第4話 高校1年生 秋
「来週から文化祭準備期間に入るから、委員長中心にクラスで何したいか決めろよ〜。」
そう言って、うちのクラスの担任は教室から出ていく。まだ学活の授業だというのに...。こういうクラスの決め事を生徒達に任せるところはなかなか気が利く限りである。
ねぇねぇ、どうする?
私は〜
案の定先生が出ていき、クラスは無法地帯と化す。主に女子が騒ぐ。男子はほとんどが話を合わせるか、関係ない話をするかのどちらかで、やはりこのような議題だと女子が主導権を握る。何が“委員長を中心に”だ。ちなみにうちのクラスの委員長は男子である。
蚊帳の外状態の我々男子組だが例外がいる。
「奏〜!!文化祭だぁ!!文化祭だぞぉ!!」
ほら来た。光輝である。
「なんだよ。」
「なぁなぁ。何する?やっぱ定番のお化け屋敷か?それともメイド喫茶か?ん〜どっちだ?」
「別にどっちでも...」
「でも女子達のメイド姿も見てみたいよなぁ〜瑞希とか似合いそうだよなぁ。」
すぐにこうなる。一人でしゃべくり倒す。マシンガントークである。
「じゃあメイド喫茶でいいんじゃね?」
「でもお化け屋敷も...」
「じゃあお化け屋敷で。」
「もうちゃんと考えろよな!」
「おめーが1人で喋ってんだろ!」
こんな感じで30分がたち、黒板には“お化け屋敷”と大きく書かれていた。
「坂本先生〜」
「ん?なんだ?」
「お化け屋敷に決まりました!」
「そっか、仲良くやるんだぞ。」
「はい!」
ん〜さすが放任主義。めんどくさがり屋なのか気が利くのか…
それから一週間準備に明け暮れた。準備期間では授業が2時間しかない。そのおかげでバックに余裕が出来、中にたくさんのダンボールを入れて登校する。男子共は各1人ずつ何か持ってこいという女子の司令により、働き蜂の俺らは毎日ダンボール探しに出かけなければならなくなった。
「はぁ、どうするよ。」委員長は途方に暮れていた。
俺らが歩いているのは、いつも光輝と遊びに来ている隣町である。
「ん?どうした?友樹?」そう聞いたのは光輝、ちなみに委員長の名前は友樹だ。
「だってよぉ、ほとんどダンボールのありそうな場所は片っ端から調べ尽くしちまったじゃねーか。」
「でもまだ全部じゃないだろ。」俺は答える。
「今から行くところもねぇよ。だって俺らの高校だけじゃないんだぜ?文化祭準備期間なのは、ここは隣町だけどここの地区の高校がかっさらっていってるはずだよぉ...」
こんなにも委員長がうなだれている理由は明らかだ。肩書きは仮にも“委員長”、女子達は友樹を男子のリーダーとし、俺たちをまとめる役割を担わされた。そして俺達が使えないと判断されると委員長が女子に責められるのである。もう過労死直前である。
「あっそうだ。奏、あの店は?」
「あそこか?なさそうだろ。」
「行ってみる価値はある。」
委員長がもう気の毒に見えた俺はその店を尋ねることに決めた。
チリンチリン♪
コーヒーの香りが漂う。いい匂いだ。近頃来ていなかったため、いっそういい匂いに感じた。
「はい、いらっしゃい。おや、奏くんじゃないか。」
「こんにちは。マスターお願いがあるんだけど...」
「こんにちはー!」俺の後ろにいた光輝と友樹が挨拶をする。
「おやおや、友達かい。こんにちは。」
「で、お願いというのが...」
「ダンボールだろう?」
「そうなんですよ!なんでわかったんですか?」
「いや〜、ほかの高校の子達が来てね、同じようにお願いされたんだよ。でも奏くんも来そうだからってことであげずに取っておいたんだ。」
「ありがとうございます!」そう言ったのは友樹だった。うん、よかった。でもほかの高校にもいるんだな。この店に来る子が。ここは見つけにくいはずなんだが…。
