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Scene15 ヴォルールたちの到着

「前方に白く輝く町を発見! 本当にあったんですねえ、お(かしら)!」

「随分と眩しい町じゃないかい? 海に光ってる訳でも、お宝が光り輝いてるって訳じゃなさそうだが……それに、噂によるとあの町には影がないらしいね? 一体、どういうことだろうね?」

「……影がなきゃ、おでたち隠れられなくないか?」

「そりゃワーリー、お前が薄のろの馬鹿だからそう思うだけさ。このずる賢いマラン様の手に掛かれば、今まで白昼堂々と(かね)でも飯でもなんでも頂き放題だったろう? ね、お頭?」

「そうさね。期待してるよマラン。前の仕事場じゃあ警察(ポリス)なんてモンが出来ちまって、仕事がやりづらいったらなかったからね。だけど、こんなド田舎じゃまだそんな面倒なモンはできてない筈だよ。お偉方は革命だのなんだので忙しいからね」

「オイラたちコソ泥を捕まえている暇があるなら、ナポレオンのケツでも追いかけたほうがいいさ!」

「自分でコソ泥なんて言うんじゃないよ! アタシたちは、単に物が欲しくて盗んでるんじゃないんだよ!」

「……腹が減ったらパンを盗む」

「そうだよワーリー! アンタ分かってるねえ!」

「じゃあ、食べるために泥棒(ヴォルール)やってるんで?」

「マランは賢いようで分からない奴だねえ。『~の為に』なんて言ったら、そりゃ仕事さ。仕事ってのはやらされるものなんだよ? アンタはこの仕事をやらされてるのかい?」

「好きでやってまーす!」

「いい返事だ。まして、生きるために強いられている訳でもない。良いかい? アタシたちは、“自由だから”泥棒(ヴォルール)になってるだけさ。このリベルテがリベルテなのも“自由(リベルテ)だから”リベルテなんだよ!」

「さすがお頭! それじゃあ、あの面白そうな町でオイラの腕前がどのくらい通用するか試してみましょうかねえ!」

「……おでも喧嘩する。暴れたい」

「そうさ、好きにやりな。自由気ままに、欲望のままに! 何者にも阻まれず! 生きるために食べるなんて野暮ったいことは無しだ! 食べるために生き、殴るために生き、遊ぶために生きるのさ!」


 ……。


「何だい何だいこの町の人間どもは? どいつもこいつもシケた面しちゃって。これじゃロクな男は見つかりそうもないね」

「オイラのほうが美男子じゃないですかい、お頭?」

「そういうのは『鍋を見下すのはフライパン』っていうんだよ。しかし、本当にぼんやりしているね。屋台なんて、ほとんど食べ放題みたいなものじゃないかい」

「猫が魚をお手玉してますぜ、お頭」

「マラン、馬鹿も休み休み言いな。猫ってもんは魚を食べるもんだろう?」

「……ネズミが、チーズを転がしてる」

「ワーリーまで何言ってんだい……ってあら本当! 器用だね。というか、食べ物で遊ぶんじゃないよ!」

「見てくだせえ、あっちでは猿が服を着てタバコまで吸ってますぜ!」

「どうなってるんだい? 獣たちの様子が変だよ。……あっ、ネズミ! 逃げもしないで! 踏んづけちまったじゃないか! この、まぬけネズミ! アタシの靴が汚れちまっただろう!」

「猫どももネズミを追いかけていませんねえ」

「ちゃんと仕事をしな! それが猫の役目だよ! ネズミを駆除しなきゃペストが再来するよ! 社会のために役目を果たさないものに、生きる権利なーし!」

「お頭、言ってることが変わってます。善人みたいですぜ」

「うるさいね! 悪人をやってるんじゃなくて、結果として悪人扱いされてるだけだ。アタシはリベルテなんだ。何を言おうが自由だよ。町の動物なんてもんは、人間様の為にあるべきものだよ。さもなければ、鎖に繋ぐか叩き殺してしまえばいい!」

「……この野良犬、邪魔だ」

「咥えてるのは肉屋のソーセージかな? 尻尾なんて振っちゃって、アホ面だなあ」

「首輪を着けているくせに泥棒するたあなんて犬だい!? 図体はデカい癖に番犬にもならない犬は殺処分だよ! ワーリー、蹴飛ばしちまいな!」

「……そうれ」

「おーおー。さすが馬鹿力なだけあるね。景気良く飛んで行ったよ。……よし、動かなくなったね。善い行いだよワーリー」

「……おで、偉い」

「ところで、やっぱりこの町の住民はちょいとおかしいですねえ。犬を蹴飛ばしても無視するなんて」

「……猫ならどうだ? そうれ」

「おーおー。猫のほうが良く飛ぶねえ。ナイス着地。……逃げてった。さすが猫だね。自由に生きてるだけのことはある。ここの動物の振舞いは気に入ったよ。街に暮らしながら人間なんて居ないものとして扱ってるんだからね。自由の権化だ。アタシは、動物ってのはこうあるべきだと思うね」

「また言ってることが……」

「……気に入ったなら、蹴っちゃダメか?」

「構いやしないよ! 蹴るのも自由! 蹴られるのも自由だ! アタシは靴屋に行きたい。ネズミ踏み用のとんがったヒールをあつらえてもらわないと。それに、この動物の糞! もう今の靴は履けたもんじゃないよ」

