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ザーザーぶりの雨の日に、別居中の夫と再会しました。

作者: 花木 満

 発掘してきたお話なので

 おかしいところがところどころおそらくあります。

 誤字脱字報告など受け付けますのでどうぞお知らせください。

 しとしとしと…。ぽつん。

「雨?」

 空を見上げると灰色の雨雲…。これは、しばらく止みそうにない。

 慌てて鞄を、ごそごそ探すもレインコートや折り畳み傘といった雨を防ぐものは何も無い。

 

(朝は雨、降っていなかったのに…。)

 

 こんなことなら天気予報をしっかり見れば良かった。…寝坊に気をつけねば…。

 あまりにもザーザー降りで道を歩く人も少ない。近くの店まで走ってビニール傘でも買おうか…。

 そう思っていたところ、目の前にぱんぱんに膨らんだビニール袋を片手で持った長身の男が通り過ぎた。長身の男は一瞬こちらを見たかと思うとふりむき私の顔をじーっと見つめる。


「傘は?」

「ない。」

「じゃあ、一緒にくる?車できてるし。」

 

 ザーーーーーーーー。

 いつもならなんとしても頷かないところだが、今日はしょうがない。この雨だ。


 こくんとが頷くと男は寄ってきて傘に私を入れる。


「僕の家でいいよね?」


 乗せてもらう私に拒否権は無いのだ。それを理解していて言ってくるこの男は本当に…。


「濡れちゃうからもっとくっついて…。」

 

 ぐいっと引っ張られる力はあくまで優しい。

 ああ、やっぱり君は変わっていないのか。


 我が夫よ。








 

 我が夫と、私は夫婦であるがギリギリ夫婦に属する。恰好をつけずにいうと離婚していない別居中の夫婦である。

 はじめは夫の家(一軒家)に一緒に住んでいたのであるが、仕事などがお互い忙しくなり家を開ける日が多くなり、そして自然と…一軒家に帰らなくなったのである。


「元気にしてた?」

「君こそ、元気にしてました?」

「僕はこの通り。元気だよ。離婚届絶対書かないから。」

「了解です、それに今日持ってきてないですし。」

 

 赤信号で止まったとき、夫は私にこの平穏をぶち壊す言葉を言った。


「ああ、そうだ、家に子供いるから」

「何がああそうだの話題なんですか?ちょっと教えてよ。」

「聞きたい?」

「うん。」





 一軒家につくと玄関に可愛い小さな靴。思わず可愛い…と声をもらしてしまった。  

 久しぶりに入るけど変わってないな…。


「部屋はそのままにしてあるよ、物も一式。行ってもいいから先に子供を見てってよ。」

「お義姉さんの娘さんの望結ちゃんでしょ。あんなに小さかったのにもう幼稚園生なんて…こんにちは〜望結ちゃんお久しぶり。」 

「望結、叔父さんのお嫁さん。」


「こんにちはぁ!」


 可愛い。可愛すぎる。



「望結ちゃんの面倒、一年見るんだ〜。」

 

 望結ちゃんが寝るにはまだ早い時刻にコトン、と眠ってしまった。ご飯もまだなのに…小さい子って可愛い。


 それにしても、夫が望結ちゃんの面倒を一年見る?どういうことですか?


「お義姉さんが離婚してシングルマザーになって、一年外国に会社の都合で…。ってことだよね、大丈夫?一人で面倒見るなんて。」

「わからない、けど姉さんも外国に幼い子供と2人はちょっと危険だし大変だって。」

「そうだよね、私でも預けると思う。」

「それに、望結が今までの幼稚園に行きたい!って言ったらしくて…遠くに住む母さんたちの所はいかないって駄々こねちゃって…」

「ここになったと。」

「そうなんだ。一昨日預けてったんだけど、なかなか大変で…。寝不足。デザインの仕事もできないし。」


 夫は売れっ子デザイナー。ずいぶん稼いでるけどデザイン画の締切とかで忙しいこと知ってます。

 基本在宅勤務の夫なので預け先にはピッタリだけど…


「目のくま、大丈夫?心配になってきたんだけど。」 

 何年かぶりの夫の体調が非常に心配。私は君のかっこいい姿しか見たことなかったから、目にクマできて仕事できなくて、ってちょっと弱ってるのが新鮮。


「寝不足、ふぁ〜眠い。」

「ちょっと寝てくれば?望結ちゃんの面倒見るし。」

「いいの?ありがとう。じゃあついでに仕事もやっちゃうよ。」

「頑張って。」



 そういって夫を見送ると改めて望結ちゃんと向き合う。


 すーすー。


 小さい子って可愛いし、暖かい。

 ぽっペもぷにぷに。まだ赤ちゃんだと思ってたのにこんなに大きく、、、、、。子供の成長って早いね。


「んんんん!」


「望結ちゃん、起きた?」


「うん、ごはん!」


・・・・・・・・・ごはん?





