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Chap. 2 卵を求めて



ヘラジャ・ヤイチャが生まれた。



数週間後、この知らせが村中に広まった。村の人々はお祭り騒ぎになり、祝いに祝って、たくさんの贈り物をテーサの家に届けた。


しかし、テーサの母は死んでしまった。ヘラジャ・ヤイ・チャを生んだ者は生きながらえないので、仕方がないのだ。


今回の「子」は、珍例だ。何と、双子だったのだ。そして二人とも、魔力測定器で高い数字が出た。つまり両方ヘラジャ・ヤイ・チャだ。村の長者の使いが今、異例な事態を伝えに都へ向かっているところだ。本来であれば、特別な”子”は一人だけだ。とすると神がとても慈悲深くなられたのか、どちらかが本物ではないのか。しかし測定器は正常だったはずだ。


午前中にテーサに会ってきたが、彼女は死人のような顔をしていた。最後に母と話したのは二ヶ月前だそうだ。その母を亡くし、一人かと思えば二人もの手のかかる赤子が生まれてくるやら、赤子の魔力に耐えきれず、親戚の家に行ってしまうやらでとても大変そうだった。確かに用事は同じ屋根の下で過ごせないかもしれない。だから頼れるのは父親と近所の人たちだけだ。



「母さん、今度、サウ殻汁にメーレーンの卵を入れたのをテーサに届けに行こうよ。」


サウ殻汁とはサウラムケーの鶏ガラ汁のことで、メーレーンの卵で閉じると、栄養たっぷりでとても美味しいのだ。メーレーンは体が透明で見つけにくく、捕まえられるのは「獣狩りの神矢」と呼ばれる吹き矢の名人ロッカさんだけだ。そもそもチャツ山脈のこの付近にしか生存しないので、とても貴重だ。


メーレーンの卵は「漆黒の珠」と言われるほど黒く妖しく光る。(あの透明な体から真っ黒なものが生まれるなんて信じられないけれど!)大きさは手のひらにギリギリ収まるくらいで、一つで3人分ほどまかなえる、すごい卵だ。


「でも、メーレーンの卵はどうやって手に入れるのかしら?」


あ。それは考えていなかった!もしかしたらロッカさんが分けてくれるかもしれない。ただじゃないと思うけれどね。


「ちょっと出かけてくる!」


急なレチャの言葉にレチャの母、チェンリルは目を少し見開く。それでも、ふふふと微笑ましく思いながら口を開く。


「もうすぐ暗くなるから気をつけて行くのよ。」


「はーい、すぐ戻るね!」



ロッカさんはとにかく狩りが上手い。森からの土産がなかったことはほとんどないはず。雰囲気からして寛大な大魔導士〜って感じだけど、彼は狩り一色で、狩り以外の魔法はあまり使わない。ロッカさんの家は結構近くて、狩りの術を教わるために前はよく通っていた。今は練習があるからあまり行けてないので会いたいな、と思っていたところだった。


?......練習?


いけない!あと何週間あるだろう、「あれ」が開催されるまで。ヘラジャ・ヤイ・チャのことで頭がいっぱいで、完全に忘れていた!


ロッカさんは家にいなかった。「狩り中」という木札が都にかかっている。ロッカさんといえば森の中心の大きなヤイの木の近くで狩りをするから、山に入るしかないね。


夜の森には入ったことがない。でも木の様子や獣道、人の道は目を閉じたってわかる。唯一自信がないのがヤイの木へ行く道だ。やいの木の周りは常に暗く闇に包まれていて、闇の神が作った最初の木ではないかと言われているのだ。でもその木を拠点に狩りをするのは上級者でないと無理だ。


.........やっぱりロッカさんはすごい...........さすが...........追いつけまへん........


