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【導かれし者ども】






 視界に映る物全てを呑み込むほどの光量を持った、光。そしてそれに伴って生じる浮遊感。突如体が空中に放り出され、その上臓器を握り締められるような圧力がタクを襲う。

 やがて、自身の体の感覚が消失する。音すらかき消した光の中で、たとえ聴覚と視覚が失われていても、それはハッキリと自覚出来た。


――身体が、分解されていく。


 指先などの末端から始まり、身体中を這うように徐々に身体がバラバラになっていく。抵抗など意味を成さない。金縛りにでもあったかのように、タクはそれを受け入れるしかなかった。

 そして、分解の波は胴体を全て蝕み、遂に首元にまで到達する。ああ、もう終わりか。タクが抗うことを止め、自身の死を受け入れようとした――その時、何故かタクの視界が戻ってきた。


 周囲にあるのは、変わらず白い光だけ。否、“光”と表現するより、影の無い白亜の壁に囲まれていると表現する方が適切だろう。何故なら、タクの目には確かに他の物体が見えていたのだから。


 タクの眼前に存在する物体、それは九つの柱だった。

 何の変哲も無い、ただの黒い柱。おおよそ二メートルほどの黒柱が、タクを囲むように立っていた。

 どうしてか、不思議とそれに惹かれた。触れてみたいと思った。

 だが、それは叶わない。タクがそれを実行するよりも前に、タクの意識は遠退いていった。




■■■■■




 そこは、草原だった。

 タクが次に意識を取り戻した時、そこに広がっていた光景に目を疑わずにはいられなかった。


 まるでアフリカの大自然に立たされているが如く、見渡す限りの緑と土の色が広がっている。空気も良い、鼻を通り抜ける澱みの無い吸気から、人の手が加わっていないことは明らかだ。

 遠くに街のような物も見えるが、周囲を山で囲まれ、山から流れる川の傍にあることから、それも自然と同調しているように見える。

 利便性だけを追い求めて自然を無視した造りではないそれは、有り得ないはずだ――現代の日本(・・・・・)では。


 周囲を見渡せば、あの教室にいたと思われる全ての者がタク同様その場に立ちすくんでいた。教師のレキシを初め、後から教室に乗り込んできた教師陣も同様である。

 何もかもが把握出来ていない状況で、最初に口を開いたのはレキシだった。



「……何が、起こっとるんや? ここはどこなんや?」



 誰もが内心で感じていたことを代弁した、レキシの言葉。

 それを口に出してしまったがために、瞬間タクは混乱が不安に変わることを恐れた。が、それは杞憂に終わる。何故なら――



 ガララ! ガララ!



 ――更なる混乱がタク達に降りかかってきたのだから。


 突然、タク達の耳に何かが転がるような音が届く。現代ではあまり聞きなれないその音に全員が眉をひそめて周りを見渡すも、それらしい影は無い。まるで知らない場所へと放り出され、自身すら見失いそうになっている生徒達は一斉にざわめき出す。このままでは統制が取れないと判断したレキシはすかさず声を上げた。



「アアッ、皆! ちょっと落ちつこか! このままやと乱起きてまうで!」



 レキシの言葉に生徒たちは一時的に落ち着きを取り戻す。例え口調は変であっても、それなりに信頼を置かれている証拠だ。



「一回、周りに友達がおるか確かめてくれるか? おらん奴おったら教えてくれ!」



 生徒が周りを確認して簡易的な点呼を済ませる。欠員は一人しか無く、その唯一の欠員も学校を欠席している木戸という生徒だけだった。


 全員の無事を確認して、ほっとしたのもつかの間。先ほどから聞こえていた音が次第に大きくなっていく。タクは以前の仕事で鍛え上げられた視覚と聴覚を総動員して、接近する音の正体を感知する事を試みる。


 次第に大きくなっていく音は、物と物がぶつかっているようで乾いている。恐らくは何かが地面を削っている音と認識して間違いは無い。問題はその何かだ。タクは遠くそびえ立つ城下町へと目を凝らした。


