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ある小間使いの独白  作者: 七転び
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賢明な紳士淑女の諸君はもうお気付きだろう。俺、1か月ほど意識不明でした。


お花小もこちゃん(=ご主人)が入れてきたにっっがい飴ちゃん(=気付けの薬湯)で、目を覚まさなかったら体力的にヤバかったらしい。でも生死の境を彷徨ってた気がしないのは、夢の中で(ひとえ)にもこちゃんの中にいたからだと思う。囈言(うわごと)でもこもこ言ってたらしい。肋骨が折れてたらしいけど、結果的に絶対安静してたからくしゃみしても大丈夫なくらいは繋がったらしい。

らしいってばっかだけど、覚えてないもの。知らないもの。だから寝てる時の話するのなんか恥ずかしいからヤメテ!


目が覚めてからはちょっと忙しかった。養子と学府の話が嫌でパツキン家を抜け出して事件に巻き込まれたことになっていて、パツキンが坊主頭(2度目)で謝りにきたり、その後ろに仁王立ちしてるクレアちゃんが般若だったり、ハル様も坊主頭にするってのをヘタレ男と二人で止めたり、庭師のおっちゃんが汗だくになりながらやっぱり謝りに来たり…わかるか?家に帰っただけで謝る必要がないと言っても、うんうんそうだよねと頷かれるだけの居心地の悪さ。

危急時にすぐ対応する為にハル様の自宅にいたんだけど、容態が落ち着いたから何故かパツキン家に移される時に、何故か変態殿下と一悶着あって…わかるか?自分の事なのに置き去りにされてる空気感。俺の手が再び唸る前に、クレアちゃんの3段特殊警棒が唸った。クレアちゃん最強説に清き1票を!


容態が落ち着いたとはいえ、やっぱり安静にしていなきゃいけない俺に、ハル様がもこちゃんによく似たぬいぐるみを持ってきた。かわいくない。俺のもこちゃんの方がずっとキュートだ。見向きもしなかったら、もこちゃんがいつの間にか椅子に座ってた。すっごい汚れてアチコチ解れてたけど、見紛うことのない俺のもこちゃんだ。寝てる場合じゃねぇ。ベッドから降りたけど、足腰が産まれたての子鹿くらいプルプルガクガクで、立っているのがやっとだ。見兼ねたのか、俺のとこまでもこちゃん持ってきてくれた。中見たら飴ちゃんがいっぱい入ってた。ウヒョー。

そんなこんなで自分でご飯を食べれるぐらい回復すました!トロトロの卵焼きマジウマです。おかわりください。あ、お茶のおかわりもください。ミルクも入れて貰えると嬉しいです。薬湯はいりません。いらないったら!

また口移しで飲ませるぞと脅され、仕方なく飲んだ。自分の意思で飲むのと強引の飲まされるのとではダメージが違う。でも苦い。口直しでリンゴ擦ったヤツ食べた。ウマです。


賢明な紳士淑女の諸君はこれにもお気付きだろう。俺のお世話してるの、ご主人です。下克上ってヤツです。苦しゅうない。


でも油断できない。ご主人のことだもの。寝てる内にまたいなくなると思ったから、頑張って起きてんだけどやっぱり寝てまう。人間だもの。ので、起きる度にご主人探した(ちゃんと見つける俺すげぇ)。それがいい運動になって、子鹿から立派な鹿になれた俺は、今、再びの庭園ダンジョンに挑もうとしている。

今朝も起きたらご主人がいなかったから探してたら、2階の窓から四阿にいるのを発見したのだ。以前の俺とは一味も二味も違うぜ。なんと、庭園ダンジョンマップを庭師のおっちゃんから入手済みなのだ。これを手に入れるための怪我イベントだったと思ってる。スイスイと四阿へ…あれ?行き詰まりだ。こっちだっけ?戻った?ん?そもそも俺が入ったのってどこから?

マップを見ながら歩いてたらズベーって転んだ。ながら歩きダメ、絶対。

転んだままカッコいい起きた方を考えてたら身体が浮いた。つ、遂に俺も舞空術を会得!(てれってってーん)って思ってたら焦った顔したご主人に抱えられてた。ついこないだまで意識不明だった俺が行き倒れていると思って焦ったっぽい。面目ねぇ。俺を抱えたままマップを見ずにご主人は四阿へ到着した。ダンジョンマスターなの?


四阿はごくごく普通の四阿だった。つまらん。ただ色んな学府の案内書がテーブルに置いてあった。

あ、俺学府に行くんだ。何処行けばいいですか?

ご主人に膝抱っこしてもらって一緒に案内書を見た。パツキン一押しの国立の最高学府が第一候補なんだけど、寄宿舎で色々やらかすんじゃないかと、ご主人は心配らしい。失礼な、何をやらかすってんですか。身に覚えはない。ないったらない。他の学府はどっこいどっこいで、ご主人の精神衛生の安定の為、通いでもいいかと思ってんだって。通う?何処から?南の別荘?なんで?

だって「当然じゃない」って言った。俺が南の別荘に行くのは「当然じゃない」って言った。だから俺は南の別荘に行っちゃいけないんでしょ。行ってもいいなら勿論行きますよ。

見上げると、ご主人、難しい顔してた。最近こんな顔ばっかり見てる。

眉間の皺を伸ばそうと指でグリグリしてあげたら、ちょっと笑ってくれた。


それからご主人の話を聞いた。長い長い懺悔のような話だった。独り語りみたいに淡々としていて、俺がいなかったらただの危ない人だ。難し過ぎて俺には殆どわからないことばかりだったけど、ご主人がずっと怖がっていた事だけはわかった。


……敢えて言おう。ご主人ばかぁ!?


怖かったら逃げればいいってご主人が言ったんでしょ。逃げるのがイヤなら立ち向かえばいいんでしょ。忘れちゃった?俺は思い出したよ。「それでも怖かったら、怖くなくなるまで俺が一緒にいてやる」ってご主人言ってくれたの。ご主人はきっとレベル99だからラスボスだって余裕で倒せるだろうけど、怖いっていうのはレベル関係ないよね。だから俺が一緒にいてあげる。

俺のレベルはまだまだだけど、ご主人が一緒だったら何も怖くない。ホントだよ。

俺が一番怖いのは、ご主人がいなくなる事だ。

どっか遠くに行く時は俺に教えて。寝てる間に勝手にいなくならないで。


…しまった。これは寄宿舎バッチコーイの流れだ。なし崩し的に南の別荘に行けたのに。

軌道修正どうしようと思ってたらご主人にギュッて抱きしめられた。なんで?って思いながらもギュッて抱きしめ返した。条件反射スゴイ。

ご主人は俺の頭を撫でながら「お前はどうしたい?」と訊いて来た。

俺は空気が読める子だ。ここはご主人が決めてと言っちゃいけない場面だ。でも言ってもいいの?


ダメって言わない?

いいよって言ってくれる?

縋り付いちゃうよ?

聞かなかったことにしないでね?






南の別荘に行きたいです。

俺は、ご主人と一緒にいたいのです。

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