曖昧な記憶ー1ー
アジトと呼ばれる場所に着き、ウィルは辺りを見回していた。
研究所の近くにある倉庫のシャッターを開けると地下道へと繋がる階段があった。下に降り、そこにアジトがある。
「研究所を建てた時に材料を運ぶ為に作られたものなんだけど、施設が建ってからは特別な機材を運ぶ以外に使われていなかったみたい」
「そうか…」
アジトと呼んでいいものなのか疑問に思うほど簡易的で、あえて言うなら、荷物置き場 に近い。
バルクは手慣れた様子で火を焚きお湯を沸かして、5人はその周りに座った。
「はい」
ディテはウィルにマグカップを渡す。
「こんなものしかないけど…」
お湯に何かの粉を混ぜたもののようだ。湯気からほんのりレモンの香りがする。
「ありがとう」
バルクはウィルに近寄り
「なぁ、そろそろ教えろよ」
と、顔を覗き込んだ。
「何をだ?」
「なんであの悪魔はお前を攻撃しなかったんだ?てかあれは契約なのか?てかてか…」
「ちょっと、バルク待って。こっちが色々聞く前に私たちのことを説明する必要があるわ。自己紹介すらまだなのよ」
「えー」
「ホント、バルって落ち着きないよねー。子どもみたい」
「んだと、こら。子どもはお前だろ、チビ!」
バルクとベルガンの幼稚な言い争いを無視し、「俺から話そう」とモーガンが話を始めた。
「俺の名前はモーガンだ。そこにいる少女はベルガンという。俺たちはあんたたちが治めてた喃堺の同盟国の一つ、燜の者だ。俺たちは武道家として国では有名な名家だった。…ベルは俺の姪にあたる」
「え、親戚だったの!?」
「バルク、話の腰を折らないで」
「はい…」
「喃堺は小国である燜に平等の条約を結んでくれていた。そのおかげで国は平和だった…
しかし…、喃堺で戦争が起こり、喃堺が滅んだ後、ヤツらは燜を植民地にした。俺たち武道家は戦うことを選んだが、圧倒的な軍事力に太刀打ち出来なかった…。家族は全員死に、生き残った俺は幼いベルを守るため他国へと逃げるしかなかった。
しばらくは身を潜めていたが、生きる意味が分からなくなって…気づけば爆薬を盗み出し、復讐する覚悟を決めていた。奴らの拠点だった研究所を吹っ飛ばしてやろうと思ったんだ。
本当…今思えば馬鹿な話だ。あそこには燜みたいな小国の犠牲者がたくさん捕まっていたからな…」
モーガンはディテを見た。
「私の名前はディテ。それとバルクよ。私たちはもともと兵士として、モーガンが爆破しようとした研究所に居たの。私もバルクも昔の記憶が曖昧で、何で兵士として居るのか、これが本当に正しいのか訳が分からなくなっていた時だったわ、モーガンが爆弾を抱えて研究所に乗り込んできて…」
ディテとモーガンは目を合わせ、クスッと笑った。
「あの時は本当に可笑しくなってた。敵であるはずのディテたちに俺たちの話をしてた」
「私たちもよ。爆弾を持ってる危ない人の話をいつの間にか信じてた。そして私とバルクは真実を知るために研究所であらゆることを調べ、そして貴方と貴方の妹が生きていることを知ったの」
「妹がどこに居るのか知っているのか!?」
「…残念ながら。私たちは生きてるってことと、貴方が北の研究所に居るということだけしか分からなかった。重要なことは一部の人にしか見られないようになってたの」
「…そうか」