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約束の夏  作者: 二階堂そら
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第5話 男 秋

大通りを抜ける一人の男。その格好はスーツ姿であるが、上着の前のボタンをすべて開け、ネクタイを緩めており、だらしがないかぎりである。髪の毛は男にしては長く、ひと世代前のロックバンドにいそうな髪型だ。そして裏路地に入り、人目のつかない店のドアを開ける。


チリンチリン♪


「いらっしゃい...、あんたか。」

「あんたとはなんだよ。」

男はコーヒーの香りの漂う店内を見渡しカウンターの席に座る。

「なぁじぃさん、色々と余計なことはしないでほしいなぁ。」男はため息を吐きながら「コーヒー」といった。

「ダンボールを用意しとけって頼んだのはあんただろう。」そして“じぃさん”と言われた年配の男性はコーヒーを目の前に出した。

「ああ、違う違う!“おばけ”だよ!“おばけ”!」

「あれか?粋な計らいだろう?」

「馬鹿言え!ネットに広がったんだぞ!」

「でも子供たちにはいい思い出になったろ。」

「確かにそうだが…国に所在がバレる...。」

「何言ってんだ。とっくにバレてるよ。」

「はぁ!?」

「あんたの責任だぞ。私は何もしていない。」

そう言われて男はうなだれた。

「はぁ〜、また場所変えんのか?」

「大丈夫だ。何とかする。」

「そうか…じぃさんの手にかかればお手のもんか...。」

少しの沈黙があり、“じぃさん”が口を開く。

「順調か?」

「まぁ順調だ。」

「どのくらい成長した。」

「俺に聞かなくてもわかるだろ。」

「まだひきわたせる状態じゃないよな。」

「まだ早いだろ。あの子のことを考えてもそうだが、時期的にも。」

「そうか...。」

また沈黙があり、また“じぃさん”が口を開く。

「...裏に2人。」

「なんだよ。すくねぇな。」男は胸元に手を入れ拳銃を取り出す。

「静かにやれよ。」

「音ぐらい消せるだろ。」

「そうだが。目立ちすぎるなという意味だ。」

「わかったわかった。死体の処理は任せたぞ。」

「ああ、任せろ。あと...」

「あ?」

「“もう1人の子”の調査、頼んだぞ。」

「了解。」

男は手をひらひらとさせ、店を出た。







「ママ〜、お外行って来る〜。」そう言って背伸びし玄関を開ける。4歳ぐらいだろうか。男の子である。先程の声は母親には届いていなかった。返事がしない。男の子はそんなことなどつゆ知らず、お気に入りの靴を履き、てくてくと歩いていく。

公園についた男の子はブランコへと向かった。自分ではこげないのでいつもは母親が背中を押して遊ぶ。でも今日は違う。母親と一緒ではない男の子はどうやればうまくこげるのか模索した。

「あれ?ダメだ。」

風が吹く。自分以外に誰もいない公園。木々が揺れ、木の葉がまう。まだ昼間だが一人で寂しくなった男の子には暗く感じられた。

「ねぇ君。」後から声が聞こえた。男の子は振り向く。

「おじちゃんと遊ぼうか。」

男の子からしたら巨人とも錯覚できるほどの背丈。黒いスーツに身を包んだ男がたっていた。笑顔が優しく不自然な程である。多分もう少し男の子の年齢が高ければ不審者と思っただろうが、一人で寂しかった男の子は満面の笑みで「うん!」と答えてしまった。

「じゃあもう少し大きい公園に行ってみないかい?」

男の子はこの公園しか知らない。この公園でも大きいと思っていたが、さらに大きい公園ともなると、男の子はウキウキせざるおえなかった。

「うん!」またも元気に返事をしてしまった男の子は、公園の裏に止まっていた黒い車の方へと案内された。


「さぁ、おじちゃんと...」

「待てよ。」そう言って黒いスーツに身を包んだ男に拳銃を突きつけたもう1人の“男”。その格好は同じようにスーツ姿であるが、前のボタンをすべて開け、ネクタイを緩めており、だらしがないかぎりであった。髪の毛は男にしては長く、ひと世代前のロックバンドにいそうな髪型だ。男の子には明らかに“不審者”に見えた。

「おいおい、ガキ。不審者はこいつだ。俺がちゃんとおめーのかぁちゃんのとこに返してやっから、泣くんじゃねーぞ。」そう言われた男の子は泣きそうな目を擦り上げ、ぐっとこらえた。これぞ『泣く子も黙る』である。

「やめてくれないか。子供が怖がってるじゃないか。」

「おうおう、一丁前に優しい言葉なんか使いやがってよ。」

「なんだ君は、警察に通報するぞ。」

「してみろよ。困るのはそっちもだろ。得策だとは言えねぇなぁ。」

「くっ...」

「いいぞぉ〜、いつもみたいに『ギャオギャオ』泣けや。あっ、おめーじゃねーぞ少年」

男の子はまたこらえる。

男の子はいつも“坊っちゃん”やら“ぼく”と呼ばれていた。“少年”と呼ばれるのは新鮮だった。嬉しかったのだろう。男の子は今まで手を繋いでいた男の手を払った。そしてだらしのない格好の男の後ろへと逃げ隠れ、のぞき込むように銃を突きつけられた男を見る。そん瞬間男の子は驚愕した。先程まで優しい笑顔に包まれていた男の表情は怒りの形相となり、額には角らしきものが生えていた。まるで“般若”である。

「あーあ、泣き始めちゃったじゃねーか。」

だらしのない格好の男は泣きじゃくる男の子をあやしながらその場をあとにしようとしていた。

「な?かぁちゃんのとこ連れてってやるから。」

「おい...待てよ...。」男の声はとても低く、明らかに先程とは別人へと変わる。

「なんだよ。」

「てめぇを殺す...。」男の腕はしなり、2倍に膨れ上がる。もはや人間ではない。赤いオーラのようなものを身にまとい、たっていた地面は割れ始める。

「おいおい優しいキャラでやっていくんじゃなかったのか?」

「...黙れ…。」

「あんまり暴れんなよ。じぃさんがうっせーからよぉ。」

「そのじぃさんとか言うのは…。」

「お前気づいてないのか?」

「あ?」まるで“鬼”のような風貌に変わっていた男は立ち止まり、額に手をやる。

つーーー

真っ赤に染まった手。

「いつ..やっ....た.......。」


ドサッ...


「この子が離れた時だ。打たれた音聞こえなかったのか?あっそうか。じぃさんに音を消してもらってるんだったわ。」

「うわぁーーー!」男の子は逃げるように駆け出す。

「おい!ガキ!待て!クソ...これだからお守りは嫌いなんだ...。」男はひとつため息を吐き、走っていった方向へと急ぐ。

何事も無かったかのように...。


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