Chap. 3「あれ」への道
その日は、テーサと「メーレーンに卵で閉じたサウ殻汁」を食べた。テーサは、私に不安や悩み、不満などを吐き出したせいか、私が家に帰る頃にはスッキリしていた(やけ食い......)。色々と聞いてて、こっちが今度は疲れた......はは。
それから二週間「あれ」のための鍛錬を続けた。基本魔術や苦手な武術、そして応用生活魔法などを何度もなんども練習して、ロッカさんやテーサ、学校の先生などに見てもらった。どうかな。上達したといいけど。
私は武術魔法がとても苦手だ。唯一普通レベルまでできるのは弓矢を操る魔法。それ以外はちょっと...無理...
だったけど!
今では周囲の人たちのおかげで結構使えるようになった。
「ほらほら、はしゃいでないで次のをやるぞ。」
分かった、分かった、と私は頷く。
「次は、爆発魔法をやろうか。」
「ええー、あれ苦手でさー」
「言い訳するな」
今はテーサと魔法の復習しあいっこしている。さっきは私が得意とする生活魔法をテーサとやっていた。今度は私が練習する番なのだ。
「呪文は覚えているか?」
「うん、確か、コンフローソ・ファトレだよね。」
大体の武術魔法は最後にファトレがつく。生活魔法はチャムレだ。
「ああ。じゃ、やってみて」
私は爆発させるところへ念を送り、力を込めて言った。
「イクリーシ・チャムレ!」
ボゴッ
「え?わぎゃ!?」
本当なら土が爆発しするはずなのだが......土は持ち上がって、レチャの顔めがけてぶっ飛んだ。
「はあぁぁぁー。ファトレとチャムレ間違えるとかありえないよ。」
テーサはこめかみを押さえながら言った。
「......。フェフファウ・ファフフェ」
レチャが泥だらけの顔に手をかざして、呪文とは言えない呪文を唱えた。するとキラキラと水が出てきて、レチャの顔を洗い流した。
「呪文、効くんだ......?」
「チャムレだし?」
「はあ」
二人は自主練を終えて、学校へと向かった。
教室に着くと、すでに4、5人座っていた。だがしばらくすると部屋は、今回の「あれ」のための説明授業を受ける生徒たちで満席になった。
「さて、今回皆さんが受ける、’’ローファ魔術大会’’ですが...」
ローファ魔術大会。
そう、これこそが私が立ち向かう壁だ。
「ローファ魔術大会の正式名称を知っているものはいるかね?」
あー、なんだっけ?
私の横でシュバッと手があがる。
「テーサ」
「はい。王立魔術士魔法大会です」
「そうだ」
王立魔術士魔法大会は、昔、神の御法度に触れてしまった青年が、神に処罰を受けるところを、通りすがった火の神が興味を持って止め、自分の出す果し状を果たすことができれば、この罪、見逃してやろうではないか、と仰せになって、見事に青年は果たすことができた、という伝説が元だ。
「レチャ」
そのため、ローファ魔術大会には四つの試練がある。狐火・怪火・陰火・鬼火の、四つの、火の神の従者による果たし状なんだよね。
「レチャ?」
どれもこれも危なく難しい試練で、生活魔法と武術魔法と知恵をどう使いこなせるかが、コツなんだけれど...イコール、それて完璧を目指せってコトですよね?凡人は無理かも...なんて思ってしまうのは私だけなのかな。
「レチャ!!」
「は、はいぃっ」
みんながこちらを向いて私を見ていた。
「独り言がうるさい。それも今から話そうとしていたことのほとんどが言われてしまったじゃないか。授業妨害のため授業後、教室に残れ。」
「すみません、先生」
クスクスクス
誰にでも聞こえるような声で誰かが笑った。
......トーレム村のレッチェだ。
この学校、トレカ学校は、デルカ村とトーレム村の境目にある。一見ん平等に見えるが、違う違う。先生はほとんどトーレム村の人で、トーレムの生徒に贔屓する傾向がある。それだからか、両村の生徒はお互い対立している。もともと村同士が食料関係でいがみ合っているのもあるかもしれない。
「毎回毎回同じこと注意されるなんてバカみたい」
「あの子の名前、なんだっけ?」
「え?あいつは’’独り言ヘボ魔女’’だろ」
「ぶはははっ、ウケるわー」
私は思わず振り返って彼らを睨んだ。
「こわっ」
「はいはいお静かに。では改めて説明しますが...」
先生はさっき私が言ってしまったことを改めてわかりやすく説明した。それに加えて、細かい注意事項や噂話なども。
「では、授業を終わります、お疲れ様でした。」
「「「ありがとうございました」」」
みんながぞろぞろと教室から出て行く。テーサも、「外で待ってる」と、去った。
「やあやあ、ところでレチャ、武術魔法はどうだい?前回の予想演習授業ではひどかったらしいが?」
「ええ、まあ...」
「髪が土臭く、ぐちゃぐちゃだが、これは?」
「ここに来る前に友達と...」
「泥遊びでもして遊んでいたのか?大会の前に?どうかしている」
「違います、魔法の練習で...」
「ああ、ああ、よーくわかった。だからこんなひどい格好なのだな?金が足りないと。かわいそうに」
確かにデルカとトーレムの貧富の差は大きい。よくそれをバカにされる。
でも、わざわざ呼び出して、優越感を得ようと、いろいろ言われるのはとても不愉快だ。
だからと言って、無理には向かうのもよくない。相手は、一応先生だし、魔法の技術も頭の回転もおそらく私を上回るはずだ。はあ。
「まあ、しょうがないな、追加の宿題をたっぷり出してやろうと思っていたのだけれど...我慢するか。ほら、早くお仲間のとこに行きな?部屋が汚れる。」
外に出るとテーサが壁に寄りかかって待っていた。
「ごめん、時間かかった。」
先生との会話が筒抜けだったようで、テーサは眉をしかめながら肩をすくめた。
「あの先生、いつもああだよ。レチャばっか苛めて。」
と、レチャの腹の虫が鳴った。
「ふふ。食堂行こうか」
「うん」
二人は仲良く食堂へと向かった。