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【行く先の斡旋所】






「なるほど……結局はギルドに行って仲間探しか」


「あ、うん。そういうことになります。でも、その前に服! 最低限は貸し出しますから、また来てください。今後とも金鳥亭をどうぞよろしく」


「あ、ああ……」


 満たされた腹を三度と撫でさすり、椅子に楽に腰掛ける。

 タクは看板娘の話の内容を白米の代替にし、既に食事は済ませた。

 

 タクは立ち上がり丁寧に椅子をテーブルに入れた。

 そしてそっと看板娘に向き直る。


「それと、勘定なんだが……」


「お金、ないんでしょ」


「すまん……。つい、無銭飲食に走ってしまった。看板娘さん、ツケといてくれないか」


「わたしの名前は看板娘じゃなくて、リーンっていうからよろしく」


「ああ、うん。よろしく、リーン」


「それで、あなたの名前は?」


「ええと、俺はタクというのだが……」


「よろしくねタク。なんかいい人っぽいし、ツケといてあげる」


「ほんとか! よろしく頼む」


 タクはリーンに感謝し、そのまま店を出た。





 満腹になった後。タクは話に聞くギルドに行くことも考えたが、仲間がそう簡単に見つかるわけがないと考え直した。

 そこで斡旋所に向かうことを目標とすることに決したのである。


 教えられた道を行けば目的の通りにすぐに出た。

 十字路の奥にギルドの看板が見えるので、その隣が斡旋所である。

 サラサラと乾ききった砂の土地に、クリーム色の壁が見えた。

 その建物こそ、地元で原住民から親しまれる斡旋所であり、人々の交流の場でもあった。

 場所が場所ではあるので人の往来は盛んである。


「へえ、割合活気があるな。斡旋所」


 人混みを掻き分けに掻き分ける。

 斡旋所の門前には専門職らしい装いが人口を増していた。

 出入り口である扉は長年の親しみからか、あるいは力強い開閉の仕業か黄土の通りの喧騒でも一層ガタピシとしていた。近々修理されるという旨の掲示が、喧しい扉の隣にある。


「って、随分とガタのきた建物だな」


 汗を拭って、斡旋所の口で一息つきたい気分であった。

 しかし、とタクは思う。

「早いとこ仕事を探さんと、無職は肩身が狭い……」と小さく呟き、取りあえずは五月蝿い扉をそっと開いた。


「こんにちは、ようこそ斡旋所ノーミン支部へ。本日はどのようなご用件で」


 戸の鈴がカランコロンと落ち着いた音を出した後、間延びした声が耳に入った。

 内装は殊の外凝った仕様で、壁際には石造りの細工が所々に並んであった。

 斡旋所屋内は恐らく三階までの構造になっており、二階まで吹き抜きといった様である。壁はこれもまた石造りで、天井はモルタル塗りが大半であり、洋風のアウラを感じさせた。


「本日はどういった御用で?」


 再度声をかけられた。タクがチラと目を遣ると、少し苛立ったような目線とぶつかった。


「ああ、意外に中はきれいだなと思って。見入ってた」


 声の主はカウンターにだらりと立っており、そこが受付であるらしかった。


「それが本日のご用件ですか」


「いいや違うぞ。それとはちょいと別件でな」


 受付は浅くため息をついて、やや面倒臭そうに目を背けた。

 その受付は、艶のある烏羽色の髪を腰ほどに揃えており、目は薄緑色がかっていた。


「……じゃあ、なんですか。取りあえず、あっちにも受付はいるので。気持ち悪いのでそっちに行ってもらってもいいですか」


「なんでだよ! くそう、これが斡旋所のやり方かッ。まあいい、では仕事を貰えるか?」


「……聞いちゃいないですねぇ。ま、いいです。それでは、貴方は初めてのご利用ということで?」


「そうだ」


「ならこれですね」


 受付は黒い髪をさらりと返し、背面のボードからボロ紙を取って渡した。

 そこでタクは当惑した。なぜなら、その紙面に記載された文章は一文字たりとも読み解けなかったからである。タクから見れば、紙の上をミミズか何かがのたくったようにしか思えなかったのであった。