 この家の家主にご飯作っていい?と聞くといいよ~。という返事が返ってきた。

 ごはんって、正直即席でぱっと作れるものじゃないんだよね。

 ごはんはある。おかずは・・・案の定ゼロ。作るしかない。

 とりあえず野菜きって、いためて、リンゴでもむいて・・・。レンジで野菜チンという強引な手段でゆで?野菜完成、これをお湯の中に入れて、コンソメのもと入れて、、、。



「望結ちゃんお待たせ~。急いで作ったからこんなものだけど・・・。」


「ありがとぉ!」


 ズッキューン!!



 可愛すぎる。

 夫にご飯できたよーと声をかけるも仕事に集中するとのこと。


 二人で美味しくご飯を頂く。

「美味しぃー!」

「ありがとう。」


 あとでチンして持ってくか。夫は集中するとしばらく仕事に没頭だからね。


「叔母さんお風呂〜!」


………………………お風呂?



 ご飯を食べさせたら家主(夫)とバトンタッチをして帰ろうとしていた私。お風呂は完全に想定外。

 いやいや。お風呂ってさ…。

 家主に確認をするも寝ていた…。夫〜!


 しかし、

 こっちの事情など子供は知らないのである。仕方がないのでお湯を入れザブン。

 

 あ〜!なんか染みる~!

 なんて思うけど望結ちゃんが心配でそんなどころではない。

 頭を洗うも体を洗うも、、、。ひとつひとつが危なっかしくて気を遣う。

 もう一度言おう。こっちの事情など子供は知らないのである。


 なぜだろう。お湯につかった気がしない。

 物理的につかりましたけど、精神的にはつかってないのも同然で。

 正直なところ、入る前より疲れました。


 お風呂を上がっても元気いっぱいで・・。パジャマ着せるのだって一苦労。

 夫よ。


 君は本当に一人でやれるのかい?






************




 ピヨピヨぴよ。



 心地よい小鳥の鳴き声で目を覚ました僕は、いきなり覚醒した。なぜなら寝ていた場所が仕事場でありいつものベッドではなかったからである。



「望結!」

 

 唐突に思い出し顔が青ざめる。望結!僕が寝ちゃったけど、家にいるよな。いてくれ!

 望結が寝ていたら、なんていうことはもはやどうでもよくなり「望結!」と盛大に叫びドアを開ける。


「おじさんおはよお!」


「あ、ああ。おはよう望結。」

 よかった。ちゃんといたよ望結。

 だけど・・・・。


「望結の隣にいるのは。。。。。」


「おじさんのおよめさん?だよ!一緒に寝てもらったの!」


「そ、そうなんだ・・・。」


「うん。」


 こんなに大きな声で話していても目覚める気配ゼロの妻。よっぽどお疲れなのだろう。

 まあ、疲れさせたのは望結だけど僕でもあるからな・・・・・。

 少しばかりの罪悪感と、久しぶりに疲れのない気持ちよさを感じて心の中で、妻にありがとうと告げる。


 朝から元気な望結の頭をなで名案を思い付く。


「望結、叔母さんが寝ている間に二人で朝ご飯作らないか。」

「うん!ねえねえ何作る?何作る?」


 この時期の子供は多感だからな。思春期とは違うけどなんにでも興味があるのだろう、ほら目がキラキラしてる。


「何つくろっか?」


「う~ん・・。コンソメすーぷ、コンソメすーぷにしよ。昨日叔母さんが作ってくれたの!」

「そうなんだ。じゃあコンソメスープにしよっか。」


 望結と手をつなぎキッチンに向かう途中、頭を横切るのは望結と僕と妻が三人で手をつなぐところ。

 僕と妻はもう、そんな関係じゃないんだから!


 必死に自分にそう言い聞かせるも一度思ってしまったことは何度も何度も頭と心を支配してしまうのだ。


「こんな気持ち、持っちゃうなんて・・・・・。」


 望結に聞こえない大きさでつぶやいた自分に照れくさくなる。


 あーあ。この気持ち知ってるよ、僕。

 ほんの少し、ほんの少しだけ。

 妻が僕と同じ気持ちだったらいいなって、思ってしまった朝だった。


 

 読了有難うございます。

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