エギュンー終ー
バルクとディテは目を合わせた。
「みんなお父さんもお母さんも兵士に連れて行かれちゃって、僕らはここに連れて来られたんだ。何となく分かってるんだ、逃げてもどうせ行くとこないし、凍え死ぬだけだって」
5人は残酷をことを淡々と話す少年をただ見つめていた。
「ここ、爆破するんでしょ?だから僕たちは…ここで…みんなで死ぬことにしたんだ」
「何を言って…」
「せっかく助けてくれたのにごめんなさい」
「そういうことじゃ…。ディテ、俺たちで何とかこの子たちを…」
ディテとバルクはモーガンから顔を逸らす。
「お前ら…」
「私たちに出来ることは…何も…ないわ」
「ディテ!王子、あんたの力なら何とか出来るんじゃないのか!?」
モーガンがウィルにしがみつく。
「悪いが俺はただの悪魔憑きだ」
「そんな…」
「良いんだ、おじさん。ありがとう」
幼い少年の細い腕が震えていた。
「くそぉ…。すまない。すまない…」
「おじさんのせいじゃないよ。これ、おじさんにあげる」
少年は身につけていた首飾りをモーガンに渡す。
「お守り。兄さんに貰ったんだけど、僕は大切に出来なそうだからおじさんにあげる。僕の代わりに持ってて」
モーガンはその首飾りを受け取ると、強く握りしめた。
「ああ…、ありがとう。絶対失くさない、大事にする…」
「うん。そろそろ爆発しちゃう、早く逃げて!」
ディテとバルクは出口に向かう。つられるようにウィルとベルガンも向かう。
「おじさんも早く」
涙を溜めた少年は精一杯の笑顔をモーガンに見せる。
モーガンは出口に向かって走り出した。一度も振り返ることなく。
子どもたちは身を寄せ合う。自分の不幸な人生を嘆くことすら出来ないほど幼い彼らは、ただ目を閉じ、最期の一瞬まで小さな願いごとを心の中で何度も唱えた。
5人が橋を渡りきるとほぼ同時に研究所は大きな音を立てて爆破し、建物は氷ごと砕け、子どもたちを連れて海へ沈んでいく。
大きな爆発にも関わらず、煙は吹雪にかき消され、最初からそこに何も無かったかのように海が広がっているだけだった。
「くそぉ…。俺たちは…間違っていたのか…」
モーガンは研究所だったところを見つめた。
「そんな訳ねぇだろ!研究所がある限り犠牲者は増え続けるんだ」
「そうよ。私たちが行動を起こさなければ、あの子たちはもっと辛い目に遭い…殺されていたはずよ」
「でも…」
モーガンは膝をつき、地面を叩く。しかし腕がただ積もった雪に埋もれただけだった。
「こんなところに長居してたら私たちも凍え死ぬわ。今はアジトに戻りましょう」
ディテはウィルを見る。
「ついてきて。詳しい話はそれからよ」
「ああ、分かった」
バルクはうな垂れるモーガンに肩を貸し一緒に歩き始め、ベルガンはディテと手をつなぎ見失わないように進んだ。
ウィルはもう一度海を見てからディテたちの後を追った。
冷たい深い海に少年は静かに沈んでいく。
光の届かない海底で少年は眠るように目を閉じ、そして穏やかな笑みを浮かべていた。
(神様…)
(僕らが生まれ変わる頃にはきっとこの世界が平和でありますように)
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。こんな感じでまだまだ続きます。