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序章ー4

日付を大きく跨いでしまいました。

今日は週末なので、少し多めに書けるよう頑張ります。

——アドニタス村


フローラ領西部に位置する、山々に囲まれて在る村。


人口は500人程度で、集落としては極めて一般的な部類に属する。


豊かな自然に囲まれている地の利を生かし、拓いた土地での田畑と畜産、林業を主な財源としている。


また、大きな川の支流が流れ込んでいること、行商用に整備された大きな路沿いにあることから、陸水路での行商人も比較的行き来が多く、辺境の村にしては富んでいるそうだ。


村長は、材木業を営むグレッグ=アドニタス。


——以上が、シリィから聞いたこの村の概要である。



「ほー……ほんっと想像のまんまって感じだ」



石畳の地面

広場の中央に設置された井戸

レンガで作られた家屋

牛舎や馬小屋



遠目の景観からでも容易に想像はついたが、やはり文明はあまり発達していないようだ。


電気は当然のことながら、ガスや水道など「インフラ」とよべるインフラは、まだ坑道くらいしかないのではないだろうか。



ここが、異世界の村——



「よし、そうと決まれば早速——」



一にも二にも、俺が向かう先は当然「冒険者ギルド」だ。


男なら誰でも一度は憧れるであろう、自分の「スキル」を1秒でも早く確認したい。


民家に近寄り、玄関先の花に水をあげている中年女性に近寄り声をかけた。



「すみません。道を伺いたいのですが……」



「おや、見かけない子だねぇ……アドニタスに来るのは初めてかい?」



よかった。

異世界の住人との初めて接触ということもあり、言葉が通じるかどうかかなり不安だったが、意思の疎通は問題なく出来るようだ。


……にしても、「見かけない()」って……


確かにこの人と比べたらガキ同然かもしれないが、そこまで子供扱いされるような歳でもないはずだが……



「『冒険者ギルド』に行きたいのですが……どの建物でしょうか?」



すると、目の前の人の良さそうなおばちゃんは一瞬目を瞬かせて、大笑いし始めた。



「おやおや、アンタ知らないのかい?



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」



□ ◾️ □ ◾️ □ ◾️



「どうしてそんな大事なこと教えなかったんだっ!?」



『すみません。よく聞き取れませんでした』



「都合悪い時だけ発症する難聴やめろや!」



村のはずれ、家畜小屋の陰で俺はこのマリモを問い詰めていた。



恐らくこの世界の根幹を成しているであろう「スキル」というシステム。


自分のそれを未だに把握する事ができないというのはどういうことだろうか。



「……改めて聞くが、この村に『冒険者ギルド』はないんだな?」



『肯定します。この村——更に言えば「村」という単位の集落に冒険者ギルドが存在するケースは極めて稀です』



「ちなみにここから1番近いギルドは?」



『この村から南へ15キロの地点にある町、ソレリアに支店があります』



「そっちかぁ……」



目的が達せられないとわかった途端、20キロ近く徒歩で歩いて移動した疲れがどっと押し寄せて来た。


同時に襲う空腹感にもあてられ、落胆と苛立ちで塗り潰れかけた頭に冷静さが戻ってくる。



確かに、シリィは「村がある」とは言った。「町がある」とも言った。



だが、「村に冒険者ギルドがある」とは言っていなかった。



「本当に聞かれたことしか答えないんだな……」



「スキル」の話を聞いて、早とちりしていたのはどうやら自分の方だったようだ。



これからは、もう一歩踏み込んで聞く必要がある。



「俺の早合点だったようだ。申し訳ない。」


そもそも、30キロ以上に及ぶ道のりを、その場の勢いだけで——しかも徒歩で行くという発想自体が無茶に近い。



「スキル」がわかるというイベントで脳内物質がドバドバだったお陰で特に気付かなかったが、思った以上に疲労しているようだ。



空を見れば、もう日は随分と傾いている。無理に出立するのも危険そうだ。


ただでさえ土地勘も何もあったもんじゃないこの地で、夜間を丸腰で移動する——

ここが剣と魔法の世界ならば、魔物の類も存在するに違いない。


せっかく手に入れた第二の人生を、ものの十数時間で手放すつもりはない。



明日に備えて、今日はこの村に宿泊しよう。



……ん?宿泊?



