【CHANGE】
一週間と一日、大変お待たせしました。
何分最近は多忙でして、話の方もあまり進んでおりません。
よっしゃ書き終わる!……と思ったら、主人公がプロット通りに動いてくれなくて、プロットから書き直したり。
紆余曲折ありましたが、まあ! どうぞ!
「ピッ、ピカ〇ゥウ?」
「……出せもしないチャーミングな声出そうとしてんじゃねぇよ」
目前にいる男から出会い頭に発せられた言葉に苛立ち、ヒトシは思わず眉間に皺を寄せる。基本的に温厚なヒトシにそんな態度を取らせられる者は限られており、かつ元の世界のネタを知っている者となると一人に限定される。
「いやぁ、お前が幸せそうに頬を赤くしてるところを見ると殺意を覚えてさ? 何、見せつけられてる? 自慢されてる? お前の頭を心太のようにスッと断ち切ってやろうか?」
「頬を赤くしてるって字面だけ見るとラブコメ臭すげぇな!? いや実際はつねられ過ぎて腫れてるだけだけどな!? 本気で言ってるならその喧嘩は買ってやる、イサム!」
つい数分前にカリファと何故かウタを加えた二人に盛大に頬をつねられて、某電気ネズミのようにふっくらと真っ赤な頬を持っているヒトシ。こんな事ならチユを連れてくるんだったと後悔しながらイルシンクの元へ向かっていると、無駄に広い廊下の向かい側から二人の男が歩いてきた。
言わずもがな、イサムとその師シャバーニである。
どうやら訓練を終えた後らしく汗を流している姿に「モテるんだろうな、こんな姿でも」と殺意を覚えながらに声をかけてみると、第一声がアレであったのだ。
無論、ウタが周囲にも認識されている以上男女比一対二であるヒトシ側は、男しかいないイサムからすれば幸福にも見えるのは仕方の無いことだろう。……実際は二人が悪魔にも近しい存在であると知らないイサムからすれば、の話であるが。
閑話休題。
「で、どうしたんだよ。今から訓練って訳でも無さそうだし、大所帯でどこに行くんだ?」
「例の話、報告が上がったらしい。今からイルシンクに聞きに行くところだ。ちょうど良かった、お前も来てくれ」
「……ようやく、か。分かった、準備が出来次第俺も行くから先に行っててくれ」
アイコンタクトで互いの意志疎通を済ませ、無言で頷くヒトシ。一方シャバーニはそんな様子に首を傾げて問いかけてきた。
「例の話とは何の事でしょうか? カリファ、私は何も聞かされていないのですが?」
「……そうね。元々後で話す予定ではあったから、集める手間が省けるわ」
「……では」
「ええ、そこの子と一緒に貴方も来なさい。話は全部、イルシンクがしてくれるわ」
シャバーニはその言葉に頷き、ヒトシに一瞥してその場を去っていった。イサムはその背中に追従し、去り際にもう一度真剣な眼差しでヒトシを見た。
「やっと、だな」
微かに、イサムの口元が動くのがヒトシには読み取れた。
◇
リ・エリーゼ・モンタニア王国の王城、その本棟の上層部に国王であるイルシンクの寝室は備えられている。
訓練場や大食堂、謁見の間といった設備のある下層中層とは趣の異なる上層部の雰囲気に息を飲みながら長い階段を上った先に、それはあった。
石造りの壁が途切れ、現れる一際大きな両開きの扉。先頭を歩くカリファは一声かけることさえせず、それをゆっくりと押し開いた。
「……なんだ、無言で開け放つたぁ結構な登場だな、おい。そういう大胆さは人が寝静まった夜にしてほしいもんだが」
開かれた扉の先には、その体躯に合わせて相応の大きさになっている椅子に腰掛けたイルシンクがいた。
ヒトシと目があった瞬間に、待ちに待っていたとばかりに口角を上げるイルシンク。それは何かを企んでいるようにも思えて、無意識にヒトシは一歩退いた。
