曖昧な記憶ー3ー
「500年ほど前、戦争を止めようとした王が悪魔と契約し、戦争を終わらせたという話は知っているか?」
4人は頷いた。
「実際には王ではなく、その妃が契約を結んでいた、というのが真実だ。その悪魔は妃の寿命を食い尽くした後、一時的に次の妃の体に憑き、子を授ける。そして子どもが生まれると女の子どもに取り憑き…それを永遠と繰り返してきた。だが、王宮にある古い資料にも、どうやって戦争を終わらせたのかは載っていなかった」
「ちょっと、待て。もともとは1体の悪魔だけだったのに、なんでお前が悪魔を持ってんだよ!?確か、生まれる時から居るって言ってたよな?」
「ああ。だが、それについては詳しくは知らない。憶測で言うなら…悪魔が取り憑いている女を守る為に、他の悪魔を俺に取り憑かせているんだと、俺は思っている」
「女を守る?戦争を終わらせることが出来る力があるのにか?」
「悪魔も殺されれば死ぬ。当然だ。だからこそ人に取り憑き、誰かに守ってもらうことでそのリスクを減らしているんだろう」
「そういうもんなのか…?」
「それに、妃と契約した悪魔、今は俺の双子の妹に憑いているが、その悪魔はかなり階級の低い悪魔なんだ」
「「「え!?」」」
「正直俺にも、その悪魔が戦争を止められるのかは疑問だ」
「おい、おい、話が違うじゃねぇかよ。てっきり、大陸を一発で吹き飛ばすような破壊力があんのかと…」
「俺の知る限り、そんなものは持っていない」
「そんな…」
4人は落胆したようだった。
「それとは別に、俺たち一族の血を引く者は、悪魔と契約を交わすことで、悪魔を支配下に置くことが出来る。代価を支払うことになるが」
「それって、何かと引き換えに悪魔を呼べるってこと?」
「ああ。王宮には冥界、つまり悪魔の世界に続く部屋があって、そこで儀式をすることで悪魔を呼び出すことが出来るんだ。そして契約する」
「王宮に、そんなものが…」
「今日のあの人喰い悪魔とも契約したんだよな?」
「ああ。だが普通の契約とは少し違う。契約は人間と悪魔が対等に結ぶものだが、今回は忠実な使い魔としての契約だ」
「は?どう違うんだよ?」
「簡単に言うと、代価なしで自由に悪魔を呼べる」
「それ、反則だろ!無敵じゃねぇか」
「それは違うな。使い魔は主人との力の差があるから従う。つまり使い魔はそれ程強くない場合が多い」
「それ程強くないって…」
バルクたちは悪魔が兵士を喰い、ヒロセを引き裂いたことを思い出した。
「………」
「かなり強いだろ!!!」
「ねぇ、ねぇ!ウィル君!ぼ、僕にも契約って出来る!?」
ベルガンが目をキラキラさせながらウィルを覗き込む。
「それは無理だ。今言ったように一族の血を…持たない限り…」
ウィルは妹のことを思い出していた。
「王子…どうかしたのか?」
冴えない表情をしているウィルをモーガンは不思議そうに見ている。
(奴はなぜアルの悪魔を…?そして代償のことも…?だが、どうやってそれを…)
「なーんだ、出来ないんだー。残念」
ベルガンは特に気にする様子もなく、自分は契約出来ないと分かるとすぐに興味を失い、自分の寝袋に潜る。
「僕、疲れたから寝るよ」
「そう言われると眠気が。ふあああ〜ほはろあほはろお寝るか」
「おっさん、喋りながらあくびすんなよ」
「そうね。王子、今日は色んなことがあって疲れたでしょう?少し休みましょう。こんな寝袋しかないけど」
ウィルを心配したディテが余分に持ってきた寝袋をウィルに渡す。
「…そうだな。ありがとう」
話が終わると、モーガンはベルガンの近くに寝袋を置いてそこに横になった。
バルクやディテ、ウィルもそれぞれ準備をして横になる。
牢獄の硬いベッドに慣れていたせいか、寝袋も悪くないな、とウィルは思った。