森に入ると、昼間には聞こえない謎の鳴き声がした。


キエッ、キエッ、ギエッ、キエエエエ


まるで知らない山に入ってようで、少し怖いけれど面白い。


「アレアレ、オジョーサン、ドコイクノサ」


誰?......誰もいないようだけど、空耳かな?も、森の中が....怖くないわけじゃないからね、変な声が聞こえてもおかしくはない。


「オイ、無視スルノカ!俺ハ虫ジャナイゾ!ウム、我ナガライイシ洒落ダ。」


え、何....? 怖いんだけど。誰の気配も感じない。


「ココ、ココダ!木ノ下!」


木の下......?


木下にはたくさん落ち葉が散乱していた。でも、たった一つ、たったひとつだけ違和感のある葉が。その葉には顔のような模様がついていて......立っていた。目を何度こすってもこちらを向いて立っている葉がある。


「え......あなたがしゃべったの......?」


「ソウダゾ!失礼ダナ、指サスナンテ。」


「あ、ごめんなさい。ところであなたは?」


今までこんな現象は見たことがなかった。だって葉っぱだよ?でも本でも本で読んだことがるような.....。


「俺ガ何ナノカ、自分デモ知ラン!イツモフト目ガ覚メルトコノ暗イ世界に居ルノダ。マア、初メテノコトダシ、面白イゾ。」


あー、あー、もしかして、これ、ヘラジャ怪奇現象では?


「移動ハ風ニ乗ッテル。良いタイミングデ飛ブノガコツダ。コーイウフーニ!」


葉っぱはぴょんと跳ねて見せた。

しかし レチャは、葉はそっちのけで、他のことを考えていた。

そうだ!多分ヘラじゃ怪奇現象の「命ともり」だな、これは。

レチャは一人、新たな発見の感動に浸っていたのだった。それを破ったのはもちろん、


「オイ、聞イテルカ!」


葉っぱだった。


「あっ、はい....」


なんか、なんとなくだけど、この葉っぱ、私より年上な感じで、敬語になっちゃいます。


ドスン!ドスン!


不意に地面が大きく揺れた。


「オイ、葉ッパヨ、日ガ見エル所ヘ連レテ行ッテオクレ」


き、木が.....


「歩いてる?!」


それ以前に動いてる!


いや、多分葉っぱと同じ現象なんだろうけど、大きさのこともあるし、葉っぱは歩かないし、なんかショッキングなんですけど。


「ジャアナ、小娘、マタイツカ会オウ。サ、木サン、行キマショウ、コッチドス。」


ドスン、ドスン


植物は言葉を話し、動いている。昔の伝説で聞いたことがあるような気がする。おとぎ話のようで面白いけれど。


確か、ヘラジャ現象には他にもある。あ、サウラムケーの大量発生もその一つかもしれない。



レチャは密かにまたあの葉っぱに会えないかなと思いながら、山を進み、ロッカさんを見つけた。そして、彼らのことについて話すと、ロッカさんも不思議に思っていたらしい。ヘラジャ現象について教えるとロッカさんは目を丸くした。


「その話......他のやつにも行っていいかい?森で謎に蠢く獣がいる、と言って夜、森に近づけないやつが続出しているんだ。」


「いいですよ」


ロッカさんは、私がテーさととても仲が良いことを知っていて、メーレーンの卵をなんと3つもくれた。産みたての卵だそうだ。帰ったら鶏ガラ汁を作らなければ!


二人はもうじき日が暮れるというところまで立ち話をした。久しぶりの話す機会を無駄にしたくなかったのだ。ロッカさんはロッカさんで結構忙しかったそうだ。ヘラジャ・ヤイ・チャへの貢ぎ物として、希少なものを送りたいという人たちがいるのだけれど、その素材を取れるのはロッカさんくらいだからだ。他にも、怪奇現象について知っていることをできるだけ話した。森のハンターは森のことを知り尽くしたいそうだ。


しかし、さすがに狩りの名人でも、二人の会話が盗み聞き魔法で聞かれていることに気づかなかった。



次話は、ついに、レチャの言っていた。「あれ」について知ることができますよ!


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