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〈参〉2

遅れて到着した男は、金髪青眼、赤と黒を基調にした柄のジャケットを着ている。階段から社近くの三人に向かう男に気づいた茶髪は、遭馬の傍を離れて男に注目した。


「おーっと、噂の切り裂き魔さんのご到着だ。よお、あんたの噂はかねがね聞かせて貰ってるぜ。カティル・ザ・リッパーさん」


「ぁア?」


茶髪は軽々しくジャケットの男―――カティルの名を呼んで絡み始めた。この男、基本誰かに構っていないと仕方ない性格らしい。

遭馬の次の標的になったカティルは、茶髪に話し掛けられてとても迷惑そうに、あからさまな嫌悪の表情を取ったのだが、茶髪はお構い無しだった。


「最近ロンドンを賑わせて『切り裂きジャック』の再来なんて呼ばれてるあんたと仕事が出来るなんてなー? ハハッ、俺興奮しっぱなしだぜ」


「…あー、何なんだろなテメェ」


「なあなあ、あんたの英雄伝、是非聞かせてくれよ。そこのお二人さん無口でさー、ずっと暇だったんだよな」


「知るかよ」


「そう言わずにさ。今まで何人殺したんだ? ネットのニュースで観た時は百人近くいたよな。その他にもいるだろ、発見されてない奴とかさ」


「…」


「“コレクション”も相当溜まってるんじゃないか。いや俺には理解出来ねーけど、あんなもん集めてるあんたとしては、どう思ってんのかなー?」


「……ハァ」


会話を求めている筈なのに、一方的に喋るので話にならない。カティルは茶髪の扱いに困り、溜め息混じりにジャケットの懐に手を伸ばした。そこにある取っ手を掴んで茶髪を一瞥、無表情のまま引き抜こうとする。


「皆様、此方に御注目下さい」


が、寸前で社の方から声がして手は止まった。

茶髪は喋るのを止め、遭馬は視線だけを社の奥に、巨体は反応する素振りも見せない。最後にカティルが手を引っ込めたところで、社の壇上に立つ赤色の式神が丁寧に頭を下げた。


「本日は夜分遅くに御足労頂き、ありがとうございます。これよりこの社の主、丕阿波(おおあば) 李稔(りねん)様からの御言葉があります。御静粛に」


言い終わりにまた一礼、すぐに脇に退いて顔を臥せる。その間に茶髪が、


「お、可愛いじゃん。もうちょい年齢が高かったら狙ったのになー」


などとほざいたりして。


「『切り裂きカティル』も指定時間外だが着いたな。多少の遅延は見逃そうか」


社の奥から紫紺のを纏った四十代後半の男が現れ、境内にいる四人を見渡した。

男は歳より深く刻まれた皺を震わせ、周囲の霧を打ち晴らす高らかな声で挨拶する。


「急な呼び出しに応じてくれ、感謝しよう。この場で初めて対面した者もいるだろうから、先ずは自己紹介だ。―――私の名は丕阿波李稔。これから明日の明朝までお前達の主となる者だ。名は覚えたければ、覚えていろ」


不敵な笑みで、大敵な物言いで言い放った。

四人は其々思い思いの反応を示し、丕阿波李稔は構わず続けた。


「さて、こんな夜更けに呼び出したのは他でもない。件の催しのスケジュールが決まったのでその打ち合わせをしたい。…のだが、悪いがその前に予定を変更だ」


「変更?」


茶髪がいち早く問い返す。

李稔はそちらへ頭を動かして、


「おいおい、こんな山奥まで人呼びつけといて、まさか依頼を無しにとか言わないよな」


「そのまさか、だ。先方がこちらの要求を拒んでな、数を減らすか、枷を付けろと言ってきた。ということで…」


近場の店にお使いでも頼むような気軽さで、茶髪と他三人に言った。




「数を減らそう。各自、自分より劣るだろうと判断した者から順に“殺せ”」




「…ハ?」


聞いて、口をあんぐりと開ける茶髪。李稔の言葉の意味を理解するのに少し時間を要し、その間にカティルと巨体は、


「ハァン。そいつはなかなか愉快だなァ」


「・・・、」


懐に携帯する吊り鐘状の刃のナイフを今度こそ取り出して、もう一方はやはり動かないまま静観した。

カティルが凶器を出したことで茶髪は慌てる。李稔の指示通りに動くなら、真っ先に殺されてしまうのは、


「お、お、お、おい! 待て待て待てよ、この中で一番弱いっつったらそりゃ………ッ!」


「つまらない、余興だ」


チン、と。

境内に鍔と鞘が当たった音が鳴った。

血相を変えて騒いでいた茶髪は振り返って見ると、離れた場所にいた遭馬が腰の黒刀に手を掛け、フッと息を吐いている。

おかしい、と茶髪は思った。遭馬は柄を握ったままどうすることもなく、うんざりした様子で背を向ける。

まるで何かをし終えたみたいに。

手間の掛かる用事を済ませたみたいに、刀から手を離して李稔に問い掛ける。


「他の二人も、殺せば良いのか?」


他の、二人も。

恐らく、カティルと巨体を指している。

ではもう一人は?




茶髪の男は、自分は、遭馬が“刀を抜いて鞘に戻して”、その後どうなった?




「は…ハ? ………ぁ、」




気づいた時には、手遅れ。

たった一センチ、それだけ身体を動かしただけで変化が現れる。

途端に下半身から感覚が消えて、上半身はグラグラ揺れて傾き、




「ハ、ハ…ァ、ぁァァアアアアアアアアアアアアアアアア!??」




茶髪の男の半身が落ちた。

残った半身もすぐに後を追い、一緒に石畳の上に転がる。切り口から大量の血液が流れて男のパーカーやパンツを濡らし、男は遭馬に何をされたのかも判らないまま、こと切れた。

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