「“お化け屋敷”。頑張ってね。」マスターは俺らにニコッとして見せた。
「本当にありがとうございました。」俺たちはダンボールをもらい、マスターのところをあとにした。
「いや〜、めっちゃいい人だったなぁ。」友樹の顔色が元に戻った。
「あそこに通ってるんだぜこいつ。」光輝がいう。
「なかなかオシャレだったろ?」
「うん。」友樹は機嫌が良さそうだ。
「でもさぁ奏。」光輝が不思議そうな顔で俺をのぞき込む。
「ん?」
「なんでマスターは俺らが“お化け屋敷をする”ってわかったんだろうな。」
準備はとても順調に進み、ついに当日を迎える。光輝が言ったことは深く考えず、マスターの感が冴えているのだと言っておいた。学校は色彩豊かに様々な出し物のポスターで飾り付けられ、まるで自分たちの学校ではないような感覚に陥った。
「よっしゃ、脅かしまくるぞー!!」
「うちらは宣伝してくる!」
俺らのクラスも不気味な外観に装飾され、怖さをかもし出していた。手作り感があるものの、おばけたちもいい感じに仕上がった。
それぞれの持ち場につき、仕事を行う。いつもはバラバラな行動しかしないような人が集まったクラスだったが、文化祭を通してまとまりのあるクラスへと変化した。
俺と瑞希は入口の受付係となり、客を並ばせたり、案内させたりと仕事を全うした。
「楽しいね!」瑞希もウキウキである。
「でも結構人集まるもんだな。」
俺達がいる3階には、他にもたくさんの出し物や売店が集まっているのだが列の長さはダントツだった。
「みんな頑張ったもんね。」
「そっか、こんくらい来てもおかしくはないか!」
耳をすますと中から悲鳴が聞こえてくる。うん、いい感じに怖がらせてんな。
「そういえば、一番人気のある出し物をしたクラスは表彰されるんだっけ?」
「ああ、いけるんじゃね?俺ら。」
「だったらいいね。」
「奏〜!瑞希〜!」声のするほうを見ると宣伝係をしている歩美が息を切らしながらやってきた。
「どうしたの!?」
「これ...見て..」肩で息をしながら携帯を見せる。
「Twitterじゃない。え!?」
「まじか...」
画面に写っていたのは俺らのお化け屋敷の記事だった。
『すごい!遊園地のアトラクションぐらいのクウォリティー!!!』
おいおいまじかよ...。
「これすごくない!?」息を整えた歩美がいう。
「やばい!すごいよ私たち!!」瑞希も興奮している。俺も驚いていた。
「これは私たちが人気ナンバーワンで決定ね!」
歩美が言った通り、俺らのクラスは文化祭で人気ナンバーワンだったことで表彰され、クラスの団結力は最高潮に達していた。
「アンケートにも色々書かれてたぞ〜」先生が持ってきたハガキサイズの紙の量はとてつもなく多く、帰りの学活で配られ、みんなで読み合う時間が設けられた。
「ねぇねぇ、『死ぬかと思った』だってよ!」
「マジで!?こっちは『本物が出た!』だって!」みんなが過剰な感想に盛り上がり、笑い合う。
「奏〜、どんな感想書かれてたんだよ〜」
「『金を払いたい』だって。」
「はははっ、いい感想だ。」
「なぁなぁ、光輝...」不安そうな顔で光輝に話しかけたのは友樹である。
「ん?どうした?また女子に文句でも言われたのか?」光輝は冗談っぽく言った。
「違うんだよ。俺らさぁ、怖がらせる仕掛けで“浮遊しながら追いかけてくる人形”なんて作ったか?」
「はぁ!?なんだそれ。作ってなくね?」
俺らは女子や仕掛け担当のメンバーに聞いてみたが誰も作ってないという。
「もしかして…でたのか…?」
お化けがほんとに出たという噂が学校中に知れ渡ってしまったことは言うまでもない。