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031 新事実です!

 



 ひとまず屋敷へと案内された上級魔術師三人。


 ペルレスの鎧が扉に激突するなどのハプニングはあったものの、概ね順調に大広間に移動した。


 テラコッタとマローネ、ブルックは挨拶を済ませたので、手前で別れた。


 人数も減り、落ち着いたところで本題に入る。




「さて、さっき外に見えてたけど、あれが例の巨大人形ね」




 ラティナが問うと、ペリアは嬉しそうに答えた。




「はい、ゴーレムちゃんですっ」


「か、かっこよかった……わね」


「わかっていただけて嬉しいです、レス様!」


「あれがモンスターを撃退したっていう報告は受けてるわ、無骨な見た目だけど性能は確かのようね」


「報告って、どっから聞いたんだよ。まさか上級魔術師様はこんな田舎にまでスパイを忍ばせてるのか?」




 少し毒のある口調でフィーネは言った。


 ラティナはため息交じりに答える。




「ギルドよ。昔、冒険者をやってた繋がりでね、今でも情報をもらってるの」


「冒険者ぁ? 貴族のお嬢様がか?」


「ラティナは実家に反発して家を飛び出していたの」




 メイド姿の妻、ラグネルが口を開いた。


 彼女は堂々とラティナの隣の席に座っており、その振る舞いからも従者ではないのは事実のようだ。




「どうしてそんなことを?」




 エリスが尋ねると、ラグネルはぽっと頬を赤く染めた。




「私との結婚を反対されたからよ……」


「なるほど、二人で逃避行をしていたと」


「昔の話よ。今は堂々と伴侶だって胸を張って言えるわ」


「でも女の人同士で結婚ってできましたっけ?」


「そんなの貴族特権でどうとでもなるわよ」




 堂々とラティナは言い切った。


 明らかな職権濫用である。


 まあ、彼女は貴族に生まれたのなら、その地位を最大限に利用してやろう――と考えるタイプなのだろう。


 泥臭く生きてきたフィーネと反りが合わないのも当然である。




「気になるのはやっぱり動力源よね」


「モンスターコアについても報告は受けてるんじゃねえのか」


「聞いてるわよ、研究所にもサンプルはあるもの。でも問題は最初に作られたものよ。モンスターから奪ったわけじゃない。ペリア、貴女が作ったんでしょう?」




 するとペリアは立ち上がり、床に向かって手をかざした。


 固有魔法の起動。


 倉庫から、最初にゴーレムに搭載したレプリカント・コアを取り出す。




「これが私の作ったレプリカント・コアです。天上の玉座が撃破したスライムから摘出されたコア――それを参考に、魔石を組み合わせて作りました」


「い、今の……固有魔術……よね?」


「あー……聞きたいことはたくさんあるけど、まずはコアに絞りましょう。貴女はそれを自分で作った、つまり量産も可能なのね?」




 ペリアは首を振る。




「いいえ、それが最初の一個以降は全然うまくいかなくて」


「ペリア、私もそれは気になってた。一度作れたら、ファクトリーでまた作れるはず」


「私もエリスちゃんと同じこと思ったんだけど、これだけは何度やってもうまくいかないの」


「奇跡的にうまくいったってわけか……」




 会話に参加しないペルレスは、一人立ち上がり、床に置かれたコアをまじまじと観察している。


 ラティナもその隣に並び、しゃがみこんで人差し指でそれをつついた。




「見たところ、ただの魔石で作った球体って感じよねぇ。これが無限の魔力を生み出すっていうんだからわかんないわ」


「で、でも実際……モンスターにはそれが入ってるのよ、ね。人為的に作られた? 実は、他国の兵器?」


「レス、話はゆっくり広げていきましょう。考えてる以上に事情は複雑みたいだから。ひとまず、最初のコアはペリアが作った。モンスター撃破後は、そこから採取したコアを動力源に使っている。そういう認識でいいのね?」


「その通りです。今は20メートル級のコアを使用しています」




 赤い髪をかきあげ、何かを考え込むラティナ。


 しかし思考がまとまらなかったのか、軽くため息をつくと、椅子に戻る。


 そんな彼女の動きを、フィーネとエリスは目で追っていた。




「さて、次だけど――ゴーレムとは少し離れるけど、コア繋がりで結界について聞こうかしら。こちらで把握している限りでは、マニングの結界は一度消えた。しかしその後、王国の助けを借りることなく、何者かが再び結界を展開した――という流れでいいのよね?」


