問を呈した。




「メトラ王子にそんなことできるんですか? そんなに強くなかったはずですよね?」


「詳しい経緯は不明、ランスローにすらわからないみたいね。ただ、メトラ王子が兵士を率いた様子はなかったって話だから……」


「ランスローは上級魔術師のはず。王城が全滅なら、研究室はどうなったのか気になる」


「今のところ無傷よ。ランスローは身を守るために、王子――いや、今は王を名乗ってるメトラに従うと言ってるみたい」


「……気に食わないけどそれが賢明」


「上級魔術師なら制圧できそうなもんだけどな」


「王城にだって軍の魔術師がいたはずだから、それも全滅したってことは……」


「メトラ自身が、何らかの力を持ってる可能性が高いわね。それこそ、上級魔術師すら退けるほどの」




 あまりにきな臭い話だった。


 メトラは外部から何らかの力を手に入れた可能性が高い。


 しかし、世界はモンスターに支配されているのだ。


 一体誰が、彼にそんなものを与えるというのか。




「あと、地下牢からヴェインがいなくなったって話もあるわ」


「メトラが逃したのかよ」


「その可能性はあると思うな。ヴェインはメトラ王子と繋がりが深かったから」




 血統至上主義――その存在は当然ペリアも知っている。


 彼らは特定の血を引く者以外を、同じ人間として認めない。


 そんな考えを持つメトラだからこそ、王城の兵士たちを皆殺しにできたのだろう。




「ヴェインは、王国では王家に次ぐ由緒正しき家系の生まれだもの。その縁で昔から付き合いがあったのよ」


「歪んだ主義の持ち主が醸造されてそうな環境」


「それが煮詰まった末の凶行でしょうね……」




 ラティナはうんざり、と言った様子である。


 部屋にも重苦しい空気が広がる。


 どう考えても、話し合いで丸く収まる相手ではないからだ。




「王都の貴族どもはどういう反応してんだ?」


「軍も気になる」


「仲間を殺された軍はともかく、貴族はこのクーデターを概ね好意的に受け入れてるみたいよ」


「嘘だろ、馬鹿げてやがる!」


「そうだよぉ。いくらアーサー王が穏健派だったからって……!」


「連中が馬鹿なのはわかってたことよ」




 吐き捨てるようにラティナは言った。


 ラグネルも静かにうなずく。


 上級魔術師として、そういった連中と直に接してきた彼女たちの反応には気持ちがこもっている。




「とにかく、こうなった以上、王になったメトラは今まで以上に強行手段に出てくると思うわ。マニングにも今まで以上に圧力をかけてくるでしょうね」




 マニングは今や、王国にとって唯一の対抗勢力だ。


 メトラたちが全力でここを狙うのは誰の目に見ても明らかだったし、その核となる人物も彼らは理解しているはずだ。




「私だったらその場合、真っ先に狙うのは――」




 エリスはそう言って、じっとペリアを見つめた。




「え……私?」




 彼女は自らを指さしながら、こてんと首を傾ける。


 ペリアを除く全員がうなずいた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] もう一つの素晴らしいコントラスト。 かわいいペリアさんと彼女のアンティック、そしてそれが明らかになると暗闇、マニングはもう一度ターゲットになります。 私はこの場所で問題が本当に止まらない方…
[良い点] エリスは隙あらばこの物語をノクターンへと導こうとするのでデンジャラスですね…そういうことはこっそりしなさい!後からノクターンにて詳細を要求する! そんなイチャラブタイムに入る悲報、ぺリアに…
[良い点] 39/39 ・スローライフ終了のお知らせ [気になる点] どう見ても、戦闘になりますね [一言] 主人公が嵐の中に、いなければならないのか。なるほど
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