 見えたのは木製の馬車。二頭の馬が現代の自動車よりも大きい馬車を引いている。その馬車には数人の人間が乗車していた。しかも、それは一台では無い。おおよそ十台ほどの馬車が群れを成してこちらへと迫っていた。

 明らかな異変を察知して、タクはレキシへと耳打ちする。



「おい……何か近付いてきている。見た目からして恐らく馬車だが、こっちに友好的かどうかわからない。あらかじめ警戒した方がいいぞ」


「なんやて! そんなん、戦国無双やんけ!」



 相変わらず訳の分からない事をぬかすレキシを放置して、タクは改めて接近してくる馬車を睨んだ。当然ではあるが現代において、馬車はまともな交通手段として用いられることはまず無い。あったとしても観光目的か何かだろう。現実的に考えるのであれば、映画の撮影だと考えるところだが、どうにもタクにはそう思えなかった。確証は無い、だが今まで共に数々の仕事を片付けてきた自身の第六感は何よりも頼りになるものだ。


 レキシが馬鹿のように騒いでいる間に、馬車は既に目視出来る位置にまで接近している。教師陣も含めた全員が固まってその時を待っていた。そして、ついに馬車がタク達の目前で停まった。



「なんや! なんや! 囲まれてもうたでっ! 大混沌(カオス)がきてもうた!」



 気の狂ったレキシの言葉に呼応するように馬車から現れたのは、豪奢な衣服を身に纏った如何にも身分の高そうな男と鎧を着こんだその数人の護衛。どちらも現代では見かけない明らかに時代錯誤な服装だった。



「あなた方は異界から訪れた客人で間違いは無いでしょうか」


「異界!? 何言ってるんですか、ホンマ混沌カオスやわ!」


「この奇妙な身なりに言葉遣い。間違いない、やはり異界の者でしたか」


「――まあ少し待ってくれ。その話は、俺が受け持たせて頂こう」



 そう言って、自ら前へ出たのは具貂タク。タクとしては突然の出来事にいろいろと物申したい気持ちもあったが、まずはレキシが自分たちの基準とされるのを防ぐために自ら前へ出た。



「おお、まともに話が出来そうな方が居て良かった」


「こっちとしても状況が掴めてないから、詳細を聞けるというなら願ってもないことだ。……それで、話は?」


「ああ、そうでした。実はまだこの場で話を進めることは出来ないのです。良ければ私達についてきては頂けないでしょうか? あなたたちの安全は保障しましょう」


「なるほど。それが最善らしいな」



 現状が把握出来ていない今、下手に動くことは危険だ。その点、男の話ではタク達の安全は保障されている上、現状の理解にも繋がる。断る理由がまるで無い。



「だが、俺たちは移動手段を持ち合せてなくてね、一体全体どうすりゃいいのかって話になる。それに、どこまで行くのかも気に掛かるな」


「移動手段についてはこちらが馬車を用意しております。場所に関しましては――」



 一拍置いて、男は言った。



「メニ―ディア王国の王城まででございます」



 まるで聞き覚えの無い地名に馬車の存在。それらを基にタクは確信した。自分たちは今、もといた世界とは違う世界にいるのだ、と。





 ■■■■■





「ここが、メニーディア王国にございます。今いるのは、城下町前です」


「へえ……」


「既に関所には話が付いております。どうぞこちらへ。あっ、そこには段がございますので、お気を付けを」


 壁が、立ち塞がっていた。

 それは、そう形容するに相応しい、石造りの巨壁だった。


 その外観はまるで世界遺産のようにも見える。


「凄まじいなぁ。タっくんもそう思わんか? それに、道中の風景も……なんなんやろな」


「確かに不思議かもしれないな。緑は豊かで、道の凹凸には手が加えられた形跡が少なすぎる。この建物にしても、石造りで古風な様子だしな。あと、タっくんとは何だ?」


「いやー、その、親睦深めようと思って、なあ。……駄目かなぁ?」


「まあ、構わないが。それにまず、俺自体あんたとタメで話してるわけだろ?」


「確かに! ま、細かいことは気にすんなって一昔に誰かも言ってたしな。そんじゃあ、よろしく頼むでータっくん!」


「ワカチコってか。ま、改めてよろしく、レキシ」


「あのー、もうすぐで王城でございますので、お静かに……」


 王のいる城についたようで、二人は先頭の男に小声で諭された。

 