「……シリィ、大事な質問がある」



背中に嫌な汗をかきながら、俺は頼れるナビゲーターにこわごわ問いかける。



「この国では、無料で宿に泊まれたりするのか?」



『否定します。極一部を除いて、この世界に存在する「宿泊を目的として造られた施設」は有料です』



「でしょうね」



完全に失念していた。



「流通している金は?貨幣か?」



『肯定します。

「アルキミス国貨」と呼ばれる、王都レガリアにある中央銀行より発行されている貨幣が一般的に使われています』



「貨幣は何種類ある?」



『5種類です。

混貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨とあり、後の硬貨になるにつれ価値が上がります』



「混貨とは?」



『5種類の貨幣の中で最も価値の低い硬貨です。


鉱物からそれぞれの金属を製錬する際、鉄やアルミニウム、その他不特定多数の成分を含む、比較的粗悪な素材で造られる貨幣です』



「混ざり物の合金で造ってるってことか……


それぞれのレートは?」



『混貨10枚で銅貨1枚

銅貨100枚で銀貨1枚

銀貨100枚で金貨1枚

金貨10枚で白金貨1枚です』



白金貨1枚が混貨1000000枚かよ。


物の相場がわからないのでまだ何とも言えないが、白金貨がすさまじい価値がありそうなことだけは理解できた。


これで経済が第二次大戦後のドイツや、某バブエのドルのような状況だったら笑ってしまう。



「金については大体わかった。もう完璧と言っても過言ではない。


——時にシリィよ、俺は今いくら持ってる?」



『ゼロです』



「でしょうね」



丸腰の時点で何だか嫌な予感はしていたんだ。


俺が読んでいた本の主人公達は、最初からチートな武器やスキルや職業(ジョブ)で、冒険者として破竹の勢いで活躍し、すぐに金には困らなくなるケースが大半だった。



自分の「スキル」——向き不向きすらわからない状況で、どう生きていくのかなんて知らない。



藁にも縋る思いで、マリモを両手で丁寧に包む。



「し、シリィ!お前金持ってないか!?


もしくは、この世界において換金価値の高い何かを生んだり持って来たりはできないか?


むしろお前を売ったらいくらになるんだ!?」



『順番にお答えします


まず、私は通貨を持っていません。


次に、私には何かを生成したり、移動させたりといった機能は備わっておりません


最後に、私の存在はあなたにしか観測することができません。他者からは一切認識されません』



「俺を補佐する役目なら、ちょっとは準備してくれてもいいと思うけどなぁ!?」



『すみません、よく聞き——』



「わかったからそれやめろポンコツぅ!!」



はーつっかえ。コイツ何しにきたんだ。


しかも、この浮遊物は俺にしか見えないときた。


売るにしても、相手は「無」を売りつけられることになる。


生贄にして当面の路銀を稼ぐ線は消えた。



「どうする……どうすりゃいいんだ……」



正直参っている。


まさかこんな初歩的な所で詰みかけるとは……



ざんねん! おれ の ぼうけん は ここで



「終わらせない……っ!」



諦める訳にはいかない。


だがどうすれば……



「おや、アンタは確かさっきの……?」



途方に暮れ、膝をついていた俺の背中に声がかかる。


涙目で振り返ると——



「ギルドの場所を聞きに来た子だね。


何か訳ありのようだね。どれ、あたしに話してごらんよ」



顔をくしゃっと崩し、人の良い笑みを浮かべる、道を尋ねたおばちゃんが立っていた。


愛嬌こそあれど、決して綺麗な顔立ちとは言い難い。



だがこの時ばかりは、この女性が女神のように思えた。


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