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〈弐〉6

≪ウフ…ウフフフ……アッハッハッハッハ………ッ≫


情報屋は笑った。

紫煙が揺らめく部屋の中、人一人を難なく殺して。

ベッドに腰掛けたままの身体と畳に落ちて揺れる頭を見下ろして、とても愉しそうに笑った。

意思を無くした身体はゆっくり傾いでベッドに倒れる。

口にくわえていた煙菅が音もなく外れる。

生命の色を失った生首は無表情だった。

憑物という少年がたった今死んだ。

その事実を視っていたのかどうか、彼は驚きもせず、恐れもせず、あるがままを受け入れて、




「これだから面倒なんだよ。お前が来ると」




生首が、喋った。

と思えば今度は身体が、頭を欠いた状態で起きて自身の首と煙菅を掴み、立ち上がる。よくよく見ると血が一滴も出ていない。

髪を掴み、ブラブラ揺れる憑物(の頭)を見て、情報屋は腹を抱えて大笑いした。


≪プーッフッフッフッフ! お憑かれさんそれ、最高です! サイッコーですよアッハッハッハッハッ≫


「笑いすぎだ」


お手玉して下さいお手玉、と情報屋が要求し、ならお前の頭も寄越せと憑物は返す。何だかとっても愉快な二人だった。

ひとしきり笑い終えた後、情報屋は感心したように改めて憑物を見た。憑物は頭を首に押し当て、元通りに戻しているところだったが、


≪いやー、流石ですねぃ。手に取ってすぐに扱いこなすなぁんて≫


「相性が良かっただけだろ。性質的に、俺とこの器はかなり近いし」


≪はぁん。で、それの名前ってなんですぅ? 俺、使えた試しないんで知らないんですよぅ≫


聞かれて、憑物はもう一服し、


「…ピオ・レバイア」


唱えるように、煙菅の冠し名を詠み上げた。




「【夢幻】―ピオ・レバイア―だ」




≪夢幻、ですか。お憑かれさんにピィッタリな名前ですねぇ≫


「嬉しくはないな」


≪おやどぉして?≫


「世界には現実しかない」


情報屋はもう一度はぁんと頷いた。きっと理解はしていないだろう。


≪んー、ではではぁ、俺はそろそろ帰りますねぃ。本当はこれを言いに来たんですよぉ≫


今度こそ用が無くなった情報屋は快活に別れを告げた。その物言いから考えるに、情報屋はもう憑物には逢えないことを示している。

情報屋の言わんとしていること、それを視通した憑物は、


「帰るのか。向こうの世界に」


≪えぇ、アッチの方も一段落ついたみたいですしねぇ。多分、もうお憑かれさんには逢えないと思いますので、さよならぁを≫


「そうかなら永久にさよならだ。いや残念だな悲しいな。情報屋に二度と逢えないなんてまさに盆と正月が一度に来たみたいだクハハハハ」


感情の一切を込めない見送りをした。

情報屋はニッコリ笑顔で何も言わず、クルリと反転。ベランダの窓をすり抜けて外に出て、

帰るのかと思いきや。


≪あぁっと、そーいえばぁ、もう一つ聞きたいことがありましたぁ≫


ガラス越しに振り返って、思い出したようにまた終わった話を持ち出した。

それは憑物が受け取った、一通の招待状と陰陽師のことについて。

もう寝るのは諦めて暇を潰そうか、しかし無趣味だから潰せるものがないなどうしよかとつらつら考えていた憑物は、仕方なく、面倒そうに、話に応じた。


≪お憑かれさぁん、ホントに招待を受けるんですかぁ?≫


「嗚呼」


≪必要ないのに?≫


「…」


ストレートな言及に、憑物の口が閉じる。


≪管理者との約束はもう守らないんでしょぅ? ならぁ、お呼ばれしたからって、行くことないですよぉ≫


「それは」


≪やっぱり、忘れられません?≫


「……」


≪それともぉ、他に理由があるとか………≫


「情報屋」


弁舌なドレッドヘアーに向き直り、言葉を遮った。

見た目は今までと変わらず、気だるげな様子の憑物は、




「そんなに“私”に壊されたいのか?」




絶対零度も下回る冷たい声で、

全てを射抜く視線で、

何者をも一掃する威圧感で、




硝子一枚隔てた情報屋という存在を、呑み込む。




それでも。


≪…口が過ぎましたねぃ。じゃまたぁ、何処かで逢ぁいましょ〜≫


圧倒されて尚、情報屋は剽軽な調子を崩さずに、もう一言だけを残す。

いつかの天邪鬼が放った言葉を、口にする。




≪まだまだ死んだら駄ぁ目ですよぅ、お憑かれさぁん≫




「死んでるお前に言われたくない」










部屋には、一人だけが残された。

此処にはもう暗殺者も、式神も、幽霊も、管理者も、誰も居ない。

仮面を剥いだ一人の道化師しか、いない。

道化師は月光に照らされ、幽霊の言葉を反芻し、考えに耽る。


(必要ない、か。判ってないな情報屋。それを言うなら、この空間でお前と逢う必要も無かったよ)


陰陽師の招待。

行われる死戯。

式神との過去。

天邪鬼を連れて。


(ずっと待ち望んでいたんだよ。けれど、同じくらい、ずっと来なければ良いとも想っていた)


あの日、あの刻。

かつての神童を壊し、

天邪鬼へと至った。

その先を、視る為に。


(明日だ)


あの日、あの刻、視ることの出来なかった事柄を、確認する為に。


(明日、結果が判る。明日、答えが表示される)


選べ。


選択しろ。


二つの内、一つを。


(その刻、俺は………)


最たるものの、どちらかを。


(私、は………)







サア、エラベ。







サイアクトサイゼン、ソノドチラカヲ。







クネンチカクモ、マッタンダ。







エラバナケレバ、ナラナイ。







ダカラ、エラボウ。







フタツに、ヒトツ。







セイカ、シカ。







イカスカ、コロスカ。







ミルカ、ミナイカ。







ミトドケルカ、メヲツブルカ。

〈弐〉赤紙と招待状 の要点!


その一、

書き直し前と後の管理者が別人。

一応補足すると、第一部の〈???〉に出てきた管理者が後任者、第二部で過去の憑物と接点を持つのが前任者。

書き直し前の本文に書いてたけど、この管理者は視る眼シリーズではあまり話には関わりません。あしからず。


その二、

幽霊以外のオカルトキーワードが出てきた(式神とか陰陽師とか)。もう少ししたら天使も出てくるから、ジャンル通りファンタジックさが増すと思う。


その三、

脇役・井和木が本当に脇。てか、可哀想。せっかく名前も付けられたのに。名前ついてて脇っていうのは、やるせなくなると思いません?。


その四、

情報屋が基本、小説の世界観に囚われていないから自由に書けて楽しい。…ええ、駄目なのは判ってます。ちゃんと縛れって話です。


その五、

視る眼シリーズを『シリーズ』にすると決めた時から出そう出そうと決めていたので悔いはないけど、自分のH・Nをキーアイテムに名付けるのはやっぱり如何なものかな〜と後悔。フフ、矛盾してる。


その六、

なんの問題もなければこのまま〈参〉濃霧に紛れる囁き を書くんだけど、同時執筆している自小説が完全停止しているし、後弐遍を書けば終わりなので、そっちを優先すると思うので先に謝っときますご免なさい。




それと、敬語でなくなっているのが気に障ったらご免よ。その場の気分だから気にしないで。

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