「すまんが、俺は非識字でな。文字が読めない。して、内容は?」


 受付はうへぇー、と言いたげにして顔をしかめた。 その直後、「めんどくさいなぁ」と発したが、タクは聞こえないふりをした。


「仕方ないですね。では、右から。『庭の除草』、『ネズミ退治』、『人探し』などですね。でもイチオシはこれです」


 緑がかった目をいたずらっぽく、くりくりと動かして、タクの目前にぐいとビラを突きつけた。


「『扉の修理』?」


「そうなんですっ! あそこの扉、五月蝿くて何とかしたかったので私が依頼しました」


「お前かよ! で、それはいくら貰える」


「プライスレスです」


「ガキの使いかッ」


 タクはあまりの憤りに紙をカウンターに叩きつけた。端正な顔も台無しである。

 斡旋所内に響く声は小さくはなかったが、よくあることなのか誰も見向きもしない。


「そんなにお金欲しい感じですか」


「そりゃあな。出来れば安定して続けられるやつだ」


「そうなると、狩りにでも行けばいいですね。メンバーを集めて行けば可能です。捕まえたり、殺したりした獲得物は私が引き取って、然るべき所に売りつけます。あと我々と長期契約などをしておくと実入りがあるかもしれません。しかしその場合は一定期間内に定数の納入が必要になるので、ビギナーにはオススメしかねますよ。ってこんな感じですね」


「それ以外の仕事だと長期は無理か」


「いえ」


 思案顔で腕を組んだタクに、受付はかぶりを振った。

 タクは「何かあるのかッ」と、無機質な石造カウンターに身を乗り出して、瞠目した聞いた。

 すると受付は眼前に迫る顔から身を引き、その整った眉根に一瞬の嫌悪を表したが、それもなかったようにすっと直った。


「しかし他の仕事となると手に職がついていないと厳しいですから。はっきり言って、無、理、の二文字ですね。それより、狩りはしないんですか? オススメですよ」


「お前はなぜそんなに狩りを勧める」


「仲介人はコレがもらえるんですよ。コレ」


 そう言ってその細く綺麗な指でもって丸く円を作ってみせた。

 つまるところ、金である。


「で、どうするんですか。手堅くと言うなら、低級狩りとかどうですか」


 淡々とした口調そのまま、手元のカバンからさっと資料を引っ張り出した。取り出したときに覗いたカバンは簡素な革仕様になっており、年若い彼女のものとは思えなかったが、花の装飾をしているところから彼女の年相応の少女らしさが垣間見えた。


「これ、手製ですがどうぞ。生息地などの大まかなまとめです」


「なんだ、これ」


「だから、大まかなまとめです」


「いやそれは分かる」


 タクの手の渡されたそれは地図の上にわかりやすく図までもを記したものであった。

 これならタクにも理解が出来る。意外な優しさにタクは彼女の評価をやや上方に修正した。


「すごいな……。これいくらする?」


「プライスレスですよ。実は私のところに来たのは貴方が初めてなので。一応ビギナーには全員に渡すつもりだったんですよ? でも人が来ないので」


「美人なのにな」


「あ、それは知ってます」


「おい」


「じゃ、死んで下さいね。じゃなかった死なないで下さいね!」


「……行ってきます」


 タクはやはりコイツは、と思い評価を下方修正し直した。

 踵を返し、資料に目を通しながら歩き出す。


「服装とか水、食料は金鳥亭にお世話になるか」


 コツコツと石床を踏む音が虚しく斡旋所に響く。

 これが冒険の一歩なのだ、と心の底で納得させた。


 タクの腰元には知らぬうちに一腰の剣が差されてあることには何故か気づけなかったのであった。






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