 周りを見ると、のんびりと会話しているのはタクとレキシだけであり、全員の視線が二人に突き刺さっていた。


「えと、ここから、城内に入っていきますね……」


 男の声に従い、タク一同は城内に踏み入った。


 時間の感覚が極めて薄くなっている。見るもの全てが新鮮で、脳がストレスを感じ始めているからであった。


 入ってしばらくで、王のいる間にたどり着いていた。


「よく参った。ご苦労だったな、異界の者たちよ」


 目下、タク達は、この国の統治者たる国王に謁見していた。


 その謁見の場はどうやら国王の玉座の間らしく、きらびやかな装飾の広い室内のやや後ろ中心に、無骨だが威厳を最大限に引き立てた玉座があった。

 その玉座に、髭を蓄えた白髪の老人が座していた。国王であった。


「そう固くなるものではない。お主らは客人である。それに、この空気では話しづらいであろう。それ、力を抜かんか、力を」


「申し訳ありません。少々私たちの現状の理解が乏しいようです。あ、名はタクと申します。それと……姓は具貂であります」


「うむ、タクというのだな。代表か」


 国王はうんうんと首を上下しながらしきりに納得している。

 そこに、王の御付きだと思われる男が遮る様に割り入った。


「国王陛下、お時間が」


「そうであった……記録書を書かねばならんのだった…」


「それだけではありません。この書類の束に判をお押し頂かねば」


「ぐっ…解した。それでは急ぎ足で概要を説明するぞ、異界の者たちよ。お主らには、魔物に対抗する戦力となり、各国に仕えてほしいのだ」


「はあ。……ん?」


「先ずはお主らの状況について触れておこう。何故お主らはあのような場所で立っていたのか分からぬであろう。無理もない。簡単にいって、そう、この世界に呼ばれたのだ」


「呼ばれた……この世界に? どういうことです。誰が、どういった意思で、なのでしょうか」


「まずはそこからであるな。とはいうが、我らも深く知り得ている訳ではない。この世で語り継がれた伝説によるものでな。一説にこう有る。『神明、世界を憂え、世界を安寧へと化するべく、異界より、者どもいざなう。此の者ども、招く事、善なるか悪なるか。者ども、装も言も違えり、メニーディアの地にて、ゆくゆく顕現するであろう。其の時、魔の紋、煌くなり』とな……」


 国王はタクを一瞥し、さらに続ける。


「そして先日神託が下った。呼ばれた者をこの世界に散らせろ、と。そこでお主らは各々他の国に行って経験を積むことになった。だが、問題があってな……。実は多くの国同士は不仲なのだ。それならば、と、この状況下のみ通用する協定を締結し、国が平等にお主らを引き取ってゆくことになった」


「御無礼を承知で伺います。引き抜かれた国での扱いや対応は安全でしょうか? 心の衛生が保たれる生活の保証はありますか?」


「うむ、その点は心配いらぬ。この世の者らは神への信仰が厚い。そして、お主らは神と関連が深い。よほどでない限りは安心せい」


 話がひと段落着いた瞬間、御付きの男が再度介入した。


「お時間が限界です、国王陛下。そして、国同士の議会も始まりそうです。どうなさいましょうか」


「あいわかった。タクよ、後の話は各々の国で聞くが良い。さらに重要な事が幾つかあるが、そういうものは国特有の儀式であることが多い。あと、同胞への説明はしておいてくれ。頼んだぞ」