「それじゃあ、靴屋を探すついでに、新しいアジトも探しやしょう!」

「そうだねえ。面白い町だけれど、ちょっと野宿をする気にはなれないね。マラン、ワーリー。アタシにピッタリな豪邸を見繕って来な!」


 ……。


「ここ、本当に空き家なのかい? 偉く豪勢だけれど」

「……豪邸を探せって言うから」

「間違いなく空き家ですぜ。埃も積んでるし、棚の食材も傷んでますしね。おおかた持ち主がどこかで野垂れ死んだんでしょうぜ」

「ま、あの街の有様ならさもありなんだね。靴屋だってけっきょく言いなりだったし」

「……食べ物もごっそり頂いた」

「適当にその辺に置いときな。……食器も気が滅入るくらいに贅沢だね。丁寧にしまっちゃってまあ」

「……割ってもいいか?」

「割ってどうすんだ。模様合わせでもするのか?」

「アタシはパズルは嫌いだよ。片付けが面倒臭いからやめときな。……豪華なのは食卓だけじゃないね。寝室もだ。こういう暮らしをしてるからね、まともなベッドにありつけたのは久しぶりだよ。おや、ドレッサーがあるね。アクセサリーも置き去りじゃないか」

「住んでたのは年寄り夫婦ですかねえ? これまた古臭いコルセット」

「……お頭、これ」

「何だいそりゃ? 日記? あとで退屈しのぎに読んでみるかい。外の人間を眺めてるよりは暇が潰せそうだよ。この町は暮らしやすいが、すぐに飽きそうな気がするよ。スリルもないし。ふわぁ~あ」

「オイラは、盗みたい放題で好きだなあ。眩しいのがちょっと気に食わないけれど」

「ずっとここに居られるとも限らないからね。こんなところで燻ぶってると盗みの腕前が落ちるかもしれないよ」

「それはちょいと遠慮したいですね! ま、ガキの頃からろくでなし(モヴェ ギャリソン)なんて呼ばれてましたからね。一朝一夕じゃ船底も錆びませんて」

「……おでは乱暴し放題で楽しい。殴るのは好きだが、殴られるのは嫌いだ」

「ま、アンタらが構わないのなら良いけどね。アタシはこの影のない町がどうしてこうなったのか、そこに興味があって来たからね。……面白いじゃないか? 太陽やガス灯があれば影が落ちるのは道理だ。すべてのものには影があるはずじゃないか。それがどうだい、アタシら日陰者までも影をなくしたっていうのに、かえって堂々とやりたい放題できるなんてね」

「影がないといえば、昔に婆さんから“魔法猫”の話を聞かされたなあ」

「またその話かい。魔法猫なんてある訳ないだろう。魔女ですら嘘っぱちなのに。アンタたちもこれまで散々見てきただろう? 善人面した連中が、魔女だなんだのとデタラメ並べて誰かを丸焼きにする様をさ?」

「普段は大人しい子供もおねーちゃんもああなっちまうんですから、不気味ですよねえ。でも、自分から魔女だと言い張る奴も居たでしょう? 得なんてひとつもないのに。オイラはそれこそ、魔法の所業なんじゃないかって思いますね」

「マランは意外と夢想家(レヴリー)だねえ」

「そそ、ロマンチストなんですよう。それに、この町に起こっている現象は、どう考えても自然や科学のものじゃないでしょう? 学校なんて出ていやせんが、オイラにだってそのくらいは分かりますぜ」

「そうだね、アンタの言う通りだ。だが、なんにしたって“原因”ってものがあるはずだろう? 魔法なら魔法使いが居るはずだ。もしも本当に魔法なんてものがあるんだったら、それを手に入れてみるのも乙なもんじゃないかい?」

「ヘヘヘ、お頭も意外と夢想家じゃないですかい」

「『意外と』ってなんだい!? アタシは乙女だよ。ガキンチョのころには“ガラスの靴のお姫様(サンドリヨン)”に憧れたもんさ」

「どっちかっていうと、意地悪な姉や母親のほうが……ぐぇっ!!」

「お黙り。夢見る少女だったのは昔。今は自由に生きる大人の女さ。お姫様なんてかたっ苦しいのは性に合わないさ。どうせなるなら、好き勝手に暮らせる魔女や賢者が良いね」

「……おでは“青髭”が好き」

「ワーリー、それはやめときなさい」

「そうだぜ、あいつはとんでもない奴だぜ」

「そうかい? 自分の流儀に従ってて良いと思うけどねえ。アタシがやめとけって言ったのは、鍵束の管理なんてコイツにはできそうもないからだよ」

「鍵といえば、ワーリー。日記をまだがちゃがちゃやってら」

「……鍵を掛けるほど大事な日記」

「そんなちっぽけな鍵も開けられないでいたのかい? マラン、開けておやり」

「ほい、開いたぜ。っつーか、お前ならこんな鍵、引きちぎってしまえたんじゃないのか?」

「……日記が破れる」

「意外と繊細なコメントしやがって」

「……お頭、パズル嫌いだって」

「可愛い事言うじゃないかいワーリー。マランも少しは見習いな。……ささ、他人の鍵を掛けたくなる秘密ってのもお宝みたいなものさ。姿勢を正していざ中身を拝見しようじゃないか」


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