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ドカドカとうるさい足音。ガラスの割れる音。何かを壊す音。誰かが誰かを怒鳴る声。屋敷はきっと嵐に遭ったような有様だ。おのれ、誰が掃除する思っている。俺じゃない事だけは確かだ。
もこちゃんをぎゅっと抱きしめて、俺は息を潜めて嵐が過ぎるのを待った。玄関ホールのど真ん中に飾ってあるバカでかい壷は盲点らしく、その中で黒い布をかぶって隠れていた俺は誰にも見つからなかった。
真っ暗な中にいると、ずーっとずーっと前の事を思い出す。ご主人が忘れろと言ったから、拾われる前の事はぼんやりとしか覚えてないけど。「俺に恩義を感じる必要はねぇ、お前を助けたのはたまたまだ」と、ご主人は繰り返し俺に言った。文字を教えてくれた時に、計算を教えてくれた時に、等価と対価の違いを教えてくれた時に、両替商で得するレートを教えてくれた時に、世の中の仕組みを教えてくれた時に、処世術を教えてくれた時に…つまりあれだ、あれ。「押すなよ?絶対に押すなよ?」的な。
俺のとるべき行動は…わかるな?
斯くして拾ってもらった恩義を返すべく、俺はご主人に教え込まれた知識を最大限に使い、飴ちゃんで騎士様と姫君を味方につけ、悪の伯爵に捕われたご主人を救いだし、たくさんの報奨金を貰い二人で南へバカンスへと旅立つのであった。イェ~イ!海サイコー!浮かれた俺はご主人に拳固を貰った。
…という夢を見た。
え?夢オチ?えぇ~?って思ってたけど拳固貰った後頭部が地味に痛い。触ってみたらちょっとコブが出来てた。ご主人の拳固は痛いけどコブは出来ない絶妙な力加減なんだ。寝ぼけて壁(壷の内側だけど)にぶつけたらしい。
夢だけど夢じゃなかった。
ご主人を助けたトコが夢で、ご主人に拾われてからご主人が捕まるまでは夢じゃなかった…嬉しくない。
耳を澄ましても物音一つなく、屋敷はひっそりと静まり返っている。壷の中に隠れる時に使った踏み台(足首にひっかけて壷の中に回収)に乗って、壷のフチからそっと周囲を見渡しても誰もいない。ご主人が帰ってきた様子もない。もしかしたら裏路地で迷子になっているのかも。迷い込んだ事のある俺だから判る。あそこはレベル30ぐらいじゃないとクリアできないダンジョンだ。
俺のとるべき行動は…わかるな?
ずっと胸に抱き込んでいたもこちゃんを見る。
よぉ相棒。ようやくお前の真価を出す時が来たぜ。
もこちゃんはただの豚のぬいぐるみではない。紐(別売り)を付けるとなんと背中に背負う事ができる優れものだ。俺の背中で、もこちゃんはでろーんと「やる気?何ソレ美味しいの?」状態になってるが気にしない。重要なのはもこちゃんを持ち運べて、且つ俺の両手が自由になると言う事だ。
窓も扉も開かなかったけど、無問題。厨房の地下倉庫の明かり取りの窓が俺のヒミツの出入り口だ。ヒミツはヒミツのまま保たれていて、俺をすんなり夕暮れの裏庭へ出してくれた。なんか諜報員みたいだと思いながら、それっぽく壁伝いしながらこっそり裏門を出た。
行くぞ!「ご主人お迎え大作戦(命名:俺)」!
記念すべく作戦開始の一歩を踏み出したところ、巡邏隊に捕まった。
ハル様の幼馴染みのヘタレ男だった。