「はあ、承知いたしました……」


 国王の意図を自己流に簡略した内容を、タクは理解しきれていない生徒と教師に説明する羽目となった。


 謁見の説明会が終わった後、タク達はそれぞれ、仮の自室に案内された。

 タク達を分配する会議は、もう少しで始まるらしかった。先程から城内を慌ただしく歩き回る従事者たちの姿が見える。


 タクは興味なく自室にいたが、呼び出され、会議に参加させられた。


 召喚者が全て割り振られ、会議はつつがなく終わった。


 そして、タク達は仮の自室に再度戻っていた。


 タクは道中、メイドに付き添われていた。だが、邪魔だとばかりに振り切って今はベッドの上だった。

 部屋は存外に広く、オレンジの炎が燭台から部屋に映りこんでいた。


 軽く睡魔に襲われながらも、タクは思考を巡らせていた。


(はあ、異世界に来たと思ったら、次は他国への移動、か。面倒はあまり嬉しくないが、今回の場合、九国で分けるとのことだった。すると大体五人ずつ、どこかの一班は六人になる。大体そんな感じで配当されるわけだ……)


 クラスの人数は三十九人、教師はタクを含め七人。合計四十六人だった。そして九つの国がある。そのうちの、教室に飛び込んできた教師五人はそれぞれ他国にバラバラになっていた。


 タクは手っ取り早く戦力になりそうな『教師』が欲しかった。しかし現実はそう甘くはない。


(俺たちのグループは唯一の六人だ。ここまでは良い。が、最悪な点は俺以外のメンバー五人、うち四人が生徒ということだ。しかも生徒は全員女子だったり。あと一人は、レキシなわけだが)


 レキシはまだ戦力になりそうである。

 女子生徒には最終手段として、魔法でも修得してもらおうか、とタクは考えていた。


 タクの配属国は魔法大国であり、エルフの治める国『オクタグラム=マギ』だったからである。

 

 オクタグラム=マギ。

 この国は長く魔法の研究を重ね、常に最上位に君臨している。エルフはヒューマンに比べると長い年月を生きる。そして若さを保つので、十分な時間と活力を割くことができた。研究の進度は依然として速い。そして持続性がある。

 国民のほぼ全員が魔法を扱え、逆に扱えない数名はあり得ないほどの魔力を内に宿すため、さらに長命である。


 長命なエルフは『ハイエルフ』などと呼ばれ、特に参謀として半生の経験を活かしている。攻撃として魔法を飛ばすことはなく、魔力で身体を強化しているという。


(明日は朝早くにメニーディアを出るらしいから、もう灯りを消して寝るとしよう)


 フッ、と光が消え、暗闇の中にはタクの呼吸音と高鳴る心臓が僅かに聞こえるのみとなった。





 ■■■■■





 タクがメニーディアから発って、数ヶ月の月日が流れた。



 国家間の移動はタクたちの思う程甘くはなく、村や町を幾らか経由した。しかし、この世界を知る上では相応の価値のある旅であった。



 道中で会った現地の人々に様々な事を教わった。



 例えば植物。食用のものから猛毒まで。


 例えば生き物。現地のものから伝説上のものまで。

 その特徴から行動、生息地域まで。


 タク一行はさまざまな経験を蓄えた。

 

 そして、時は動き出す。






第一話を読んで下さった皆様。

心から感謝を申し上げます。


当作品は数人の著者によって執筆されているために、文体がバラバラ、または物語がちぐはぐ、なんて事態が起きている事もあります。

あらすじではそれも味と思って下さい、と前置きしましたが、やはりそれは気になって当然の事です。

たとえ文体は味と認識出来ても、シナリオはそうはいきまそんから。


そこで、皆様に協力をお願いしたいのです。

どうか気になる点が御座いましたら、感想、酷評、賛否両論どちらでも構わないのでどうか一言宜しくお願いします。


そして、どうか今後も宜しくお願いします。

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