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第一話

グッと後ろに引かれるような、まるで車が急ブレーキをかけた時のような感覚が半分寝ていた私の目覚ましだった。原因は私が乗っている機体の減速用パラシュートが開いたからだった。

隣の席に座っていた同じく日本人の航空機オタクは『今の感じ、もう一生忘れません』やら『来てよかったぁ』やら喧しかった。寝不足なので勘弁してほしかった。

一方でそのオタクが興奮するのも無理は無いな、とも思う。何故ならオタク本人の話によれば、ツポレフTu-104などという旧式機体を飛ばしているのは、"この国"の航空路線が最後だということだったからだ。


"この国"、ユダヤ国と国外のメディアから呼ばれる事の多い、マンチュリア社会主義共和国は建国以来ソビエト連邦の衛星国家だったから、ソビエト連邦製の機体を使うのは当たり前だった。


未だに新京と呼ばれているマンチュリアの首都のナータン-ビルンバウム国際空港の前には使いこまれた感じの日本製のバスが停車していた。


「ようこそ、新京へ」


おそらくは中古車なんだろうなぁ、と私が思っているととても綺麗な、だが何処か訛りのある日本語が聞こえてきた。私が驚いて、辺りを見渡すとバスの傍らに立っていた美しい女性がほほ笑んでいた。

話を聞くと彼女が私たちのガイド役らしかった。

頭に白髪の混じった不愛想な運転手の運転で、国際空港を離れると、そのままバスは市街地を回り始めた。


「いやぁ~すごいっすねぇ」


聞き覚えのある声が聞こえて、後ろを振り向くと私の後ろの席に座っていたのは例の航空機オタクだった。

また、こいつと一緒か、と私は少し落胆したが、それでもオタクの言う通りすごい景色だった。窓の外には日本統治時代とほぼ変わらない景色が広がっていたからだ。今や歴史の教科書でしか知らない人間も多くなった満州国そのままだった。


満州国とマンチュリア社会主義共和国には深いつながりがある。

第二次世界大戦以前からドイツのナチ政権の迫害を受けていたユダヤ人は陸路シベリア鉄道を使って満州へ、あるいは海路を船で上海へと集まっていた。そこから更に船でアメリカまで脱出する筈だったのだが、太平洋戦争の開戦で頓挫してしまう。

しかし、ミッドウェー海戦での帝国海軍の()()によって彼らの運命は大きく変わり始める。

この戦いにおいて空母三隻全てを失い、敗北を喫したアメリカに対し大日本帝国は秘密裏に講和を提案したが、アメリカ側はこれを拒絶した。

そのため大日本帝国は更なる揺さぶりをアメリカに加える為に、ある計画を実行に移す事にした。河豚計画と呼ばれた計画がそれだった。満州にユダヤ人による自治国家を建設するという計画であり、彼らユダヤ人を通じて、アメリカとの講和を斡旋してもらおう、という計画だった。

これにより、満州で足止めされていたユダヤ人のみならず、日本軍占領下の上海からもユダヤ人が集められ満州へと送られる事となった。


しかし、こうした動きを知ったアメリカのユダヤ人社会は、これを激しく批判し、『ユダヤ人にとって帰るべき故郷は神より与えられた約束の地(カナン)以外にありえず、故にこれを阻害する如何なる試みにも我々は反対する』と声明を出した。

例え日本がいくらユダヤ人を保護しようとも日本がドイツの同盟国である事には変わりなく、ドイツ打倒を目標としていた連合国が単独講和を拒絶していた以上、大日本帝国と連合国との講和の斡旋などはあり得ない話だった。


ユダヤ人移送は別の所にも影響を与えていた。ソビエト連邦、正確にはその指導者であったヨシフ-スターリンだった。

スターリンは幼少期に父親より反ユダヤ的な教育を受けており、日本への警戒も相まって大量のユダヤ人移送は日本軍がユダヤ人を訓練して、シベリア、極東において破壊工作を働こうとしているからではないかとの疑念を持った。大量のレンドリースされた物資がウラジオストクに集まっていること考えればありえないことではなかった。

戦後の調査によれば関東軍の一部にそのような構想はあったが、実行には移されなかったとされている。


一方、真珠湾とミッドウェーの復讐に燃えるアメリカでは対日戦にもっと力を注ぐように、との共和党や民主党内部からの提言に従って、ルーズベルト政権が日本優先方針を打ち出し、対ドイツ戦についてはイギリス及びソビエト連邦への援助を増やす事とした。

結果、帝国海軍の優位は一時的なものに過ぎなかった。エセックスから急きょ艦名を変更されて就役したスプルーアンス級航空母艦などの新戦力が投入されるとその優位はあっさりと覆されていた。


欧州では無敗を誇ったドイツ軍は()西()からのB-17の群れ、とソビエト軍のスチームローラーによって押し潰されていき、1945年5月13日のソ連軍のフレンスブルク制圧によってドイツ第三帝国最後の総統カール-デーニッツが捕らえられたことで終わる。


そして、1945年8月の対独戦を終えたソ連対日参戦により満州国は瓦解し、1945年8月15日の玉音放送と9月2日の戦艦()()()()艦上での降伏文書調印式をもって大日本帝国は降伏し太平洋での戦闘も終わった。








ミッドウェー海戦に関する描写が少ないですが、一応お題としてはミッドウェー海戦そのものではなく敗北後の世界だから複合作品でいいはず…


楽しみにされている方には申し訳ないのですが、こちらが完結するまで帝都に砲声轟けば、の更新はしばらく凍結にします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 御参加ありがとうございます! 満州に成立した社会主義のユダヤ人国家とは、また面白い設定ですね。 [一言] 今後お題とどう絡みながら、歴史が進んでいくのか。非常に興味深いところです。
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