KING WITH NO CROWN ~KNIGHT OF TITANIUM~
全身全霊で自分を引き留めてくれた、唯一の女。
何かにつけて「妾は娼婦ですから」と、一歩引いた立ち位置を頑なに守る、唯一の女。
本音を言ってしまえば、今迄のことも、此れからのことも、そして今後起こりうることさえも。
その全てを擲って共に在りたいと願ってしまった、唯一の女。
それでも立ち止まることを己に許さず、最期に女の額に落とした口付けに全ての思いを込めた。
それが自分に出来るせめてもの、死地に赴く自分に対して許した細やかな行動だった。
昼近く。
自らの死に装束となる甲冑を身に纏い、敷かれた戦陣の先頭に立った。
目の前に広がる布陣は、”彼の方”に追従する者達で占められているだろう。
それに相対するは、”彼の方”の思想に反する集団と、その先頭に立つ総大将たる自分。
目の前の布陣を眼を細めて見やる。
嘗ては自分が在った場所。
そして、失った場所。
どのようにして戦闘が始まったかは。正直記憶にはなかった。
気が付いた時には両軍入り乱れの状態で、剣劇が走る度に、誰かが傷付き、そして命を落としていった。
そんな中、何故か自分に切りかかってくる者がいないことに遅まきながら気付く。
ゆっくりと周囲に視線だけを巡らせば、切られた誰かの血が頬に飛んできた。
そして、目の前の人垣が割れ、その奥から騎乗したままの”彼の方”が此方に近づいてくる姿が見えた。
「クリストファー。申し開きをせよ」
それが久しぶりに聞いた幼馴染であり、嘗ては友であった”彼の方”の言葉だった。
此方の攻撃範囲外で歩みを止めた”彼の方”は、相変わらず自分にとって心地いい言葉を囀るだけしか能がない輩を侍らせていた。
「お前が私の忠告を聞かなかったが所為だ。お前の目指すものは甘言だけ吐く輩ばかりを侍らせすことだったか?」
少々小馬鹿にした口調で言い伝えれば、”彼の方”よりも周囲の方がいきり立つ。
「我等が王に向かってなんという口の聞き様か!幾ら王の幼馴染と言えども聞き捨てならん」
血の気が多い輩が抜剣しようとしたが、”彼の方”はそれを腕の一振りだけで止めた。
「このまま我が望み妨げとなるつもりか?」
「妨げも何も、私は昔決意した道を敷く為の先達をしているだけに過ぎない。お前の方こそ、正気でこの現状を是としているのか?」
愛剣を抜きながらそう言い放つ。
「…昔……?」
「そう。ずっと、ずうっと、昔に決めた事。まあ、今更言っても詮無いことではあるがな」
訝しげに聞き返してきた”彼の方”に返答するや否、抜き放っていた愛剣で切りかかる。
が、”彼の方”の手に在った槍が、甲冑すら問題にせず私の胴体を貫く方が早かった。
捻りながら抜かれる穂先を追うように、大量の血液が命と共にこの体から流れ出るのを感じる。
力を失いつつあり体は自重を支える術もなく、大地に倒れ伏そうと傾いでいく。
次いで失いつつある聴力がとらえたのは、焦るような”彼の方”の声。
それがどこか可笑しくて。
これで良かったのだ、と。
これで自分の成すべき事は全て終わったのだ、と。
学のない私にはこれが精一杯の策だったのだ。
総大将たる私が”彼の方”の手で討たれたことにより、”彼の方”の軍勢有利で戦闘が終了なるのは確定だ。
”彼の方”の思想に反する勢力はほぼ一掃されたと思ってもいいだろう。
これで”彼の方”の希望は叶えられるであろう。
だからこそ、今。
声なき声で思いを伝えることが出来る。
「愛している。アリアーナ」
何かに包みこまれるような感覚を最後に、そう、唇だけで思いを告げた。
- それが、私が私であった、最後の記憶 -