「如何にも待ってましたと言わんばかりのその顔を見るに余程ヒトシの話したかったようだけど、ちょっと待ってもらっていいかしら? まだ面子が揃って無いのよ。後二人、遅れてやって来るわ」
「ああそうかい。ま、とりあえず座れや」
イルシンクに促され、三人は揃って客人用のソファに腰掛ける。イルシンクが「頼む」と一声かけるとどこからかメイドが姿を現し、滑らかな動きで三人に紅茶を出した後、颯爽と姿を消した。
ある種の忍を思わせるその俊敏な動きに謎の敗北感をヒトシが感じていると、イルシンクが会話の口火を切った。
「面子が揃ってねぇんじゃあ話せねぇな。っつー訳で、要点だけ省いて軽く経緯を話しておく。まずヒトシ、お前の友人の安否だが――一先ず無事らしい」
「本当ですか!」
「ああ、再三に渡って確認した。清宮ハレって奴は確かに生存している」
イルシンクが口にした言葉に、ヒトシは自身の体を縛る鎖から解き放たれたように肩の力が抜けるのを感じた。
あの日目にした未来の光景。それが既に遂行されたものでないと知らされて、思わず安堵の息が漏れた。
「……だがな」
――が、イルシンクの言葉はそれだけでは終わらなかった。
「どうやら今から一ヶ月ほど前、清宮ハレの派遣先であるオクタグラム=マギに魔物の襲撃があったらしい」
「「……魔物?」」
ほとんど同時に声をあげたヒトシとウタに、隣に座っていたカリファが答える。
「人を喰らう悪鬼よ。奴等は暴力的なまでの力を持ち、高位なものになれば知能も獲得している。全ての魔物の共通点は、人を殺すために存在しているということ。分かりやすい話人類の脅威であり、転移者の敵よ」
「奴等は不定期に人間を襲う。しかも挑発のつもりか、わざわざ国の要である城を狙ってな。恐らく今回の件もその一環だろうが……思ったよりも被害が大きいらしい」
そう言って、イルシンクは明らかに表情を曇らせる。今までにそんな表情を見たことが無かったためか、その不安はヒトシにも僅かに伝播していく。
そんなヒトシを見たイルシンクは気丈に振る舞うように、いつものように盛大な笑い声をあげた。
「そう悲観的になるもんでもねぇよ。彼の国はウチとは段違いの国力がある。その城もたった一度の襲撃で揺らぐほど脆くはねぇさ」
「……? なら、一体何を指して被害が大きいと言っているのかしら? 人民や建造物が無事なら概ね損害は無いと言えると思うけれど」
「……転移者の数が半数になった」
「――っ!?」
「メニーディア王国からオクタグラム=マギまでの道中で二人が死亡、例の襲撃の件で一人が行方知れずだそうだ」
「そんなっ!?」
思わぬ虫の知らせに、ウタは身を乗り出して問いただす。
「一体……誰が亡くなったんですか?」
「死亡者の名前は届いてねぇ。生存者は伏峪レキシ、御幸ミユキ、清宮ハレの三名だ」
生存者として名前が出なかった、それは率直にその者の死亡を意味している。ウタは各班の構成を漏らさず覚えていたらしく、すぐに亡くなった者が誰なのかを理解してしまったのだろう。やがてその者の死を悼むようにブツブツと彼らの名前を呟き始めた。
そんなウタの姿を見て、密かにヒトシは自分の愚かさを呪う。
何を、安堵しているのか、と。
ハレの事にばかり目を向けて、その他の事には気が回っていなかった。危険から離されて生かされてきた自分達とは異なり、既に散ってしまった命があることに気が付いていなかった。にも拘わらず、自分の周りの事に安堵して彼らの死に目をやらなかった。
