エギュンー7ー
ーーー数分前に遡るーーー
「人を不幸にする…?お前に俺たちの何が分かる」
ディテはガッカリした顔で大きなため息をついた。
「バルク、先にモーガンたちと合流して爆弾の設置に向かって」
ディテはバルクを睨んで「早く行って」というと、バルクは冷や汗を流しながら苦笑いし、そそくさとどこかに向かっていった。
「ごめんなさい。彼は感情的になり過ぎることがあるの」
「わざわざ嫌味を言いに来たのか?もういい、放っておいてくれ」
女の兵士は去るどころか、その場に座り話を続けた。
「この研究所で何が行われているのか知ってる?」
「いや…」
「悪魔との契約の自由化。つまり貴方たち一族以外にも悪魔との契約を可能にさせる実験」
「は?あり得ない。そもそも悪魔は俺たち王族だけが悪魔と契約できるんだ。血族でない者が悪魔を呼び出すことすら不可能だ」
「現に悪魔と契約した兵士たちが戦争に加担しているの。そして、暴走した兵士は降伏した国を占領し、無抵抗な一般人を虐殺している…」
「そんな…」
「このままじゃ、人間は悪魔に支配される。なのに…悪魔の力を利用しようと実験を続けている」
「俺には…関係ない」
「悪魔と戦うには、貴方の力が必要になる。お願い、私たちに協力して」
「…悪いが、俺には戦う理由がない。協力は出来ない」
「え?どういう…?」
「いいから放っておいてくれ。俺に出来ることは何もないんだ!」
震える拳を壁に叩きつけた。痛みを感じるのに、震えはまだ止まらない。
「もし、貴方の妹が犠牲になってるとしても…?」
「何を言って…?」
「この実験には貴方の妹の悪魔が使われている」
「何を言っている…んだ」
「もしこのまま彼女が悪魔を呼び出し続ければ…」
「やめろ…それ以上言うな…」
「私は彼女も助けたいの…ウィル王子」
『モーガンだ。いつまで時間かけてんだ?実験体として捕まっていたやつらは逃して、今は研究室の近くにいる』
腕につけていた通信機からモーガンの声がした。
『おっさん!バルクだ。今ちょうど俺も研究室の近くまで来てるぜ』
「ディテよ。私たちもすぐに向かうわ。みんな、気をつけてね」
『『了解』』
「俺はお前たちを信じない。お前と行く気はない」
「ここに居ても爆発に巻き込まれて死ぬだけよ」
「…それが何だ?」
「貴方の妹は今以上に残酷なことをされるかもしれない」
「………」
「お願い。今は協力するかは考えなくていい。ただ貴方には知る義務がある。この場所で何が行われているのか。そして、この世界で何が起こっているのか」
「………」
「死ぬのも、戦うのも、それからでも遅くないはずよ」
ウィルは俯くように頷き、立ち上がると、コンクリートの冷たさが素足に伝わった。
「時間がない。急ぎましょう。ついてきて」
おぼつかない足を一生懸命動かし、ディテの後を追った。