「結界なら私が話を聞く。確かに、それで間違いない」


「聖王エリス……つまり貴女が結界の再展開を行ったと?」


「以前から結界の研究はしていた。王国を包む結界から術式を逆算して、モンスターコアを動力源に新たな結界を展開した」


「じゅ、術式を逆算は……すごいね。すっごく詳しくないと……無理、だと、思う」


「でもまずいわよ、それ。結界の維持は王族のアイデンティティ。それを奪った形になるんだから」


「王族のメンツなんてどうでもいい。それより教えてほしい。マニングの結界が消えた理由について」




 エリスは真っ直ぐにラティナの目を見つめた。


 特に怒りなどの感情は読み取れないが、得も言われぬ迫力がある。




「消したのはヴェインよ」




 久々に聞いたその名前に、ペリアは目を見開いた。




「どうしてあの人が!?」


「取り調べの途中だから、まだ理由はわかってない」


「取り調べってことは、あの野郎掴まったのか?」


「ええ、ちょうどペリアを連れ戻すため、マニングに向かう途中でね」


「あいつ、まだそんなことやろうとしてたのか!?」


「道中で罪状が発覚。強制的に王都に連れ戻されて、今は牢屋の中ってわけ」


「捕まったってことは、証拠が残ってたんですよね」


「王城内にある王族のみが立ち入れる、結界の管理区画……そこに彼の魔力の痕跡が残されていたわ。ヴェインは管理設備に何らかの細工を施し、遠隔操作でマニングの結界を消したと考えられている」




 ラティナは険しい表情で語る。


 するとペリアは、言いにくそうに口を開く。




「あ、あの……一つ、いいですか?」


「気になることでも?」


「ヴェインは火属性を操る魔術師だったと記憶しています。その彼が、結界に細工なんてできるんですか?」




 それは遠回しに、『ヴェインの実力でそんなことできるはずがない』と指摘しているのだ。




「私も同感。専門外の人間が簡単に扱えるものではない」




 エリスも同意し、フィーネは「うんうん」と頷く。




「やっぱり引っかかる? 私もそう思うわ」


「ヴェインは……あまり言いたくないけど、実力は、そこまで高くないわ……結界術式は非常に高度な、しかも、光属性の魔術……それこそ、聖王さんでもないと、難しいわよね」


「あるいは、王族が関与しているか――」


「アーサー王はそんなことする人じゃないと思います」


「ま、それを込みで取調べ中ってことよ。マニングでは独自に結界を管理してるのも理解したわ」


「エリスちゃんはすごい魔術師ですから! おかげで結界をいくつも作れるようになったので、土地も広がってるんですよっ」


「わお、それは素敵な話ね。今のうちに土地でも貰っておこうかしら」


「貴族価格でぼったくってやるよ」


「ケイトをけしかける」


「そりゃいい考えだ」


「ケイトって、商王ケイト? 会ったことはないけど、悪名は聞いてるわ」


「わ、私……騙されるかも……そういうの、苦手だから……」


「まあ、ケイト絡みで何か困ったことがあったら私を呼ぶといい」




 対ケイト対策において、エリス以上に有効な武器は存在しない。


 逆に言えば、エリスという天敵が居ても残ることを選ぶほど、ここに大金が埋まっている可能性を見出している、ということなのだろうが。




「座って話すことはこれぐらいかしら。あとは直接、実物を見ながら進めましょう」


「あ、待ってください! 最後に一つ、意見を聞きたいものがあって」




 ラグネルと共に立ち上がり、手を繋いで外に出ようとしたラティナを、ペリアが呼び止める。


 彼女は手のひら大の球体をテーブルの上に置いた。




「何、これ」


「先日、ダジリールという街で、私たちはモンスターと同等の力を振るう、意思を持つ人形と交戦しました。その人形の体内に埋め込まれていた、コアと思しき物体です」


「それは聞いてないわよ。あっちのコアより余裕で小さいじゃない。これでモンスター並の出力が?」


「はい、ゴーレムちゃんを使ってどうにか倒しましたが……」


「あたしとエリスが束になっても勝てなかった。人間サイズじゃ簡単に王国に紛れ込まれちまう」


「外はガラスに似た透明の材質、奥にはコアに似た球体と、紫の気体……レス、どう思う?」


「……これ」




 レスは細い手をのばすと、ガッと強い力で新型コアを握りしめた。


 そして顔を当たるほど近くまで寄せ、前髪の隙間から見える瞳を血走らせ、にらみつける。




「よくない……すごく、よくないもの……こ、こんなもの……許されない……」




 握った手がふるふると震える。




「レス? どうしたっていうのよ」




 彼女をよく知るラティナも、その異様な表情を訝しむ。


 どうやらレスがここまで感情をむき出しにするのは、珍しいことらしい。


 そして彼女はかすれた声で、絞り出すように言った。




「あまりに非人道的。この紫の気体は、死者の魂。それも苦しめられて死に、怨念を溜め込んだ魂。このコアは、死んだ人間の魂を使って、魔力を高めている……!」




 死者を研究するレスだからこそ、理解できたその仕組み――


 同時にその事実は、意思なき人形に意思が宿った理由、その解でもあった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 先ほどお話しするのを忘れていましたが、同じ分野の科学者であるペリアさんとテラコッタさんの興奮を楽しんでいました。 立ち止まる必要のない人と話すようなものはありません! ラティーナ様はとて…
[気になる点] >「でも女の人同士で結婚ってできましたっけ?」 >「そんなの貴族特権でどうとでもなるわよ」 そこは上級魔術師特権にしましょうよ。 実家の権力だと横槍来ますよ?
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