何より、それを自覚した上で尚、交流の無かった者達の死を本気で悲しめない愚かな自分が、堪らなく嫌になった。
「……ヒトシ」
そうして無意識に顔を伏せっていると、その背後から自分の名前を呼ぶ声がした。
ハッとして後ろを振り返れば、そこには服を着替えたイサムの姿があった。
「俯くな、前を向け。まだ、話は終わってない」
「……イサム?」
「過ぎた話はよそう。今はこれからの話だ」
「――っ、イサム! てめぇ!!」
――過ぎた話。
同胞の死をたったそれだけの言葉で片付けたイサムに、ヒトシは透かさず立ち上がってその胸倉を掴み上げた。
当然の事にも動揺した素振りを見せないイサム。その目は真っ直ぐとヒトシを見つめており、その意志は生半可なものではないことを示していた。
「……訂正しろ。過ぎた話なんて言葉で済ませていい話じゃない。そして今すぐ、ウタさんに謝れ」
「落ち着けよ、ヒトシ。お前らしくもない。お前はいつも合理的で熱くなることはない。それがお前らしさであり、強みの一つだろ?」
「いい加減にしろっ! 人が死んでるんだぞ!? 赤の他人じゃねぇ! 同じ学校の仲間だぞっ!?」
激昂するヒトシに対して、あろうことかイサムはそんなヒトシを突き飛ばした。
「いい加減にしろはこっちの台詞だ。死んだ奴はもう帰ってこない、そのくらいはお前にも分かるだろ? 今優先するべきは次に誰を失わないようにするか、だ」
「――」
ヒトシの叫びを諸ともせず、顔の皺一つ歪めることなくそう言い切ったイサム。その姿にヒトシの知るイサムの影は無く、思わず言葉を失った。
「どう……したんだよ? お前は、そんな事言う奴じゃない。俺の知ってるお前なら、きっと誰よりも死を悼むはずだ……」
そうだ、自分の知っている武田イサムは万能で、それでいて当たり前の感性を持っていた。当たり前の事を笑い合って、当たり前の事を悲しむ心を持っていた。誰かの死を、過ぎた事だとあしらうようなことはしなかった。少なくとも、修了試験を受けたあの日までは。
その答えは何よりも残酷に、彼自身の言葉をもって返ってきた。
ヒトシの悲鳴とも言える震えた声に、彼は考え込むように数秒顔を伏せ、また顔を持ち上げて、言ったのだった。
「死を悼むことが無意味だとは思わない。ただ――次に繋がらない死に、意味は無い」
次の瞬間、気が付けば口よりも先に手が動いていた。これ以上何を言っても無駄だと悟り、ありったけの感情を拳に籠めていた。
刹那、イサムの顔面に叩き込まれるヒトシの拳。加減も感情の抑制も忘れて振るわれたその拳は、寸分の狂いもなくイサムの左頬を捉えていた。
だが、その一撃はイサムの前ではまるで意味を成さない。仮にも転移後で強化された力で繰り出した一撃であるのに、それを受けたイサムは口を切ることもなくただヒトシを睨み返していた。
それはまるで、ヒトシの言葉が何一つ届いていない事実を再現しているようであった。
「……喧嘩は後で勝手にしろ。面子も揃ったようだし、余分なことはすっぱ抜いて結論から言う」
沈黙が広がる空間で、呆れ混じりの溜め息と共にイルシンクが口を開く。
「オクタグラム=マギがやべぇ。ウチは同盟国としての処置として、多田野ヒトシを筆頭に数名の転移者を送ることになった。だからこれは命令だ、多田野ヒトシ――友人を救え。そして、オクタグラム=マギを救え」
ようやく明確な命令が下される中、ヒトシはただ変わってしまったかつての友を睨み付けていた。
今回も読んで頂き誠にありがとうございます。
誤字脱字・感想等ございましたら是非お願いします。
一言でも作者のモチベーションは格段に向上します。
どうか今後ともよろしくお願いいたします。




