Chap. 5 ついにきた
フーーーーーーーーーーーーーーー。
ハーーーーーーーーーーーーーーー。
はふっ
「レチャ」
「ひいいいぃぃぃ!」
はあ、とテーサがため息をつく。
「緊張しすぎだ。」
「うーむ」
今日は待ちに待った(...?)王立魔術師魔法大会。
あの後、テーサは何事もなかったように出てきて普段通りに家に帰った。
そして今日、私たちは山を夜のうちから越えて、王都の近くの競技場まできている。
来ている。
競技場付近に。
まだ競技場に入っていない。
原因はもちろん(?)この私、レチャである。
私があまりにも緊張するから、ね
大会で使われるドルクネス競技場は、ドルクネス魔法学園の敷地内にある。ドルクネス魔法学園は、超上級魔導師をも出している、レベルの高い学校である。多くの魔法使い見習いの憧れで、大会で優秀な成績を残すことができれば、入学が認められる。それが目的で大会に来る人も少なくはない。
今日は大会の初日。大会というからそこまで危険には聞こえないが、これは命がけの戦いである。
でも私たちは最善を尽くす。
「ほら、そろそろいいか?」
「ん」
会場に入ると、さっきより人が増えていた。ざっと...300人くらいは居るんじゃないか。全国の魔法使いたちが集まっているのだ。
準備をしていると、会場の真ん中に大きな石が現れて、真っ赤なローブに身を包んだ男の人がその上に現れた。
「紳士、淑女の皆様!王立魔術師魔法大会、ことローファ魔術大会へようこそ!今日は確固たる未来を手に入れるために、いろいろな地域から集まっていただきました。トラムに神々に誓って力を発揮すれば、必ずや、極上の世界へ導かれることでしょう!皆様に情熱あふれる火の神、ディンセロファルと、魔を秘めるヘラジャヤイチャのご加護がありますようお祈りしております。では。」
会場がざわつく。
男はそうまくしたて、ローブを翻した。すると彼はパッと消え、代わりに同じローブの女の人が現れた。
「御機嫌よう。これから魔術大会のルールについて説明させていたきます。
1.魔道具を持ち込んではいけない。ただし武器はいくらでも持ち込んでよし。
2.他人に頼りすぎてはいけない。団結力もみるが、自立して生きていく力も大切であり、自信を持つこと。
3.自らリタイアした場合、歩行困難な負傷をした場合、命を落とした場合、ルールを破った場合などは棄権。
それ以外は自由です。他人を傷つけてもよし。大会内で得たアイテムを使ってもよし。」
その女の人はスピーディーな説明に慌てる受験者たちをぐるりと見回す。
「今日は大会の初日。すなわち狐火の果たし状が来る日。」
女の人がパンッと手を叩くと、どこからか、白いコウモリがたくさん出てきた。出場者たちに向かって飛んでいる。
「「わーっ」」
息をつく暇もなく、物事がやってきて、みんな混乱していた。しかし、テーサは違った。
「おい、後ろ!」
テーサの声に、私が振り向くと、一匹のコウモリが一直線に飛んできた。慌てて手を伸ばして捕まえると、それは白い封筒だった。
会場が収まったくると、再び女の人は口を開いた。
「皆さん、封筒は受けとれましたか?それを開けるのは森に入ってからにしてください。約束を破った場合は失格ですよ?」
もう開けてしまった人が退場していった。かわいそうだけど、指示を待てないということだ。
「そろそろお時間です。魂の秤を受けてください。全員が計り終わったら自動的に大会が始まります。御武運を。」
彼女は宙返りをして消えていった。どんな魔法を使っているのだろうか。気になる。
いつのまにか、大きな天秤が競技場に6つ置かれていた。人々が列をなしている。
あの天秤で何を測るのだろうか?洗礼だと言っていたけれど。
見ていると、一人一人が天秤の片方の皿に乗って、何か言われている。
「あれでダメだったら退場させられるのかな。」
「...どうだろうな」
しばらく待つと私の番になった。天秤は、間近に見るととても大きかった。
天秤の傍らには全身を黒い布で覆った人が立っていた。
「こちらへどうぞ。」
はしごで皿までたどり着いた。天秤の上は結構高かった。背伸びをすると、反対側の皿に、水晶のような丸くて透明な玉が見えた。私が乗ると、天秤の針が振れ出した。不思議なことに、水晶玉より私の方が重いはずなのに、天秤は釣り合っていた。針は左右均等に揺れ始めると、水晶玉が震えはじめて、変色した。水にインクを垂らしたように、じわじわと染まっていって...真っ黒になった。
「なんと...!」
黒づくめの人が息を呑んだ。
でも私は心配になった。色が変わった...ましてや黒なんて。私が悪い人っていうこと...?
そんな私をよそに、黒づくめの人は、私に言った。
「あ、あなた、ドルクネス魔法学園への入学は考えていて?」
「い、いいえ」
「そうですか...。でも気が変わったら是非入ってくださいね。あなたには素質がありそうです。あなたの魂色は漆黒です。これは、神の加護を受けている...。」
わけのわからないことを彼はつぶやく。声からして男性だ。
彼はふと我に気づいたかのように、振りかえって、私をてんびんから降ろしてくれた。
「では、お気をつけて。」
布ごしでも彼が微笑んだことがわかった。お辞儀をしてからそこから離れて、テーサを待った。
今のはなんだったんですかね?
疑問に思っていたらテーサも来た。よくわからないけど二人とも洗礼は合格のようだ。
全員計り終わったようで天秤が煙のように消えた。
「みなさん、時間です。」
周りがざわめく。何か叫んでいる人もいた。
「幸運を祈ります。3...2...」
急なカウントダウン。
レチャと、「がんばろ」と、握手する。
「...1.........0」
パアアアン!!!
???
大きな音がしただけで何も起こらない...と思ったら。
上から強風が吹きつけてきた。思わず目をつむってしゃがむ。
風が収まって、レチャは目を開けた。
そこはもう先の会場ではなかった。
そこは夜の森。『黒狐の闇夜』だった。
2ヶ月半ぶりの更新です。大きな休載を入れてしまって本当に申し訳ございませんでした。言い訳を言うなら俗に言うスランプです。これからもよろしくお願いします。
さて、大会がようやく開催されました。レチャとテーサはどうなるのでしょうか?
そしてあの黒づくめの男の言葉の謎は?
みなさんが忘れているであろう彼女の存在はいかに?
次話もお楽しみに。