この日を待っていた
人々は古来より異形の怪物の脅威にさらされてきた。
例えば熊よりも大きな体躯で、鉄をも裂く鋭い爪や牙を持つ獣。
例えば土の中を進む猛毒を持つ大蛇。
例えば全長5mはあり、空から襲い掛かる鷲に似た怪鳥。
そして何より恐ろしいことに怪物たちは大陸中に生息し、人々の生活圏の近くにもたびたび現れてはその力を振るっていた。
何十人の人が対抗したとしても容易く殺されてしまう。
モリア大陸にすむ者は圧倒的な力を持つ怪物―いわゆる魔獣との闘いの歴史を紡いできた。
その大陸の中心にある国―アルルキア。
例にもれずこの国の近郊にも魔獣は現れてきていたが、他の地と異なり被害は少なかった。
それはアルルキアが誇る対魔獣戦士―守護戦士の存在があるからであった。
守護戦士とは土地神の力を賜り、常人ならざる力を得た存在。
魔獣に対しても単独で対抗できる力があり、より強大な力を持つものは魔獣の集団にさえ打ち勝つ力を身に着けた存在。
彼らは清浄な心と屈強な体を持ち、民を身を挺して守る、まさに希望の存在であった。
アルルキアはどの国よりも先んじて守護戦士という魔獣に対抗する力を得たこと、大陸での影響力を強め、瞬く間に大陸一の強国となっていった。
以降アルルキアをはじめ、他の国でも守護戦士となりうる者を集め、魔獣に対してようやく均衡を保てるようになっていった。
「兄貴、分かってるよ」
もう何度聞いたことか。
エリオはそう顔でも訴えていた。
朝食が終わって昔話を話しはじめた兄貴に少しうんざりした。
でもなぜこの話をしたかは何となくわかっていた。
「親父や兄貴のような守護戦士に俺にもなれっていうんだろ」
―無理だよ。悪いけど。
口には出さない。自分のために。
「…お前には力がある。それに気づいていないだけだ。」
子守歌のように繰り返し話してきた兄貴が、これまた何度きいたか分からない慰めをしてきた。諭すような声と顔で。
―俺が一番わかってるんだよ。自分の限界にさ。
ほんの少し波打つ心を収めて、平然として返事をする。
「わかったよ。いつか気付ければいいな」
そう言いつつ、話は終わりという風に立ち上がる。
少し兄貴の寂しそうな顔が見えた気がした。
気付かないふりをして出ていこうとする。
「エリオ、そう自分を卑下するな。お前は強くなる。俺が保証する。」
―無理だって言ってるだろ!
思わず叫んでしまったような気がして、兄貴の方を振り返る。
「今日は、お前の18歳の誕生日だ。アルルキアへ行って守護戦士の選別試験を受けてみたらどうだ?」
兄貴は話を続けていた。
どうやら声には出さなかったみたいだ。
「兄貴、もう時間だよ。俺にもやることがあるんだ」
そう言って今度こそ言い捨てるようにして、家を出た。
自分の現実を無理やり受け入れた少年エリオ。齢18歳。
――運命は動き出し、現実は少年を翻弄する。
――この日を待っていた。